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34歳のフリーター

俺が会社を辞めることになった原因とも言える、俺の元憧れの人「佐久間佳奈」。俺の元上司である彼女に、さんざん遊ばれた挙句、こっぴどく捨てられた。


そんな俺と、幼馴染にそっけなく見放された中学2年生の伊々野小春。二人を取り巻く状況は異なっているが、目指す目標は同じだ。それは、自分たちをこっぴどく見放した奴らを見返すこと。そいつらよりももっと立派な人間になって、彼らのことを見返してやるという強い意志がある。


この物語は、34歳のフリーターと14歳のチアガールという、似ても似つかない二人が、それぞれの傷を抱えながらも、自分たちを裏切った人間たちに立ち向っていく物語!

俺は、かわいい幼馴染がいる男を絶対に許さない。自分でモテるための努力もせず、家がたまたま近所という理由で可愛い女の子と友達になれるなんて、納得がいかない。


34歳にもなって一度も彼女ができたことがない俺は、こんな独り言をぼやいている。


「目標」とは、自らのひたむきな努力によってのみ叶えられると、俺は生まれてこの方ずっとそう思って生きてきた。例えば、テストで良い点を取るために勉強する、仕事で結果を残すために上司の期待に応えようとする。どれもそうだ。この世のすべての人々の願望は、自ら努力することでしか叶えられない。


それは可愛い女の子と友達になりたいという願望も例外ではない。スポーツを頑張ったり、おしゃれに気を使ったりと、たゆまぬ努力をし続けなければ大成できないのだ。


しかし、この世の中には一部の不条理も存在する。その代表例ともいえるのが「幼馴染」だ。幼馴染とは、親同士の付き合いなどの環境要因によって、何もせずに幼い頃から異性の友達を持つことができるのだ。家がたまたま近所だったり、親同士が仲が良かったりする理由で、何の努力もせずとも可愛い女の子と友達になれたりする。


しかし、すべての男性がこの幼馴染をゲットできるわけではない。仮に同年代の女の子が近所に住んでいたとしても、たいていの場合、その女の子と接点を持つことは難しい。多くの場合は、ご近所さんという関係で終わってしまうだろう。


おそらく世の中にいる男性の99.9%以上が、近所に住む女の子とただのご近所さんという関係性で終わる。しかし、残りの0.1%の神様から選ばれた幸運な男だけが、近くに住む女の子とご近所さんという関係性を超えて「幼馴染」という関係性にランクアップできるのだ。


しかしこの0.1%という超低確率な関門をクリアできたからといっても、安心はできない。なぜなら、そのゲットできた幼馴染の女の子と性格が合わなかったりしたら、その関係性も長くは続かないからだ。


もっとも、その幼馴染が可愛くないと、そこから先のラブコメ展開もやってこない。つまり、それらのあまりにも大きすぎる複数の関門をクリアできた者だけが、中高生になってもその可愛い幼馴染との関係を続けられるのだ。


たぶん、男が1万人いたら、可愛い幼馴染と中高生になってイチャイチャできるのは、多くて1人か2人だろう。確率としては0.01%にも満たない。


つまり俺がここまでの話を通して言いたかったのは、俺はその0.01%にも満たない、何の努力もせず偶然にも可愛い幼馴染とイチャイチャできてしまっている男が許せない、ということだ。いかにも、生まれてこのかた34年間何の努力もせず独身で彼女もできたことがない、現在フリーターの俺が言うのはおかしな話だが。


とある土曜日の夜、俺は栃木県真岡市某所で開催される「東郷秋祭り」というお祭りの警備アルバイトとしてイベント会場の見回りをしていた。外ではしとしとと雨が降っている。薄暗い街灯の光が濡れたアスファルトに反射し、まるで小さな星が散りばめられたように見える。雨粒が傘を叩く音が、祭りの賑わいの中に静かなリズムを刻んでいた。人々は雨に濡れながらも笑顔で、色とりどりの屋台や提灯の明かりの中を楽しそうに歩いている。俺の制服の上からも水滴が伝い、何とも言えぬ肌寒さを感じさせる。


いくら下にヒートテックを着ている俺でも、10月の夜の雨は骨が凍る寒さだった。昼の13時から始まったこのお祭りもそろそろフィナーレを迎える。あと15分ほどで20時になると、メインステージ正面にそびえたつ東郷山の麓から花火が上がる予定だ。


俺たちが住むこの真岡市東郷で年に一度開催される「東郷秋祭り」のフィナーレにふさわしい催しだ。きっと15分後には、この夜空の一面を鮮やかな花火が咲き誇る。そしてこの夜の花火のことを、この祭りに参加した皆が一生の大切な思い出として深く心に刻むのだろう。


のべ1000人以上が訪れたこのお祭りももう少しでおしまいだ。俺はこの祭りの間ずっと警備をしていたため、祭りのブースやステージ発表を見に行けず、お祭りらしいことは何もできなかったが、それでも祭りのフィナーレともなると、少し感慨深いものがある。


会場では、家族連れやシニア、地元の学生など、地域のさまざまな人々が訪れていた。そして皆、お祭り独特の非日常的な雰囲気を噛みしめていた。そんなお祭りもそろそろ終わる。あと少しでメインステージの方から花火が上がるらしい。


会場の皆は続々とメインステージの方に向かっていた。皆花火をより近くで見るために、我先へと群衆を押しのけながら歩いていた。すごい熱気だ。俺もこの熱気に押しつぶされそうになるが、俺には警備という仕事が残っているので、そうはできない。


俺も皆と同じようにメインステージの方に花火を見に行きたいが、もし仕事を放棄してしまったら減給なので、そうはできない。俺は、メインステージとは反対方向に歩いていた。なぜなら、俺はメインステージとは真反対の位置にある町内図書館でまだ仕事が残っているからだ。


どうやら町内図書館ではさっきまで細々と何やら催し物が行われていたらしい。祭りのパンフレットにそう書いてあった。


俺はいまからこの町内図書館の玄関の施錠をしに行かなければならない。そのため、俺はメインステージとは反対方向にある図書館へと向かっているのだ。


図書館に近づくにつれて、さっきの喧騒が嘘だったかのように人っ子一人いなくなった。図書館の周りはシーンと静まりかえっていた。図書館周辺の街灯はもう消されていて、辺りは薄暗く奇妙な寒気を感じていた。


俺は図書館に着くと、持っていたマスターキーを使ってまず正面玄関を施錠し始めた。辺りは暗闇に包まれ、静まりかえっている。


そんな中、ふと気が付くと、どこからか人の声が聞こえてきた。かすかだが声が聞こえてくる。声が聞こえる方向に目をじっと凝らしてみると、図書館横の自動販売機コーナーの方に人影が見えた。どうやら2人いるようだ。


こんなひとけのない薄暗い場所で、何をしているのだろうか。暗闇の中、自動販売機の光だけが微かに揺れていた。


俺はどうしようかと少し迷ったが、今は警備のアルバイト中なので、彼らの様子を少しだけ見に行くことにした。俺が一歩一歩と歩くたびに、雨でぐしゃぐしゃになった土の地面から嫌な音がする。なんだか気味が悪い。


外ではまだ雨がしとしとと降っている。小雨が地面を叩き、周囲の空気をひんやりとさせている。濡れた地面からはほのかな土の香りが漂い、夜の静けさに包まれている。自動販売機の方に近づくにつれて、彼らの声がはっきり聞こえるようになってきた。どうやら男の子と女の子が二人で何やら話しているようだ。


自動販売機まであと20メートルほどの距離まで来たところで、急に人影がはっきりと見えた。自動販売機の前には地元の中学校の制服を着たがたい男の子と、紺色の短いタイトスカートにぴったりとしたカラフルな色のノースリーブを着た華奢な女の子が向かい合って話していた。チアリーディングの服だろうか。


その女の子は、濡れた髪を束ねた大きな赤と青のリボンをつけており、そのリボンは雨でしわくちゃになっていた。彼女が着ているのは、学校のチアリーディングのユニフォームで、フィット感のあるデザインが特徴だった。


上半身には、身体にぴったりと沿ったカラフルなノースリーブトップを着ていて、胸元には学校のロゴが刺繍されている。その生地は軽く、動きやすさを重視した素材で作られていたが、今は雨でしっとりと濡れ、肌に張り付いてしまっている。


彼女の腕は細長く、引き締まった筋肉がわずかに見え、チアとしての努力が感じられた。下半身には、紺色の短いタイトスカートがあり、これも雨で湿ってしまっている。スカートは動くたびにひらひらと揺れ、元気で活発な印象を与えるが、今は濡れて重たく感じられる。


彼女の足元は白いソックスと、ピカピカに磨かれた黒いシューズで締められており、動きやすさとスタイルを両立させた印象だ。彼女はこの雨の中、チアの衣装で立っているのがとても不思議だった。


周囲の寒さや湿気を感じさせないほど、彼女の表情には自信が宿っているようにも見えたが、その内心は不安と混乱でいっぱいそうだった。この雨の中、男の子は傘をさしているが、女の子の方は傘をさしていない。


そのため、女の子の服は雨でびしゃびしゃに濡れ、肌にぴったりと張り付いていた。後ろで短く髪を結んでいる大きな赤色と青色のリボンも、雨で濡れてしわくちゃになっていた。男の子と女の子は二人で話している。


しかし、どうしてだろう。女の子はなぜこの雨の中、傘もささずにチアの格好で立っているのだろうか。俺はその不思議な光景に驚きながらも、警備アルバイトとしての任務を果たすため、二人に近づいた。


すると二人の声が聞こえ始めた。どうやら男の子が女の子に向かって何やら大声で叫んでいた。


男の子の声が聞こえ始めた。「だから、もうやめてくれよ。仕方ないことなんだから。変な噂が立つ以上、お前にも少しは責任があるんじゃないか?」彼は不満を隠せず、雨の音にかき消されそうなほど声を荒げた。


女の子は涙を浮かべ、震える声で反論した。「それは誤解だって言ってるじゃん!私が一方的に付き合ってほしいって言われたの!健太も信じてよ……」


「でも、小春、お前は先輩に少しでも気を使ってただろ?前の大会のときだって、応援の時にあんなタイトな服を着て……男子が気にするのは当然だって。」男の子は少し冷静になり、感情を抑えながら言った。


「それは応援のために選んだ服であって、別に誰かを意識してたわけじゃないよ!私はただ、チアの一員として頑張りたかっただけなんだから!」女の子は強く反論し、その声は雨の中で響き渡った。


「でも、その結果、周りの男子が気にするのを分かっていたんじゃないか?小春だって、自分が可愛いことは中学生にもなってわかってるだろ。男子から告られるのが嫌なんだったら、あんな服を着て男子の前で踊るチアなんて辞めればいいだろ。」男の子はため息をつき、そう続けた。


女の子は息を整え、彼の目をじっと見つめた。「健太、私は自分のためにチアをしている。誰かにどう思われるかなんて、関係ないんだって………。」


男の子は一呼吸置いて、こう言い切った。「小春が陽介先輩からの告白を断ったせいで、陽介先輩が機嫌悪くして、お前が男子で遊んでるみたいな変な噂流されて……。別にお前が悪い訳じゃないよ。でも………。」


「だったら健太が陽介先輩に伝えてよ、私の変な噂流すのやめてくれって。健太と陽介先輩は同じサッカー部でしょ。だったら言うの簡単じゃん。それなのになんで健太もその変な噂に加担するの?私と健太は小学校からの友達じゃん。なんでそんな事するの……。」女の子はうつむきながら、か細い声で言った。


「だって仕方ないだろ、陽介先輩はうちのサッカー部の部長だぞ。陽介先輩の意見に俺なんかが逆らえるかよ。俺だってサッカー部としての立場があるんだよ。」男の子は少し言葉を詰まらせながら言った。


二人は互いに俯きながら沈黙した。冷たい雨が降り続く中、女の子がか細い声で言った。「昔の健太はそんな事する人じゃなかったのに……。私にも優しかったのに……。なんでこうなってしまったの。私たち友達じゃなかったの?」


「俺だってこんな事するの良くないって分かってるよ。でも俺も中学生になって、昔みたいにはいかないんだよ。俺にも人間関係があるし、周りの空気読まないといけないし。」男の子は雨の中俯いている。


「私は昔の健太の方が好きだった。健太は周りの空気を読むためだったら、人を傷つけてもいいの?」女の子の呟きは、雨の中でかすかに響いた。


その瞬間、二人は再び静寂に包まれた。雨が降りしきる中、男の子はついに口を開いた。「ごめん、サッカー部の皆が待っているから。」


そう言って、男の子は足早にその場を離れた。女の子は、傘も差さずにチアの恰好のまま、地面に崩れ落ちた。周囲の風景が雨でぼやけていく中、彼女の心から魂だけが抜け落ちていくようだった。


俺はそんな二人の光景を、まるでそれがテレビの中のワンシーンのようにただ見ていた。とても第三者が声を掛けられるような雰囲気ではなかった。


周りでは冷たい雨が女の子に容赦なく降り注ぎ、彼女のカラフルなチアリーディングの衣装はしっとりと濡れて重たくなっていた。灰色の空から滴る雨粒が、彼女の肌に冷たく触れ、まるで心の痛みを一層引き立てるようだった。周囲の風景はぼんやりとした霧に包まれ、雨音が静かに響く中、彼女の姿だけが際立って見えた。


髪を束ねた大きな赤と青のリボンは、雨にしわくちゃになり、彼女の不安定な心情を象徴するように揺れていた。周りの世界はどこか遠くに感じられ、彼女はひとりぼっちで、雨の中に佇んでいた。



栃木県真岡市東郷で年に一度開催される「東郷秋祭り」。俺はこのお祭りで初めて彼女と出会った。俺が彼女に初めて会ったとき、彼女は雨の中、傘もささずに地面に座り込んでいた。彼女の名前は「伊々野小春」。中学2年生の14歳で、部活はチアリーディング部。才色兼備で、学年の男子からモテまくっているのに、本人はそれに気づいていない。普段は真面目な優等生だが、自分の予想外の場面に直面すると、すぐに頭が真っ白になってしまうところもある。そんな神様から二物も三物も与えられたような彼女と、34歳のフリーターで生まれてから彼女無しの俺。似ても似つかない二人は、後日ひょんなことから再会することになる。


俺が会社を辞めることになった原因とも言える、俺の元憧れの人「佐久間佳奈」。俺の元上司である彼女に、さんざん遊ばれた挙句、こっぴどく捨てられた。


そんな俺と、幼馴染にそっけなく見放された中学2年生の伊々野小春。二人を取り巻く状況は異なっているが、目指す目標は同じだ。それは、自分たちをこっぴどく見放した奴らを見返すこと。そいつらよりももっと立派な人間になって、彼らのことを見返してやるという意志がある。


この物語は、34歳のフリーターと14歳のチアガールという、似ても似つかない二人が、それぞれの傷を抱えながらも、自分たちを裏切った人間たちに立ち向っていく物語!

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