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邂逅 中

 そろそろ満足したことだし、ことちゃんとエデルが待ってるだろうから二人の所へ行かないと。

 本当にこれで見つけられたら。少しでも情報を集められたら。物凄く楽しくなってきそうな予感がする。

 ……危ない、本来の目的を忘れるところだった。星の神それ自体が目的じゃないもんね。革命者との繋がりを把握することが一番だ。


 階段を降りようと赤く燃え続ける蝋燭の火から視線を逸らすと、壁に映る影に目がいった。

 なんか変な形の影。こんなふうに映るっけ?魔法の効果なのかな。それとも、また別の要因だったりして。

 気になるけど、本当に気になるけど、調べている時間はない。また次の機会かな、いやでも今やんなきゃ次なんて無いかもしれないし……。


 二人とも、ごめん。せめてヌルが戻ってくるまでは待ってて!


 とりあえず影を魔力の糸で縫い付けて、形が変わらないように固定する。あとはこれをナイフで削ぎ取って……。

 なんてやりたかったんだけど、後ろからコツコツと足音が聞こえてきたので一旦中止。思ったより早く戻ってきたな、もう少しゆっくりしてくれりゃ良かったのに。


「またその蝋燭に何かあったのか?」

「いやー、なんというか……。まぁ、もうちょっとだけ待っててくれるとありがたいんだけど」


 振り返れば、そこには少し呆れたような顔のヌルがいた。何しにどこへ行っていたんだろう。

 一応、普段から一緒にあれこれ研究している仲だから、さっきまでの実験で分かったことを簡単にまとめて話した。こいつのことだし、乗ってくれるだろう。

 やっぱりと言うべきか、話し終える頃にはヌルの目がキラキラどころかギラギラと輝いていた。こういうところも私と気が合う要因だろう。


「そういう事なら手伝いたいが……。それよりも先に革命者の事をなんとかしないといけないからな」

「そうだよね。星の神の観測が終わったら。そっちが流石に先だよね」


 階段を降りながら、さっきの現象について議論しようとしたけど、止めておいた。話し出したら止まらなくなりそうだったから。

 流石に主役をそう待たせるわけにもいかず、ヌルの後について二人の待っている場所に着くと、すぐに準備を始めた。


 魔法薬とことちゃんの血を混ぜたインク、羊皮紙、ペン、そして紐。自分で考えついておいて、これだけで神云々がわかるのはかなり凄いと思う。


「さて、本当だったらことちゃんに魔法陣を描いてもらいたいところなんだけど……」


 ペンとインクを持ってことちゃんを振り返ると、絶対無理と言わんばかりに首を横に振っていた。まぁ、そこは期待していなかったけど。

 しょうがないなぁ、別に魔力が混入しないようにするんだったら誰が描いても同じだし。


「ということでヌル、よろしく!」

「どうして俺なんだ?別にお前で良いだろう」

「今、魔力遮断用の手袋持ってないの」


 さっき散々変な蝋燭を弄ったばかりだし、そもそも私はうっすら魔力で全身を覆っている。ことちゃんの魔力に混ざる可能性大だ。

 その点、ヌルは安心だ。インクがそこまで劇的な反応を示さなかったということは、多分星とヌルの魔力は相性がそこまでよろしくないはず。あと単純にヌルは魔法陣を描くのが上手い。それだけだ。


 はい、とインクとペンと羊皮紙を押し付ければ、はぁと溜息を吐きながらも描いてくれるようだった。なんだかんだ言って優しいよね、こいつ。顔面すっごい険しいけど。ごめん。成功したらお酒奢る。

 ペン先を白く煌めくインクに浸し、すっかり魔法薬で湿った羊皮紙の上を走らせていく。真っ白な紙じゃなくて良かった。


 色以外は他の普通のインクと変わりないと思いきや、ペンの動いたあとには流星のように暗い星の尾が引いた。白でも、オーロラカラーでも、金でもなく、ただひたすら黒い。これが星の神のものなのか、ことちゃんのものなのか。


 かすかな反応でも見逃さないように、じっとヌルの手元を見つめる。

 普段なら「描きづらい」だとか色々文句を言われるが、今回は特に何も言われなかった。ヌルもそれだけ集中しているんだろう。


「……完成したぞ。ここからはどうするんだ?」


 ヌルに声を掛けられ、ハッと意識を現実に戻す。危ない危ない、すっかり意識がぶっ飛んでた。


「じゃあ次は、この魔法薬を飲んでね」


 ことちゃんに魔法薬の入った小瓶を、蓋を開けて手渡す。これも、月夜ちゃんに使ったのとは違うやつだ。流石にこれに星を入れるわけにもいかないから、なんとか星の神との関わりが疑われている素材を集めて作った安全な魔法薬だ。有毒な物が多すぎて毒性を抜くのに物凄い手間取った。普通の人間にも飲んでもらって、毒が完全に抜けているのは確認済みだ。抜かりない。


「……飲んだよ」


 ありゃ、すごい顔が渋い。苦かったかな、申し訳ない。しょうがないことだけど。

 ありがとう、と言いながら小瓶を回収する。きちんと全て飲み干してくれた。よし、これであとは紐をことちゃんに渡せば全部わかるはず。


 紐を持った手が震えた。あれ、もしかして緊張してる?流石にここまでやって、月夜ちゃんにも協力してもらって、絶対いけるはずだってわかってるのに。


「……はい、これ持って」

「う、うん。これで、星の神とかのことが分かるんだよね?」

「そのはず」


 大丈夫、きっとできてる。絶対成功してる。ことちゃんの手に紐が渡った。その時だった。

 がくんとことちゃんの首が垂れ、膝から崩れ落ちた。突然の出来事過ぎて、何が起きたかも分からずにことちゃんの体を支える。


「ことちゃん?ことちゃん平気!?」


 声を掛けても、肩を揺すっても瞳は閉じられたままだ。息はある。死んではいない。それなのに、全く持ってピクリとも動かない。

 星の神の影響か?その仮説が、頭の中にストンと落ちる。ことちゃんを抱きしめて、彼女以外の気配を探った。ここまで影響が出てるんだったら、何かしらの痕跡も残るはず。

 周りの声も気にならないほど、じっと知らない気配を探す。違う、違う、これじゃない。もっと強力で、そのくせ気配の薄い……。


「……あった」


 ことちゃんの体にぐるぐると巻き付く紐、というより鎖のような光。明るく、暗く輝く塵のような力だ。それが、ことちゃんを雁字搦めに捉えて離さない。こんなに近いのに触れられない、こんなに強く絡んでいるのに認識出来なかった。あまりにも自然すぎたのだ。

 意味の分からない圧倒的な力にゾッとする。これこそ自然に対する畏怖?明らかに見てはいけないような雰囲気。普段なら無視して突っ切っていくところだけど、流石に無理そうだった。


 ことちゃんから体を離し、そっと彼女の体を横たえる。これ以上見ていたら、気が触れそうだ。神でもなんでもない私には、少し刺激が強すぎたな。


「エデル、ちょっとことちゃんに触れてみて。私は無理だった」

「……お前に出来ないことが、俺が出来るとは思わないんだが」

「神には神をぶつけるんだよ、さっさとやれ」


 セクハラ云々は今気にする問題じゃない。エデルの手を取って、半ば無理やりことちゃんの腕に触れさせる。


「……っ!」


 触れてすぐに離そうとするもんだから、心配になって手を離した。大丈夫かな、でも一番いけそうなのはエデルなんだ。もう少し頑張って欲しい。


「大丈夫?無理はしないで」

「まだ、いける。少しだけ意思が漏れてたんだ。きちんと聞いてくる」


 エデルはそう言って、今度は自発的に手をくっつけた。多分、ここに私がいると邪魔だろう。エデルとことちゃんからは距離を取り、ヌルの近くまで行った。

 戻ってこれるかな、ことちゃん。無理そうだったらちょっとカザドラ使わないといけないかもしれない。


「……不安か?」

「不安だよ。ここまで心踊らないのは初めてかも。未知すぎて、怖いとすら思ったもん」


 ヌルの袖を握っていたら、あやすように頭を撫でられた。


「すまんが、俺はそこまで深く星神に触れた訳ではないからその恐怖はわからん。だが、仮に意識が戻らなかったとして、お前にはなんとかする手立てくらいはあるんだろう」

「そこまで言ってもらってるとこ悪いけど、特に考えなんてないよ。知り合いの神全招集してぶつけるくらいしか今考えつかない」


 それで十分だ、と優しい声で言われては、なんとなくこの方法でいけるような気がしてきた。

 とにかく、エデルが星の神の意思を汲み取って来るのを待つだけだ。あいつならいける。そこはもう確信している。


前後編で終わらせるつもりが間挟まっちゃったよ

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