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星の子

 部屋のベッドの中でため息を吐く。そりゃもう盛大に。予習をしていた月夜ちゃんがこちらを振り向くほどには。


「どうしたの」

「いやー、うん。面倒なことになったなぁって」


 私は滑り込みでテストを終われたが、ことちゃんは魔力の暴走のせいで続きは延期になってしまった。

 それだけならまだしも、革命者さまのあれこれというわけで、勿論国王(うえ)に報告しないわけにはいくまい。

 なるべく急ぎで報告書を書いて送ったが、返事が返ってくるまでは安心出来ないのだ。まあ、カザドラのことだから別に怒りはしないだろうけど。


『……リア』

「お、なんだお前」

『あの子供は……一体』


 子供?と頭の中に響いてきたルカの声に首を傾げる。誰だろ〜?とわざとらしく声をあげれば、若干いらついたような声が聞こえた。


『あの子だよ、異世界の子供!』

「ああ、小鳥遊ことりちゃんだよ。革命者として呼ばれた子」

『革命者……』

「うん。なんかあったの?」


 いや、うーんと唸りながら姿を現したルカは、『詳しいことは神界で話す』と言って私の手を取った。

 月夜ちゃんは何も見えていないらしく、私が急に手を宙に止めたように見えたそうだ。


 月の神がなにか気になることがあるんだったら、まあ聞いておいた方がいいだろう。そう思って、手を引かれるままルカの神界に足を踏み入れた。


「相変わらず、何も無いね」

『置くものもないからね。僕は物が多いのも好きじゃないし』


 そうは言いつつも、椅子を二つ作って片方を私に進める程度のことはしてくれた。

 ありがたく座り、ルカの話を待つ。


『革命者とやらは、()ではどういう扱いになっている?』

「え、なに急に」

『いいから、答えて』


 なんだよ。話聞けると思ったのに。まあ、こいつなりになんか考えがあるのかもしれないけどさ。しょうがないから、革命者とは何たる存在かをルカに説明した。

 異世界からやってきて、はるか昔の予言を叶える存在だと。こちらの召喚の儀式に応じてやってきて、選ばれる条件は『人間』ただそれのみ。


『その昔の予言ってのは?僕は知らないけど、本当にそんなものあるの』

「あるんだなー、それが。全智の図書館にそんな本があった」


 革命者の使命は、この世界に『光』をもたらすこと。今回の光がなにかは分からないけど、そこはおいおい分かって来るだろう。


『あれは無作為に選ばれると言われているのか?』


 呆れたような顔で言い放つルカにちょっとムッとしながら「そうだけど」と返した。私だって知らないものは知らない。

 私、革命者と関わったのは今回が初めてなんだよ。だから正直、〈世間ではこう言われている〉っていう情報しか入ってこない。図書館にもそんぐらいしか書いてないし。


 黙り込む私がよっぽど不機嫌そうに見えたんだろう。ワタワタと慌てながらルカがさっきの発言の詳細を教えてくれた。


『あぁいや、違くてだな、僕は君のことを何か侮辱してるとかでは無くて……。異世界からの転移者が選ばれる条件は幾つかあるんだ』

「そういうのは先に言って」


 全く、と軽く睨み付けると、本気で傷付いたような顔をするルカ。別に怒ってる訳じゃ無いんだけど。こいつ神にしては素直すぎてやりづらいな。


「それで、その条件ってのは?」


 いい加減立ち直って欲しい。ルカがさっきからずっと悲しそうな顔してるもんだから、なんだか悪いことした気分だ。

 ポンポンと軽く頭を叩いて、話の続きを促す。


『まあ、魔力を得るのに適した存在かとか、この先使命を果たせるくらいまで生きれるかとか。でも一番は星の神が気に入るかどうか、かな』


 革命者って星神が関わってくるんだ。本当にこちらの世界に望まれてやってくる存在だったんだね。

 ……ん?いや、星神ってヤバくない?神のトップみたいなやつだよ?そいつが気に入ってるのが革命者ってことでしょ。じゃあ勿論祝福とか加護とか与えてるわけだし、なんなら一部の能力譲渡とかしてそう。

 これって報告案件かな?でもなー、創造神はなんか知ってそうだし、下手に文書に残して騒ぎになるよりかは知らぬ存ぜぬで通した方が良いかも。うん、そうしよう。


「……貴重な情報ありがとう、ルカ」

『いやいや、寧ろ僕としては君がこの話を知らない方が驚きだったけどね』

「だって興味無かったんだもん」


 さーて、ダルくなってきましたよっと。こういう系は大きな力が加わるととたんに考えることが増える。なかなか厄介だ。

 まあ取り敢えず、戻ったら検査からだな。ついでに望むなら月夜ちゃんもやってあげよう。


 そんなことに考えを巡らせていると、ルカが急に咳払いをしてきた。無理やり話を変えるようで、いつものルカらしくない。


『その、ところでだな。お前に無謀にも魔法で勝負を挑んでいたあの獣の子供は?』

「あー……名前なんだっけ、あの子でしょ?」


 どんな意図があって聞いてきたのかは分からないけど、多分君の大好きな月童に手を出すことは無いだろうから安心して欲しい、という気持ちを込めて「良い子だよ、多分」と返しておいた。


 そうか、と答えたきり黙ってしまったルカをしばらく眺めていると、音もなく現れた全身真っ白のローブの影がルカの頭を引っぱたいた。すぱん、といい音が鳴る。

 まさかの展開に固まっていると、ローブの影はぺこりと頭を下げて去っていった。


 頭を抱えているルカになんと声をかけていいか分からない。多分やったのは従神だろうけど。


「……あー、大丈夫?」


 大丈夫だろうけど、一応聞いておく。案の定、大丈夫だと返事が返ってきた。


「まあ、大丈夫ならいいけど。それで、なんで星の神が気に入ることが絶対条件になってるの?」

『さぁ、そこまでは僕もなんとも。ソルなら知ってるかもね。僕と違って活動的だから』


 おや、こいつの口から太陽神(ソル)の名前が出てくるのは珍しい。折り合いがあんまり良くないって聞いてたけど、そうでもないのかな。


『星の子……革命者のことは、僕たちの間ではそう呼んでるんだけど。その子を取り巻く環境は君が守ってやりなね』

「え、なに急に」

『星の子は、感覚が鈍ってるだけだから。あいつの癖だ』


 何の話だ。良く分からなくて首を傾げていると、『そういうところは鈍いんだね』なんて言われて髪をくしゃりと混ぜられた。


『さあ、そろそろ帰る時間だ。僕の信徒に宜しくね』

「言われなくても。お前こそ、ソルと仲良くしなよ」


 リアが言うなら、と笑うルカの顔をしっかりと見る前に視界がグニャリと歪む。

 全く、連れてくる時には丁寧なのに、帰す時には雑なんだから。戻ってきた部屋の中で、また盛大にため息を吐いた。


「リア、大丈夫?」

「あぁ、うん。きっと大丈夫のはず」


 どんどん報告書が分厚くなっていく。書く方も大変だ。ことちゃんに関しても衝撃の事実について確認しないといけないし。全く、やることが多い。

 本日何度めかのため息を溢して、面倒な報告書に手を伸ばした。こういうのは後に回した方がよっぽど面倒なのは知っている。


 ―――――――――――――――――――――――

 もう開き直って自分の見解とか盛り込んで報告書を書いていたら寝るのが遅くなってしまった。こないだたっぷり眠ったお陰で、全く不調が無いのが救いだ。今日からちゃんとした授業が始まるっぽいし。


 時間を良く見ていなかったせいで、私が教室に来たときには教室には誰一人いなかった。

 仕方がないから、誰か来るまでちょっと仕事でもしてようかと本を取り出して解析を進める。

 これは協会に依頼としてきたものだ。特に私宛というわけでも、私が一番解析が得意というわけでも無かったが、なぜか私にお鉢が回ってきた。


「……まあ、良いんだけどね」


 言ってしまってから、おっと、と口を塞ぐ。最近、どうも独り言が多い気がする。駄目だなー、気を付けないと。


「おい」

「うわぁ!?」


 急に後ろから話しかけられてビックリした。独り言聞かれてたかも、と心臓はバクバクだ。振り向くと、後ろには昨日の子がいた。


「猫ちゃん君。おはよう」

「空継晴渡だ!」


 起こったように叫んではいるが、別に機嫌はそこまで悪くないようだ。尻尾がゆらゆらと揺れている。


「ハルト君ね、うん。覚えた」


 取り敢えず話を聞くために体ごと晴渡くんのほうを向く。持っていた本をパタンと閉じて視線を上げると、どこか赤い顔の晴渡君と目があった。


「……すまなかった」

「え、何?」


 急に謝罪されても、何のことなのかさっぱり分からない。私、この子に何かしたっけ?と首を傾げていると、つんとそっぽを向いてしまった。頬が赤く染まっているから、おそらく照れているんだろう。可愛らしいところあるじゃないか。


 思わず頭を撫でようと手を伸ばしたが、急に何かに阻まれるように手が止まった。宙を睨みつけ、伸ばした腕を下ろした。

 ルカだな?後で文句言ってやるんだから。


 どうかしたのか、と不思議そうな顔をしている晴渡くんに手を振ってなんでもないと伝えたところでことちゃんが教室に入ってきた。


「あれ、リアさん!?早いね、わたしが一番だと思ったのに!」


 どうやら、昨日の失敗を挽回するために今日は早く来たらしい。にしてはエデルの姿が見えなかったから聞いてみたら、一緒には来ていないとのこと。


「なんか、ワープするだけだから自分がいなくても大丈夫、だって」

「ワープ?たかだか学校に来るだけで……。テレポートの間違いじゃないの」


 そうかも?とことちゃんが首を傾げる。確かに、ワープとテレポートの違いって分かりづらいもんね。


 ここで、漸くことちゃんが晴渡くんに気付いたみたい。

 急に意地悪そうな顔になって、晴渡くんに指を差す。


「あっれ~?昨日リアさんにボッコボコに負けてた猫ちゃんじゃん!」

「こら、ことちゃん。この子、良い子だよ。そんなこと言わないの」

「えー、だって……」


 ことちゃんを宥めながら、本当にこの子が星の神のお気に入り、『星の子』なのかと考える。今のところ、普通の女の子にしか見えない。ルカが言ったこととはいえ、あんまり信じられないな。


「?どうしたの、リアさん」

「……ううん。もうそろそろ、私のことを呼び捨てにしてくれてもないからいいのになぁって」

「そっか……?」


 最後に不思議そうに語尾が上がったのは気になるけど、まあ気にしないでおこう。


「そういや晴渡くんはどこから通ってるの?」


 半ば強引に話題を変えようと、晴渡くんに尋ねる。変な顔しながらも、「寮からだよ」と答えてくれた。へえ、なんか家から通ってそうな感じなのに。

 なんだよ、とこちらを睨む晴渡くんは、やっぱり猫ちゃんだ。


「そろそろ自分の教室に戻ったら?人増えてくるよ」


 ほら、と時計を指せば、最初よりもかなり針が進んでいる。頷いて去っていく晴渡くんを見送って、ことちゃんに少し勉強でも教えようかと彼女のほうを向いた。


ちなみにこの世界での神のランク的なものは

創造神>星神>太陽神=月神>その他の神

みたいな感じです。意外と偉いぞ、ルカ様。口調が安定しない。

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