実力テスト:運動
自己紹介のあとは、休み時間を挟んでテストだ。魔法、体力を測る。これを元に、受けられる授業などが決まる仕組みらしい。私は例のごとく聞いてなかったから、エデルに教えて貰った。
「うぅ、緊張する……」
「落ち着いて、ことちゃん」
多分、テストっていうから緊張してるんだと思う。それか、単純に魔法をこんな大勢の前で使うのに慣れてないから緊張するのか。
とは言うものの、実は私も少しだけ緊張している。私、変な風に浮かないよね?自分で言うのもなんだけど、私は結構運動能力もあるし、自他共に認める魔法の天才でもある。
幸いなことに、ここに私を知っている人は殆どいないけど、バレると大変なことになりそうだから気をつけないと。
「それでは、出席番号順に並んでください」
体操服に着替えてからグラウンドに出て、一列に整列する。どうやら、AからCまでは魔法のテスト、DからFまでは運動能力テストを先にするらしい。
運動能力テストの内容としては、ボール投げ、握力、シャトルラン、上体起こし、反復横跳び、長座体前屈。これだけのを、場所を移動しながら午前中に行うらしい。
「……これ、私大丈夫かなぁ」
もちろん、ここでのテストで魔法を使うのは禁止。魔道具の持ち込みも禁止。だけど、どうしても使わなくてはいけないのなら、教師に許可を得た上で持ち込み、使用可。
私もきちんと許可を取って魔道具を持ち込んでいるけど、この先生、それ把握してるかなぁ。そこだけ少し心配。
ほかのクラスの生徒もぞろぞろとグラウンドに入ってくる。どこもだいたい十五人くらいだ。新入生、こんなに少なかったっけ?
そんなことをエデルに聞くと、呆れたように「別のコースに言ったんだろ」と返された。なるほど。
深呼吸をして心を落ち着かせていたことちゃんは、あまり話を聞けてなかったみたい。エデルがもう一度先生の説明を繰り返していた。
まずはボール投げからスタート。手のひら大のボールを、囲ってある範囲から投げてどれだけ飛ばせるか測る。
二回くらい練習させて貰えたが、なかなか難しい。あんまり遠くに飛ばしても目立っちゃって駄目だし、逆に飛ばさな過ぎても点数が取れない。ギリギリのライン狙うのは大変だ。
女子はだいたい十メートルから十五メートル飛ばしてる人が多い。だったら、私もそれくらい狙っていけばいい筈。
とはいえ、出席番号順だからまずは男子からだ。
本番に投げられる回数は二回。そのうち、より長く飛ばせた方を点数としてカウントするらしい。
「っ!」
歯を食い縛って全力で投げていた。一回目は四十五メートルで、二回目は五十メートル。
まず一回目からクラスがざわついた。なるほど、四十五飛ばせたら結構すごいのね。そして、二回目でもっと沸いた。まあ、四十五であんだけ騒げるんならそりゃそうか。
続いてテストを受けた女子は十七メートル。その次の男子は三十三メートル。エデルよりも飛ばせる人はいなかった。
「すごいじゃん」
戻ってきたエデルに声を掛ける。少しニヤッと笑って、「お前のお陰でな」と言われた。私、そんなに物投げさせてるっけ……うん、結構やってる気がする。エデル、コントロール良かったし。
時々、範囲外に出て零点になっちゃってる子もいるから、私も気を付けないと。
「っと、次私の番だ。行ってくるね」
「おう、頑張ってこいよ」
「頑張って、リアさん!」
二人の応援を受けて、ちょっとやる気が出てきた。渡されたボールは私の手にはちょっと大きい。でも、ボールが柔らかい素材だから問題なく掴めた。
よし、と気合いを入れて振りかぶる。
「えいっ」
勢いよく投げ出されたボールは、引かれていた最大ライン(七十メートル)を軽々と超えて飛んでいってしまった。
「あれっ?」
教師陣が大騒ぎしている。もちろん、生徒も。後ろを振り返ると、エデルがやれやれと言わんばかりの表情で、頭に手を当てて首を振っていた。ことちゃんはキラキラとした目でこっちを見ている。やめて、そんな目で私を見ないで。
測定をしていた教師がなにやら話し合って、私のところへ駆け寄ってきた。
「リアさん、満点です!」
「おぉ……」
告げられた瞬間、周囲がどっと沸く。まって、本当に何で?別に失格にしてくれてもいいし、零点で良かったよ今!
一応、もう一回投げておく。殆ど投げやりにポイッとやったけど、同じくらい飛んだ。何故だ。
ちなみに、ことちゃんは一回範囲外に出て、もう一回は十三メートルだった。きっと、これくらいが女子として正常なんだろうなぁ。
さて、次はシャトルランだ。今度は何事もなく終わるはず。いや、終わらせる。
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「どうして……っ!」
「あー、まぁ落ち着けよ」
ほとんど地面に突っ伏して落ち込む私の頭に、エデルが肩を震わせながら手を乗せた。
「笑ってんじゃねえよ馬鹿!」
「リ、リアさん、とってもかっこよかったよ!全部満点で!」
そう。結局、そこそこの成績に収めることは出来なかった。シャトルランではみんな気づいたら脱落してるし、握力を測ったら機械が見た事ない数値出すし、上体起こしもみんな遅いなーなんて思ってたら私が早いだけだったし(一緒に組んだ子にちょっと引かれた)。反復横跳びでも上体起こしと同じ現象が起きたし。長座体前屈は、まぁ私と同じような成績の子がいたから良かったけど。
「気持ち切り替えていけよ、昼食ったら次は魔法なんだから」
「……うん」
「お昼ご飯食べれる?一緒に食堂行こっか」
「……ありがとぉ」
ふたりに慰められて、とぼとぼと食堂へ向かう。
その途中で、他のクラスの子がヒソヒソと話しているのを聞いた。
「ほら、あの子。不正して満点取った子よ」
「あの魔道具で身体能力をあげて不正したんだ」
「どうして先生は無視するんだ?」
「あっ、そうだ。先生に報告したら、あの子失格になるんじゃない?」
あー、なんか色々言われてら。まぁたしかに、魔道具のお陰でこれだけいい成績が出せたのは本当だけど。別にあれ身体能力上げる効果無いんだよな。
運動系のテスト終わったから、もうこれ取り上げられても問題ないし。
というか、これはきちんと許可取ってるっつーの。
「ほら、お前の分も取ってきといてやるから座ってろ」
「エデル、ことちゃんの分もよろしく」
「えっ、いやわたしは……」
「あー、はいはい。持ってくるから女子は座って待っとけ」
エデルはさっさと昼食を取りに行った。良かったね、とことちゃんに笑いかける。自分であんなめちゃくちゃに混んでいる中に行かなくてラッキーだ。
エデルが取りに行ったら人波が割れたけど。道できたけど。
「えっと、エデルさんって王子様、なんだよね?」
「そうだね」
その様子を見て、ことちゃんが疑問を口にする。意外とことちゃんって、偉い人とばっか関わってるんだよ。
「ふたりってどういう関係なの?」
確かに、そこ疑問に思うのもわかる。正直、他人から見たら、私って王子様とやけに親しげな変な人だもんね。
「あー、幼なじみかな?生まれた時から結構一緒にいた、みたいな」
「そうなんだ!……てことは、リアさんも結構偉い人?」
「ううん、別に」
なんてったって偉いのは親だ。私はただその恩恵を受けているに過ぎない。爵位は持ってなくても、私は別の仕事で結構偉いポジションにいたりするけどね。
「持ってきたぞ」
「わぁい、ありがと」
取り敢えず、エデルがお昼を持ってきてくれたから冷める前に食べよう。そんで、少し休憩したら次は魔法のテストだ。ことちゃんがどれくらい魔法使えるようになってるか、楽しみだなー。
エデルがどれくらい教えられてるか。殆ど強制的にやらされたとはいえ、私もことちゃんの教育係なんだから。
ろくに教えてないけど、少しでも気にかけた生徒の成長が楽しみ。




