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新しい環境

 はい、フラグ。目が覚めたとき、一番最初に映ったのは、泣きそうな顔の月夜ちゃんだった。

 声を掛けようとしても、喉が張り付いて声が出ない。それどころか、軽く咳き込んでしまった。ゴホゴホやっていると、月夜ちゃんが水を持ってきてくれた。


 一口飲んで喉を潤してからお礼を言う。ついでにどのくらい寝てたか聞くと、なんと五日間……。ちょっと短期間に色々詰めすぎたかな。次からは気を付けよう。


「ということは……」

「今日から授業開始」


 ヤバ。急いで準備しないと、間に合わないかも。よく見れば月夜ちゃんはもう制服を着ているし、時間危ないかも。最悪、上着着てフードをかぶれば寝癖直しも着替えもしなくていいけど、流石に嫌。


 取り敢えず適当に櫛で髪の毛をとかしながら顔を洗う。メイクは……しなくて良いか。服もいつの間にか着替えさせられていた部屋着から制服に着替える。気分的にスラックスを履いた。

 その上からいつもの上着を着る。


「それって良いの?」

「一応許可は取ってるけど……あ、やっぱやめようかな。別のにしよう」


 いつものだったら逆に目立ちそうだったから、別のにしとく。

 結構前にプリシラが作ってくれたやつにしよう。黒地に紫で蝶々の柄が入ってるやつ。


「よし、準備できたよ!……ねぇ、月夜ちゃんって窓から外出るのって抵抗ある?」

「は?」


 ついでに聞いたら、心底不思議そうな顔をされた。確かに、私以外に遅刻しそうだからって窓から飛び降りる人見た事ないけど。


「ここ、六階だけど」

「いける。月夜ちゃんは階段使って。私はここから出るから」


 やっぱり嫌みたい。私は階段を使う気なんてさらさら無いから、そのまま窓を開け放して飛び出した。


「えっ、ちょっと!」


 すごい慌てた声が追いすがってきたが、もう上に戻るのも面倒だからそのまま自由落下。

 結構あっという間に地面まで降りられる。綺麗に着地を決めて、玄関の方に回って月夜ちゃんを待った。


 結構すぐに月夜ちゃんは姿を現した。行こ、と手を差し伸べれば、ちょっと待って、と息も絶え絶えに言われた。さすがに全力で階段を駆け下りて来たらしい。お疲れ様だ。少し疲労回復に役立つ魔法を掛けてあげよう。


「……なんかした?」

「うん、ちょっとね」


 私が魔法を掛けたことにはすぐに気が付いたっぽい。すごいな、こんだけちょっとの魔法で気付くなんて。


「月夜ちゃん、教室わかる?」

「わかるけど……。入学式で言ってなかった?」

「聞いてなーい」


 だって、校長の話長過ぎなんだもん。その後に教科担任の先生から色々話があった、なんて言われても、まとめて聞いてないからわからない。

 まあいいや。あとでエデルに聞けばいい。あいつならちゃんと真面目に話聞いてるでしょ。


 流石に自分のクラスの把握くらいしてる。月夜ちゃんとは離れちゃったけど、隣のクラス。エデルとことちゃんとは一緒。月夜ちゃんとも一緒が良かったなぁ。

 あとで聞いた話だと、寮で同室の人はクラスが違うらしい。何でこんな変なルールを作ったんだろう。


「じゃあね、リア。また後で」

「あとでねー」


 月夜ちゃんと別れた後、教室に踏み入る。結局、そんなにギリギリの時間ではなかったけど、もう既にいっぱい人がいる。

 やっぱ、早めに来る子が多いのかな。


 後ろの方で、エデルが軽く手を振るのが見えた。もう片方の手で机を指している。そこ空いてるって言いたいのかな。エデルの隣にはことちゃんもいる。良かった。あそこはちゃんと一緒にいるんだ。


「おはよ、エデル、ことちゃん」

「ちゃんと起きれたな」

「おはよう、リアさん」


 挨拶しながら席に座る。別に席の指定とかはないらしい。自由席だ。楽でいい。


 まだ、授業が始まるまでに時間がある。私が寝てた間に何かあったか聞いた。

 特になにも事件などはなかったらしいが、私に言わないといけないことがひとつだけあるそうで。


 何かと思ったら、家族からの伝言。『あまり無理をしないように。何かあったら、すぐに連絡して』だって。全く、もうそろそろいい年した女の子にそこまで言うかね。頑張ってね、くらいでいいのに。

 でも、やっぱり嬉しいな。家族と仲良しっていいよね。


 隣で、ちょっとことちゃんが寂しそうにしている。……そっか、ことちゃんは異世界から来てるから家族がいないんだ。ちょっと無神経だったかも。反省。


 そろそろチャイムが鳴る。少し背筋を伸ばして、先生が来るのを待った。

 どういう先生かとか、もっと情報得られたら良かったのに。私が寝てたせいで。


 チャイムが鳴った。鐘みたいな音。そうか、ここのチャイムはそんな音だった。

 それと同時にガラリとドアを開けて入って来たのは、細身で長身な女性だった。顔は少しキツめで、フレームの細いメガネを掛けている。わあ、なんだかすっごいそれっぽい先生来た。


「皆さん、お静かに!」


 パンパンと手を叩いて、若干ざわついていた教室内を静かにさせる。いいなー、ああいうのが様になってて。私もあんなのが似合うようなカッコいい大人になりたかったなー。


「今年この一年D組の担任になりました、ハイネ・クランプトンです」


 ハイネ先生か。クランプトンって聞いたことあるな。確か、エドワルド家の遠縁だった気がする。代々研究職についていて、何回かあったことがあったような。

 まあとにかく、真面目そうでいい先生っぽくて良かった。


「私は魔法歴史学を担当します。今日はいきなり授業をしたりはしませんので、まずは自己紹介をお願いします。……その前に、何か質問がある人はいますか?」


 やったー、授業なし!でも、自己紹介か。何言えばいいんだろう。前の人のを真似すればいいかな。先生がフォーマット提示してくれないかな?

 ちなみに、私の出席番号は十二番だった。何で番号決められてるんだろう?クラスの人数は十五人。私の名前、そんな後に来るような名前かなぁ。


「先生、出席番号って何で決まるんですか?」


 ことちゃんが手を挙げて、私と同じ疑問を質問した。えらい、ことちゃん!さて、なんて返されるかな。


「出席番号は、出身階級で決まります。一番から階級が高く、番号が大きくなるにつれ階級が低くなっています」


 嘘でしょ。なら私もっと上じゃない?それこそ、エデルの次とかさ。

 エデルの出席番号は一番。当然だ。なんてったって王族なんだから。


「他になにもありませんか?では、出席番号一番の方から自己紹介をお願いします」


 そう言われて、エデルが立ち上がる。人好きのする笑顔を浮かべて、口を開いた。


「エデル・パレスティスト・ノーレズです。身分差に関わらず、気軽に話しかけてくれれば嬉しいです。一年間よろしく」


 わー、流石。すごいなぁ、猫をかぶるのが上手い。そして、皆エデルのことを知っているみたいだった。当然だ。何せ王族。王位継承権第一位の男。有名人だ。

 ……私だって結構有名人だと思ってるんだけどな。


 次に二番の人が立ち上がり、自己紹介をする。この名前も聞いたことがあった。資産家で有名な侯爵家の娘だ。


 こんな感じでどんどん進んでいって、ついに私の番。うぅ、嫌だな。自己紹介で何を言えば目立たなくて済むかがわからない。

 取り敢えず当たり障りのないことだけ言っとこう、と席から立ち上がった。


「えっ、と……リア、です。よろしくお願いします」


 ふう、なんとか言えた。一年一緒のクラスってだけでそんな何か言うことがあるわけじゃ無いだろうし。


 なんか、教室のあちこちからひそひそと話す声が聞こえてくる。なんなんだろう。耳を澄ましてみても、どうせ悪口しか言われて無さそうだからしないとこう。


 私の後にもふたりが自己紹介をし、最後にことちゃん。少し緊張した様子で立ち上がり、口を開いた。


「小鳥遊ことりっていいます。あんまり魔法とかは詳しくないけど、頑張ります。よろしくお願いします!」


 うん、ことちゃんの方はいい感じ。周りでヒソヒソ言われてるのも私だけみたいだし。

 本当に、私なんも言ってないよね?なんも言ってなさすぎて逆に「なんだこいつ」案件だった?よく分かんないな、人の考えることは。


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