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経過観察

 薬をあげてしばらくすると、ほんの少しだけヴェルが身動ぎをする。お、起きたかな。

 ふっとヴェルが目を開けた。皮膚の変色もだいぶ収まって、元通り真っ白になりつつある。


「ん……」

「おはよう、ヴェル。気分はどう?」

「……普段通りよ。体も痛くない。正常だ」


 良かった。ヴェルの方は回復してきてるみたいだ。でもまだ油断はできないから、寝ててもらう。この子、医者にかかるの嫌いだからなぁ。……タヂとヴィタって、健診とか大丈夫なんだろうか。後でヴェルに許可貰って診てあげようかな。断られそうな気しかしないけど。


 後は、月夜ちゃんが回復するのを待つだけだ。

 その間に、あの害虫どもの駆除に回ろうかな。エデルとことちゃんにふたりの様子を見ててもらって、私は外へ出た。


「まずは、っと」


 体を覆う魔力を増やして、蜘蛛を呼び寄せる。一応障壁は張っておいて、毒の被害を受けないように。……薬残ってるし、一回噛まれても良いかも。いや、個々で使っちゃうと次にこんなことがあった時に面倒だ。やめとこう。


 よし、上手いこと出てきてくれた。そいつらを引き付けたまま、ヴェルの家から離れる。山の上の方に向かって、あちこち歩き回る。どれくらいいるか分かんないしね。

 周りを見ると、小さなものが蠢いていて、寒気がする。虫系全般苦手な私にとっては結構辛いかも。


 なるべく下は見ないようにして、上へ登っていく。

 ……疲れた!もう歩きたくない。こうなったら、超低空飛行で地面すれすれを飛んでやろうかな。それだったら逆に魔力使うからもっと寄せられるかも。


 結局、多数の蜘蛛を引き付けながら頂上までやって来た。ワザとあの小屋のあたりは通らなかった。あっち行っちゃったら大変だし。どうせ対処するの私任せになるんだから。


「うん、だいぶ居たね」


 一気に凍らせて、風で一箇所に纏める。これで、もう大丈夫なはず。一応余った薬を上からぶっかけておいて、これで完璧。


 ついでに、ちょっと現場を冷やかしに行こうかな。そう思って踏み出した途端、バランスを崩して転びそうになった。ヤバい、私結構疲れてるかも。……でも、ヴェルも月夜ちゃんも、勿論他の子達も私より頑張ってるはずだし。皆なら、もっとやってる。すぐに『めんどくさい』って放り投げちゃう私より。


 ぐっと力を入れて体勢を立て直し、小屋の方へ向かった。多数の人の気配がするし、場所は見つけやすかった。あいつ、いるかな?いたら帰りは運んで貰おっと。


「お前ら、何をしている!?」


 おや、なんか叫び声が聞こえる。これはミリーだな?なんでここに来てるんだろう……毒が効かないからか。魔法使いを狙う危険な毒が蔓延してるとか言っちゃったから、保険としてミリーたちが来たのかな。


 そっと近づいていって、物陰から様子を伺う。見えた人々が身に着けている制服は、騎士団の特殊部隊のものが多数。ちらほら国の調査機関のものや、執行官のものも見える。


「……あ」


 数多の人の中に、ひときわ大きな背中を見つけた。思わず声が出ると、それはくるりと振り返って、私を見た。あいつ、変なところで勘がいい。なんで気付くんだよ、変なの。

 私と目を合わせたまま、どんどん近付いてくる。自分の仕事に集中しなよ、と思う反面、なんだかこっち来てくれて嬉しかった。


「よう、通報したか」


 軽く手をあげてそんなことをのたまう『夏』。するに決まってんじゃん、とも私ってそんなに信用ないかなー、とも思う。


「するよ、ちゃんと。私疲れてるの」

「おう、ご苦労さん」


 雑に頭を撫でられる。せっかく髪の毛編んでるのに崩れちゃう。何となく振りほどくのもだるくて、そのままにする。どうせすぐ離れるし。


「あの男は?」

「もう尋問も済ませて、留置場に送ってある。心配すんな」

「ならいいけど。今は後始末中?」


 そうだ、と頷いた『夏』。なら、少しくらい抜け出したっていいだろう。夏の執行官は優秀だから、指揮者が居なくなっても大丈夫。


「疲れた。下まで運んで」

「ここまで来れたのに?」

「ここまで来るのに疲れたの。……そういや、さっきミリーがなんか叫んでたけど、あれは何?」


 あれか、と『夏』がミリーへ視線を向ける。彼女は今回派遣された特殊部隊のリーダーだ。ちっちゃい(でも私よりは大きい)、美しい桃色の髪が特徴の可愛い女の子だ。


()()()()が、毒蜘蛛を叩き潰したんだと」

「ありゃ」


 大変だ。『夏』が吐かせた情報によると、毒は主に蜘蛛の体液に含まれているらしい。持ってきていた薬が半分ほど残っていたので、渡しておいた。


「直接あいつに渡さないのか?」

「動きたくない」


 あっそ、と言って『夏』はミリーに薬を渡しに行った。

 薬を渡されたミリーは私の方を向いてぺこりとお辞儀をした。流石、綺麗な礼。


「渡してきたぞ」

「お疲れ。ミリー可愛い」

「そんな可愛い自動人形(オート・ドール)に挨拶でもしてきたらどうだ?」

「ミリーがこっち来てくれたら考える」


 もう疲れ切っているから、自分から動きたくない。

 それか、と『夏』を仰ぎ見る。


「お前が連れてってくれてもいいよ」

「馬鹿言え」


 そうは言っていたが、私がそのまま見つめていると、『夏』は私を荷物を担ぐようにして抱き上げた。

 その上で体勢を整え、肩に跨る。グラッと頭が後ろに傾きかけるが、堪えて前へ戻した。


「一言挨拶したら帰るぞ」

「え、なんで?」

「お前を送り届けねえといけないからな」


 なんだ、ちゃんと送ってくれるんだ。なんだかんだ言って優しいんだから。


「ありがとっ」


 やっぱりまた頭がグラグラして、今度は視界が回り出した。あ、これやばいかも。寮に帰ったら絶対寝込むやつだ。魔力使い過ぎた?それとも、体を酷使し過ぎたのかな。


「リアさま。こんにちは」

「ミリー、こんにちは。ここのところどう?」

「変わりありません。そちらも、お変わり無いようでなによりでございます」


『夏』から降りて、ミリーに挨拶する。私が話しかける前に、向こうが気付いて近付いてきた。

 律儀な子。昔、職場が同じだったってだけでこんなに礼儀正しくしてくれるなんて。しかも、それも職務調整の一環だったし。

 

「ここは貴方に任せるよ。頑張ってね、ミリー」

「……!光栄でございます、リアさま!」


 なんだか嬉しそうだな。急にどうしたんだろう。可愛いから良いんだけど。腕を伸ばして頭を撫でてやると、とても嬉しそうに、けれど恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「さて、リア。お前はもう帰るんだろ?どこまでだ」

「……リーデル平野の端っこ」

「冗談はよせ、馬鹿野郎」

「うん、じゃあこの山降りるまで。友達の家に行くの」


 ヴェルの家の近くまでは行ってくれるはずだから、それまでは少し眠っていよう。きっとこいつなら起こしてくれるはず。ていうか、そうじゃないと困る。まだ月夜ちゃんの様子見てないのに。伝令が飛んでこないってことは、急変とかはしてないんだろうけど。


『夏』の頭を抱え込むように腕を回し、体を預ける。少しの休息、大事にしないと。

 目を閉じて、揺れに体を任せる。こんなふうに揺られることはしょっちゅうだ。そろそろ、他人に頼るのを辞めたいんだけど、なかなかそうはいかない。


「……しんどい」


 ――――――――――――――――――――――――

 気が付くと、もうヴェルの家の前だった。


「着いたぞ」

「……ん」


 動く気力はぶっちゃけ無いが、そういう訳にもいかない。下ろしてもらって、手を振って別れる。もうこれ以上人連れてきたらそろそろキレそうだもん。


「戻ったよ」


 一言声を掛けて、ヴェルの部屋へ向かう。ヴェルはもう起きていて、でもベッドの中でぼうっとしていた。月夜ちゃんはまだ眠っている。けれど、顔色はだいぶ良くて、苦しそうな感じもない。薬、効いたんだ。


 月夜ちゃんに作ったベッドのそばで、ことちゃんが眠っていた。疲れちゃったのかな。多分、結構歩かせちゃったし。学校始まるまでまだ少しだけど時間があるから、きちんと休んで欲しい。

 今度は私がちゃんと魔法や何やらを教えに行くから。一度任された仕事を放り出すのも、誰かに取られるのも性にあわない。


 エデルは、部屋の中にはいなかった。どこに行ったんだろう。まあ、そのうち戻ってくるか。そこまで気にせずに、わたしも椅子に座った。


「リア」


 座ったままぼんやり天井を眺めていると、ヴェルに声をかけられた。

 そちらの方を向くと、ヴェルも私の方を向いていた。


「疲れてるだろ」

「……まあ」

「休め」

「うん」

「私はもう大丈夫だから」

「帰れって?」


 出来る限り優しい笑顔で問う。大丈夫と言われても、まだ心配。完全に回復するまで、正直離れたくない。


「本当に平気だから」


 ヴェルにしては真っ直ぐ目を見て言ってくる。そこまでして私をこの家から追い出したいのか。私を休ませたいのも本心だろうけど。


「じゃあ、辛くなったら私のこと呼ぶって約束できる?」

「……ああ」


 うわ、嫌そ。しょうがないけどね。自分のテリトリーに他人を入れたくない気持ち、よくわかる。でも、これだけは約束してもらわないと。ここは絶対に譲れない。


 分かった、と頷くヴェルに念押して、私はもう帰ることにした。任意のタイミングで聞かせられるようにちょっと工夫した伝令を置いて、月夜ちゃんを抱き上げる。どうせ目的地一緒だし、一緒にいた方がいいだろう。


 じゃあね、と残して寮に帰る。ワープポイント設定してあるんだ。便利。自分の拠点になる場所だからね。


「『解錠』」


 鍵を開けて、ポイントに飛び込む。月夜ちゃんをぎゅっと支えて、離れないように。この瞬間はいつもドキドキする。ひとりだけなら良いんだけど、ほかの人といると、不安になっちゃう。ここだけ、少し嫌なところだ。


「着いたー」


 そのまま自分たちの部屋に飛ぶようになっている。後でほかのポイントも作ろうかな。月夜ちゃんを彼女のベッドに横たえて、布団をかける。近くに吸い飲みを置いておいて、私もベッドに寝転ぶ。

 このまま寝て、次目が覚めたら初授業、とかやめてよ……。

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