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魔法の薬

 そこそこ歩き回って、ヴェルの家にたどり着く。意外と辺鄙な所にあるな、両方とも。仕方ないけど。ヴェルってば人付き合い苦手なんだから。私もだけど。

 さて、果たしてことちゃん達はここまでこれるかな……ってか、勝手に呼んじゃって大丈夫かな。ヴェルに後で起こられる覚悟しとかないと。あの子怒るとこわいから。


「お邪魔しますっと。ふたりとも、ヴェルの様子どう?」


 玄関を開けてすぐにいたタヂとヴィタにはなしかける。ヴィタは見る限り無事みたい。良かった。ほっと胸を撫で下ろしながら、ふたりの報告を聞く。ヴェルの体調に変化無し、蜘蛛は見付け次第タヂが退治していたようだ。何も言って無かったけど、私の様子を見て退治した方がいいと思ったらしい。いい子すぎる。


 ヴェルが眠っている部屋に行くと、ドアは微かに開いていた。なかを隙間から覗くと、ヴェルがベッドに横たわっている。

 そっとドアを押し開いて中に入り、ヴェルの様子を観察。ヴィタの報告通り、特に良くも悪くもなってなさそう。


「ヴェル、今から薬作るからね。……ここにもう一人病人増えるけど、気にしないでくれるとありがたい」


 声を掛ければうっすらと目を開いて、こくりと頷いた。もう一度ごめんねと謝って、その場で薬を作り始める。蒸気も吸わせた方が良いからね。

 月夜ちゃんのほうは、まだあんまり重症化してないと信じたい。まだ軽度なら薬だけで対応できるはずだから。


 棚を漁って、必要な道具を借りる。後で綺麗に洗って返すからね!なんなら新しいのプレゼントするからね!


 まずアツ草とエリュ草を擂り潰して煎じる。


「リア、ちょっと……」

「我慢してー」


 嫌そうに顔をしかめたヴェルをなだめて、そのまま薬作りを続行。かなり強い、出来れば嗅ぎたくない苦い草の匂いが部屋に充満しているが、我慢してもらうしかない。

 蒸気を逃してはいけないから、窓も開けられないし、正直私もやりたくない、この作業。


 次は、ナイダを細かく刻んで煎じた薬草たちと混ぜる。あいつみたいに粉末にしちゃうと毒性が強く出るけど、刻むくらいならOK。

 ここら辺から色が怪しくなってくる。そもそも、ナイダは明らかに毒って見た目をしている真っ赤なキノコなのだ。一本が指先くらいの大きさしかないから見つけにくいだけで。


 次は一度冷まさないといけない。焦る気持ちを抑えて、水の魔法でゆっくりと冷ます。この薬は急激な温度変化に弱いから、ゆっくりやってあげなくちゃいけない。この縛りさえなければ一瞬で冷やしちゃうのに。


 ガタンと音が鳴った。そして、それと同時にタヂの声も聞こえてくる。


「おい、お前なんだよ!人の家に勝手に……」

「すまない、緊急事態なんだ」


 来たか。あいつ、もしかしてドア吹っ飛ばしたんじゃないだろうな?怒られるの私なんだけど……。


「エデル、来たんならこっち!月夜ちゃん連れてきて!」


 手が離せないから、こっちまで来てもらうために声を張り上げる。ヴェルはどうせ起きてるだろうし、そこに配慮はしなかった。どうせ、あと少しで完成するんだ。すぐに飲めるようにしておいてくれないと困る。


 体感一分後、エデルが月夜ちゃんを抱えて運んできた。後ろから、泣きそうな顔のことちゃんもついてくる。

 月夜ちゃんのためのベッドを即興で作って、そこに寝かせる。


 薬液を冷やしながら、症状の説明と原因をふたりに伝える。一応、後でふたりも診ておこう。心配だ。


 そろそろ冷えた頃合いだろう。最終の仕上げに、白い粒をそのまま投入した。混ぜるのに使っていたガラスの棒の先端で押し潰しながら混ぜ込んでいく。


「お前それ、よく見つけたな」

「たまたま」


 ガラスで混ぜていたのは、実は理由がある。魔力を吸い出す触媒として、ガラスはぴったりなのだ。


 おおよそ混ざったら、これで完成。適当に半分に分け、このままでは飲みにくいと思って、少し水を加える。あんまり薬が強すぎてもいけないしね。


 少しずつスポイトで吸い上げ、まずはヴェルの口に運ぶ。飲んでくれ、と願いながらポトポトと垂らした。


 細くて真っ白な、今はちょっと変色してしまっている首が上下するのを確認して、まずは少し安心。

 でも、まだここからだ。どれだけ与えれば良いかはなんとなくわかる。与えすぎてもせいぜいお腹壊すだけだから、別に少しくらいオーバーしても構わないんだけど、嫌だよねやっぱり。


 多分毒が消えるのには時間がかかるから、様子を見つつ適度に投薬を続ける。だいたい五分おきくらいが丁度良いかな。

 と言うわけで、次は月夜ちゃんに薬を飲ませる。

 だいぶ苦いだろうけど、頑張って。心の中で応援しつつ、スポイトから薬を垂らす。顔をしかめていたが、やがて飲んでくれた。

 すると楽になったのか表情が少し柔らかくなる。良かった。


 ふたりの病人の様子を観察して、必要そうなら薬を追加。結局、ヴェルの方は半分飲みきってしまった。これで良くなれば良いけど。月夜ちゃんは、全然軽症であんまり薬がいらなかった。余った分は、さらに薄めてそこら辺に散布しとこう。これ以上被害を出したくない。

 現状、薬のレシピなんて出回ってない。私だって、作れたのは昔の記憶を引っ張り出してきたからに過ぎない。覚えてるうちに書き出すか。


「リアさん、月夜ちゃんってもう大丈夫なの?」


 不安そうにことちゃんが聞いてくる。いつの間にそんなに仲良くなってたんだろう友達になるのが早くて少しうらやましいかも。


 ことちゃんを安心させるために微笑んで、頷く。


「大丈夫。もう薬も飲んだし、あとは寝てれば回復すると思うよ」

「良かった……!」


 安心して貰えたようで何より。でも一旦薬のレシピを書くのをやめてことちゃんに向き直る。


「さて、あなたたちは何をしていて月夜ちゃんだけがこうなったの?」


 月童の魔力を舐めているわけでは無いけど、エデルだってことちゃんだって、傍から見れば物凄い魔力量だ。それなのに、ふたりは無事で月夜ちゃんだけなったなんて。運だと言われればそこまでだけど、なにか法則性があるのなら知りたい。


「え、えーっと……それが、あんまり覚えてなくて……」


 ……後でエデルに聞こう。多分、ことちゃんは気が動転して忘れちゃったんだ。

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