最後の材料
相手の反応を伺う。出来ればこのまま退いてくれたら良いんだけど……。
「ふん、そんな見え透いた演技で俺を騙せるとでも思ったのか?」
「……ちっ」
やっぱり無理だった。仕方ない、強硬突破で行こう。ぐっと脚に力を入れて、いつでもあいつを蹴り飛ばせる準備をする。少しでも動いたら、すぐに気絶コースだからな、覚悟してろ。
相手も何か察したのか、睨み合いになる。……これだったら、すり抜けて奥に行けるのでは?そうなれば急がなきゃ。走り出そうとした瞬間、視界の端に半透明て赤色の何かが写った。慌ててそれを目線だけで追いかける。見えたのは、
ゆっくりと羽ばたく小鳥。それは私のそばまで寄ってきて、頭に止まった。
「おい、それはなんだ!」
「しーっ」
鳥にして飛ばす知り合いが多すぎて誰の伝令なのかわからない。中身を聞かないと。目の前で男がギャーギャー騒いでいるが、一旦無視を決め込む。
『リアさん、大変です!月夜ちゃんが、ものすごく体調が悪そうで、熱も出てて、肌の色も変で……!兎に角、早く来て!』
ことちゃん!?え、まさかあの蜘蛛っていろんな所に拡散してる感じなのかな、それとも何か別の物も汚染されてる?でも取り敢えず、月夜ちゃんがヴェルと同じようなことになってるのは理解できた。多めに材料採っておいて良かったー。
でも、まだ材料は揃っていない。ここからぶんどっていかないと。絶対にあるはずだから。
ふと、目の前の男が肩を震わせていることに気付いた。嫌な予感がする。まさか、と男の顔を覗き込むと、気味の悪い笑みを浮かべていた。
ほんとは問い詰めたいけど、そんなことより薬が先。材料手に入れて、調合しながらゆっくり話は聞けば良い。
こういう奴、もしかしたら自分からべらべら喋ってくれるかもしれないけど。
「その月夜とかいう奴は魔法使いか?魔法使いだな!ふっははは、やっぱり俺のしたことは間違ってなかったんだ!」
ほら、喋り始めた。でも、変なこと言ってる。実験が成功したってだけで、間違ってなかったなんて言わないよね。もっと他の言い方があるはず。
「ねぇ、ちょっと。お前、何かしたわけ」
とっととこの場から離れたい気分になって、男の脇を抜けて奥を漁りながら尋ねる。どうせなら全部喋らせちゃおう。
「俺が何かしたかだって?勿論やったさ!憎い魔法を根絶やしにするために、この俺が発明した毒を蜘蛛にのせて辺りにばらまいた!これで漸く俺の悲願は果たされるんだ!」
「へえそう。そんなこと私に話して大丈夫?」
「はっ、こんなお嬢ちゃんに聞かれたところで何も出来ないだろ。何せあの毒は、西の岩場にある鉱石を砕いて、猛毒のナイダと混ぜ合わせたものだからな!解毒するものなんて存在しない!」
「……なるほどね」
ナイダは、解毒薬を作るための最後の材料であるキノコだ。なるほど、あの毒性を使ったのか。それに、西の岩場に転がっている石の中には毒性があるものも存在する。確か、魔力に反応するやつ。
それを使って、どうしてかわからないけど憎んでいる魔法を使う者を消そうとしたわけね。範囲の指定は……してるのか怪しいけど。してて欲しいと願うけど、多分してないだろうな。
男が喋っている間じゅう探し回って、やっとナイダを見つけた。あるだけ回収して、男に向き直る。
「ありがとう、好き勝手喋ってくれて」
ナイダを探している間に見つけた縄で、男を拘束する。最後にギュッと縛り上げた瞬間に、男はその事に気付いたらしい。
ほどこうと暴れていたが、当然縄がほどけることはない。
ついでに鉱石も回収して、騎士団と『夏』宛に黄色の蝶をとばす。これで状況証拠は保存できた。遠慮なく、もうこの場所が使えないように風で荒らしておく。あいつらなら、元の様が見たいと思ったら私に連絡を寄越すだろう。
「通報完了っ、と。後の話はこわーいお兄さん達が聞くから」
「……っ、お前……!!」
「あと、もうひとつ言っておく。お前が作ったとかいう毒はね、昔に存在したんだよ」
残念でした、と言い残して男の前から立ち去る。口は塞がなかったけど、うるさいからふさいでおいた方が良かったかも。
さて、薬を作る前にあともうひとつ。ことちゃんのほうに連絡いれなきゃ。今度は……緑で良いかな。
『大丈夫、薬あるよ。皆でこれそうだったら麓の家に来て。場所はエデルが知ってるはず。来れなそうだったらもう一回鳥寄越して。場所が聞きたい』
送った後に気付いた。エデルに届けた方が良かったんじゃないかな、これ。……まあいいや、やっちゃったものはしょうがないし。