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不調の魔女

蜘蛛がいっぱい出てきます。

「……わあ」


案の定ことちゃんたちと別行動になった私の目の前には、巨大な蜘蛛が数匹と、それに囲まれている小さな子供ふたり。

ひとりは小さなナイフを持っているが、もうひとりの方は丸腰だ。このまま放置して死なれても後味悪いし、と蜘蛛の間に滑り込んだ。


「大丈夫」


目を丸くするふたりをよそに、蜘蛛へ斬りかかる。特に装甲などは無さそうだし、パッと見でかいだけだ。魔力も特に感じない。何らかの影響で巨大化した変異種だろう。

サンプル欲しいな。原因も考えなきゃ。でもまずは、子供達を助けないと。


さっさと一匹を斬り伏せ、流れで隣の蜘蛛の頭部をかち割る。ここまで来ると目の悪い蜘蛛も気付いたようで、こちらへ向かってきた。


「ひっ!」

「少し我慢して」


これ以上巨大蜘蛛居ない可能性は殆どないし、声を立ててはそいつらを呼び寄せてしまうかもしれない。しーっと指を口に当てて、静かにするように合図する。


すぐに蜘蛛に向き直ったが、あいつらはどうやら逃げようとしているようだった。なんか変だな。一応ここにいるものは潰しておこうか、と一匹ずつ倒していく間にも、違和感は膨らんでいく。

こいつら、全く反撃してこない。糸も吐かないし、やっぱり変。これも鑑識回さないと。


「ふぅ。大丈夫?お嬢ちゃんたち」


ぽかんと私を見つめるふたりに、少しだけ笑ってしまう。まあ、見えてないと思うけど。


何も喋らないから、この隙にふたりを観察することにした。


ひとりは私より一回りくらい背の高い男の子。肌が日に焼けていて、痩せてはいるが元気そう。もうひとりは私と背丈がそう変わらない女の子。顔立ちが男の子となんとなく似ている。こちらもだいぶ痩せているが、健康状態は問題無さそうだ。

おそらく、ふたりは兄妹なのだろう。なぜこんなところにいるのかは分からないが、あの巨大蜘蛛に遭遇するなんて、少し可哀想だ。トラウマになってないと良いけど。


「えっ……と、君たち、何処に住んでるの?送ってこうか?」


あまりにも長い間黙っているので、流石に心配になって声を掛けた。

はっと我に返ったように男の子が頭を下げる。


「あっ、ありがとうございました!おい、お前もお礼しろよ」

「……ありがとう」


男の子に軽く小突かれ、女の子は渋々といった様子で頭を下げた。


「いえいえ、ふたりとも、無事なら良いんだけど。ちなみに、君たちがここにいた理由とか聞いてもいい?」

「うん、いいよ」


応えたのは、以外にも女の子の方だった。しかし、この場で話し始めるようなことはせず、


「着いてきて」


と言ってくるりと背を向けて歩き出した彼女のあとに着いていくとどんどん山を下って行っていることに気付いた。

山を降りたいのかな。それとも、麓の方に何かあるのかな。分からないけど、何となく既視感。

なんか知ってる道だなぁ。どこで見たっけ?いや、ここだよ。なんてひとりでツッコミをいれながら大人しく着いていく。


「着いた」


しばらく歩いていると、ふと女の子が足を止めて振り返った。

目の前には、少し荒れた空き地。こんなところに連れてきて、一体何があるってんだろう。


「私たちのママが、中にいるの。ずっとつらそうにしてる」


なるほど、私はその『ママ』の様子を見る係かな?

薄い結界が張ってある。どうしよう、壊すのも良くないよね。……まあ、張り直せばいいか。


指先でくるくると魔力の針を作る。それを結界に突き立て、ぐっと押し込んだ。

ヒビが入った。見かけよりずっと頑丈らしい。刺さったままの針を太くする。それだけでヒビが拡がった。よし、この調子でやればいけるだろう。もう一度、さらに奥へ押し込むとパリン、と軽い音がして、小さな家が現れた。


木でできた、少し歪んだ家。なんか見たことある。うーん、もう既視感の尻尾は掴めてるんだけど。家の扉の方へ歩きながら考えたけど、どうしても浮かばなかった。


「ち、ちょっと、あんた!」


後ろで女の子の声が聞こえたが、今は考えるのに忙しいんだ。ごめんね。

心の中で謝りつつ、扉に手をかける。と、内側からドアノブが回って中に引っ張り込まれた。


「わっ……」

「喋るな」


これまたなんか知ってるような気がする声。ぼんやりしていると、引き込まれた勢いのまま抱きしめられて(というか組み着かれて)、手のひらで口を覆われた。ひとりでに閉まった扉からはガチャリと鍵の掛かる音がした。私を抱え込んだ体は熱くて、もしかして熱があるのかもしれない。


「……リア……?」


しばらくなんの動きも無かったが、私を抱き込んでいる人物が私の名前を呟くと、口は手のひらから解放された。


「っ、は、何?」


顔を上げると、真っ黒の瞳とバッチリ目が合った。そこでようやく、既視感の正体を思い出した。ここ、来たことあるんだ。こいつも知ってる。色々と助けてもらった。


「ヴェル、体調はだいじょぶそ?」

「……全くもって大丈夫じゃない」

「あらら。じゃあお布団いこうね~」


よく見てみれば瞳も潤んでいるし、顔も赤い。やっぱり、熱が出ているんだろう。そのままズリズリと移動して、私ごとヴェルの布団に横たえる。


すっかり力の抜けたヴェルの腕から脱出し、少し氷を出して冷やした。


ヴェル……ヴェルケルル・サーシスは各地を放浪して過ごす魔女だ。最後に会ったのは、確か八年くらい前。その頃から、この家とかは何も変わっていなかった。本人が変わらないのは当たり前として。


「それにしても、お前はいつ子供達産んだの」

「産んでない。あいつらが勝手に住み着いてきただけだ」

「にしてはママ、なんて呼んでたけどね」

「……知らん」


意地っ張りなんだから。さっきの子たちを呼んできていいと言われたから、鍵を受け取って呼びにいった。正直、ヴェルって自分のこと話さないからあの子達から聞くしかない。


「ねえ、君たち、ちょっとこのひとの状態教えてくれない?」


中から顔を出して手招きすると、少し怯えたような顔をしつつも、入ってきてくれた。

なんか怖がられてる。なんでだろ。結界を破ったから?あ、張り直しておかないと。ヴェルにばれてるかなぁ。ばれてるだろうな。


「ママは!?」

「あっち。部屋に寝かせてるよ」


女の子が部屋に走って行った。それだけ心配だったんだろう。微笑ましい。


「そういや、君たち名前はなんて言うの?」


残った男の子に聞いてみる。名前も知らないままじゃ、何かあった時に困ってしまう。


「……俺はタヂ、妹はヴィタ。お前は誰なんだよ?」

「私はリア。お前らのママの知り合いだよ。ここに来たのは全くの偶然だけどね」


タヂとヴィタか。なんか不思議な名前だけど、ヴェルって生まれが外国だから、故郷風の名前なのかも。


「それじゃあタヂ、ヴェルの状態ってわかる?」

「ずっと前から熱が出てる。体もつらそうだし、解熱剤を飲ませても熱が下がらない」

「なんの解熱剤?」

「雪草をすりつぶしたやつ」


うーん、なんかの病気かも。一回病院にかかって欲しいところだけど、あいつが素直に行くわけも無いしなぁ。


「熱以外にもなんか替わったことある?頭痛とか、咳とか、何でもいいよ」

「……咳とかはない、けど。頭が痛いってよく言ってる」

「他には?」

「最近、全身が痛いって言ってる。あと……肌が黒くなってる」

「黒?」


普通に体調崩したくらいじゃそうはならない。魔力にあたったかな、なんて思ってたけどそれも違う。やっぱり、何かの病気だ。でも、こんな症状が出る病気なんてあったっけ?ウイルス、細菌、真菌……。分かんないな。


「君たちは何ともない?」

「俺らは、別に……」


じゃあ、不調をきたしてるのはヴェルだけか。こっそり魔力鑑定してみたけど、この子は魔力をもって無いみたいだ。ヴィタはどうなんだろう?


少しだけ扉を開けて、ヴィタにも魔力鑑定をする。ヴィタの方は、少しだけ魔力があるみたいだ。


「……それにしても。ここ。虫が多いね」

「山だからじゃない」


飛んできた羽虫を軽く払う。いっそのこと虫除けでも焚いてやろうか。人体に害がないやつ。

勝手で悪いけど、あいつも虫嫌いな筈だし、と隙間を探していると、小さな蜘蛛を見つけた。思わず仰け反りそうになったが、違和感を感じて踏みとどまる。

こいつ、私の方に向かって来てる。タヂの方には見向きもしない。魔力に反応してるの?


試しに壁に向けて魔力を放ってみると、蜘蛛はそちらに向かってカサカサと移動した。やっぱり。手袋がないからちょっと嫌だけど、素手でその蜘蛛を掴んだ。


大きさは指先くらい。色は目立たない茶色。床と同化してたみたい。少し噛まれて見たが、毒はそんなに強く無さそう。タヂにドン引きされながら確認していると、部屋からヴィタの声が聞こえた。


「いやあぁ!!なにこれ、なんなの!?」

「ヴィタ!?」


タヂが走っていって、部屋の扉を大きく開けた。

そのおかげで見えたのは、私が指で摘んでいる蜘蛛が、大量に蠢いているところだった。


きっっもちわるい!思わず顔を顰めてしまう。とりあえず壁、床、天井を凍らせて蜘蛛の動きを止めた。ヴィタとヴェルを部屋から出して、しっかり蜘蛛を観察する。


魔力を流しながら観察する限り、こいつらは特殊な構造をしていて、何らかの汚染を受けている。多分、ヴェルが体調を崩したのはそのせいだ。


今から解析に送って、なんて悠長な真似はしてられない。簡易的だけど、今済ませてしまおう。


机の上に置いてあった紙とペンを少し拝借して、魔法陣を描き出す。インクが乾くまで、蜘蛛をできる限り凍らせていった。下手に焼いたりすると有毒物質が飛び散ったりするかもしれないし。


インクが乾いたのを確認して、蜘蛛を魔法陣の真ん中に置く。魔力を流して陣が光り出すと、蜘蛛の情報が頭に流れ込んできた。


『魔法嫌いの科学者が生み出した奇形蜘蛛。魔力を持つ者には非常に危険な物質を体内に有しており、噛まれると高熱と皮膚の変色に見舞われ、内臓の機能が低下し、死に至る』


「思いっきりやばいやつじゃねーか!」


製作者だれだよ!絶対とっ捕まえてやる!……今はヴェルを助ける方法を考えないと。

魔力に反応して毒を生み出す物質はいくつかある。そのうちのどれかだと良いんだけど。何が作用しているのか分かれば、解決策もあったりするし。


さらに詳しく探るために、魔力を流す量を多くする。それで出てきた答えは、鉱毒を生み出すもの、だった。

よし、これなら多分この山に生えてる草だけで解毒は出来るはず。


……汚染されてなければだけど。

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