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初めての朝

寮生活二日目の朝。綺麗に晴れていて、風が爽やかに吹いている。ちょっと目が痛い。昨日窓とカーテン閉め忘れた弊害か。


「おはよう、月夜ちゃん」

「おはよう」


起きてきた月夜ちゃんと挨拶を交わし、朝の用意を始める。髪をとかして、顔を洗って。洗面所まで行くのは面倒だったし、顔を見られたくなかったからベッドについてるカーテンを引いてさっさと着替えまで済ませた。


さて、一体ここから何をすれば良いのか。正直朝食は必要ないし、今日からいきなり授業ってこともないだろう。ことちゃんも一週間は休みにしてあるし、暇になってしまった。


「……リア、起きてる?」

「お、起きてる!」


慌ててカーテンの隙間から顔を出すと、案外近くに月夜ちゃんの顔があって驚いた。

どうやら、私があまりにも出てこないから心配になって様子を見にきたらしい。見れば、月夜ちゃんもバッチリ朝の準備が終わっていた。

「えー、月夜ちゃんてば私のこと心配してくれたのぉ?」

「それは、まぁ、ルームメイトだし」


うん、可愛い。思わず頭を撫でそうになったが、我慢。


「そういえば、リアってもうご飯食べた?」

「え、まだだけど」


食べる気無いよ、と言う前に、月夜ちゃんに腕を引っ張られてベッドの外に転がり出た。


危な、こけるとこだった。ちょっと、と非難を込めて見つめるけど、月夜ちゃんは我関せずとばかりにそのまま部屋を出た。

もしかして、月夜ちゃんって結構マイペース?


さっきの衝撃でとれかけたフードを深く被り直して、おとなしく月夜ちゃんに連行される。

多分、食堂に朝食を食べに行こうとしている。食堂は一階にあるから、ちょっと遠い。それも、朝食を取る気にならない理由の一つだ。




「あのー、月夜ちゃん。ごめんなんだけど、私、あんまり朝食べないっていうか……そんな量いらない、かも」


私の予想通り食堂に来た訳だけども。ビュッフェ形式の朝食を「リアの分も取ってくる」と言って、テーブルに私を残して行ってしまった月夜ちゃんが戻って来たとき。その手に持たれた二つのお盆に、同じくらい山盛りになった料理を見て、頬が軽くひきつるのが分かる。


「そう?なら、食べきれない分は私が食べるから頂戴」

「……うん」


まさかいらない、なんて言えなくて、半ば無理やり料理を口に運ぶ。美味しかったけど、やっぱり朝からそんなにはいらないや。

1/3くらいまで食べて、あとは月夜ちゃんに渡した。朝はこれで限界だ。昼だったら十分食べられる量なんだけど。


「じゃ、私先に戻るね」

「うん、まはあほへ」

「口の中空になってから喋ろうか」


手を振って月夜ちゃんと別れる。本当に六階まで上がるのは骨が折れる。何で階段オンリーなんだろう。朝にも関わらず、人が多いから安易に魔法使えないし。


もともと鍛えてたお陰でそんなに疲れずに部屋まで辿り着けた。さて、この後どうするかだよ。

特にやることもない。ただの暇人だ。


「資料でも作っとく?」


思考が仕事に傾くのは私の悪い癖かもしれない。思い付いたならしょうがないか、と机に向かい、ペンを取り出す。こないだ買ったばかりのものだ。ことちゃんが気に入っていた物の色違い、というか宝石違い。蓋にアメジストが突いたやつ。こっちのが安かった。


ガリガリとペンを走らせていると、時間が経つのも忘れてしまう。月夜ちゃんが戻ってきたことにも気づかないで資料作成に勤しんでいると、不意に手元が暗くなった。

そこでやっと顔を上げると、無表情な月夜ちゃん。


「ん?どうしたの」

「休まないの?」

「まぁ、そんな疲れてないし……。え、何、もうそんな時間経ったの?」

「少なくとも、私が戻ってきてから二時間経ってる」


まじか。結構経ってるなぁ。それだったら少し休んだ方がいいだろう。今何時、と時計を見ると九時過ぎ。起きてから今まで時間を気にしてなかったけど、今日は予定もないのに随分早起きだったらしい。


グーッと伸びをすると、腰のあたりで骨が鳴った。流石に運動しないと不味いかもしれない。運動と素材集めも兼ねて魔物討伐にでも行って来よっかな。

まあでも、その前に資料を完成させないと。


「さっきから、何書いてるの?」

「仕事の資料。結構大事なやつ」

「ふーん……全然読めない」

「そりゃね」


あの会議に出るようなやつは私も含め年寄りばかりだから、今現在使われていない言語で資料を作っている。こっちの方が機密性が高いからね。


……よくよく考えると、私の周りには人外と年寄りがずいぶん多い。若い子って、あんまり関わる機会無いかも。しょうがないことではあるけど。なかなか彼らの目には留まらないんだろうね。もっと条件の良いとこいっぱいあるし、知名度もそんな無いから。


再びペンを走らせる。一度休憩したことで、ちょっと思考がクリアになった。これならすぐに終わりそうかも。ふんふんと鼻唄を歌いながら資料を仕上げていく。図とかグラフをつけようとしたけどやめた。自分の脳内で補完してくれ。


「よしっ」


しっかり見直しをして誤字脱字を確認し終え、これで大丈夫。適当なファイルにしまい込んで、送っておいた。すぐにやらないと忘れちゃうから。

これで本格的にやることが無くなったので、やっぱり魔物討伐に行こうと思う。確か寮の門限が夜の11時までだったから、それまでに戻れるか分からないけど。


「月夜ちゃん、ちょっと出掛けてくるね」

「あぁ、うん。行ってらっしゃい」


月夜ちゃんは本を読んでいて、それに夢中なようでおざなりな返事を返してきた。あるある。


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