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試験

作者: 安本旦

 A国とB国がいつものように戦争をしていた。

 国連の勧告を無視して、互いが互いの正当性を主張して多くの命を失わせながら戦っていた。


 そんなある日のこと。

 戦場の国境付近の上空に巨大な銀色の円盤が突如として現れた。

「なんだあれは」

「敵の新兵器か」


 そのような声を発しているA国の兵士たちに虹色の怪光線が当たった。

 ヒュルヒュルヒュル…そんな音と共に数人の兵士たちが上空の円盤に向かって吸い込まれていく。

「やはりB国の新型兵器か!対空砲をありったけお見舞いしてやれ」と司令官が怒鳴ると、「それでは我が国の兵士たちの命が」と近くの参謀が即座に諫めた。しかし、司令官は「かまうものか、やれやれやっちまえ」と強引に命令を下し、兵士たちもA国が誇る最新鋭の対空ミサイルを発射したのである。


 ところがそんなに高くない位置に浮遊している円盤にミサイルが当たっても変な音がして、ミサイルは爆発せずに落ちてくる。その衝撃でA国の軍事施設は多大な被害を被り始めた。

「攻撃中止だ!止め止めい!」

 司令官は直ちに大統領に事の次第を報告して、指示を仰いだ。これがB国の新兵器なら、B国の軍事技術はA国を遥かに凌いでいることになる。円盤の正体をはっきりさせないことには士気にも影響する。


 A国の大統領は最初、その突飛な報告を信じようとはしなかったが、記録された映像を見て泡を食った声で叫んだ。

「こんな無茶苦茶な兵器があるか。とりあえず、円盤は無視してB国への攻撃を再開せよ…!」

 大統領にしてみれば、円盤から爆弾も何も落ちてこないのなら、B国へ攻撃していくことでその反応を確かめていくしかないという判断だった。


 しかし。A国の兵士たちが攻撃の体制につこうとすると、身体が勝手に基地施設の外に出ていく。

「お前たち、どこに行く。軍法会議にかけるぞ」

「分けが分からんのであります。にっくきB国めと心は思っているのですが、身体が勝手に」

 いつしか施設の外に集まった何百という兵士たちにまたヒュルヒュル…という怪光線が当たり、円盤に吸い込まれていった。

「オニョレ!こうなれば吾輩がこの基地のありとあらゆるミサイルをB国に向かってぶっ放してくれる」

 司令官はいきり立って難しそうな機械の前に座ったが、その途端、顔つきが変わり夢遊病のように先の兵士たちと同じように出て行って、光線と共に吸い込まれていった。

 そしてA国のこの基地は戦闘不能になった。


 喜んだのはもちろんB国である。

「あの円盤は我らが神のお使いに違いない。この機を逃さず、わが軍の戦闘機も戦車もとにかくなんでもかんでも突っ込ませろ」

 一人で名将を自負していたB国の将軍は、総攻撃の指示を出した。

 ところが、驚くべき報告が飛び込んできた。

「将軍!飛行機が飛びません!燃料があってもエンジンがかからんのです!」

「戦車も同様です」

「ミサイルの発射ボタンもうんともすんともいいません」


「そんなバカなことがあるか。日頃の整備がいいかげんだからこうなるんだ。よく点検しろ」

 将軍にそう言われては調べなくてはいけない。B国の兵士たちも外に出て、各々点検していると…

「おい、円盤がこっちに来ているぞ」

 誰かがそう言ったとたんに例の怪光線がヒュルヒュルヒュル…

 規模は少ないもののまた数十人の兵士たちが吸い込まれた。

「やや、これは神のお使いではなかったのか」

 将軍は慌てふためいたが、この後、B国の兵士たちも戦意が萎えてしまい、総攻撃は中止となった。


 世界はこのニュースに驚いた。

 未知の円盤は愚かな人類の戦争を止めさせに来た、高度な知的生命体の操るものに違いない。これでA国とB国の長年に渡る戦争もどうにか終わるのではないか。そんなSF的な楽観論もあった。

 一方で、さらわれた兵士たちの安否を気にしながら、円盤の正体を考える者もいた。

「あれだけ高度な科学技術を持ちながら、生かしながら我々人類を捕獲している。きっと彼らは円盤の中で、残酷な生体実験の犠牲になっているのだろう」

 これはこれでSF的ではあったが、AB両国の間に休戦協定が定まるとさらわれた兵士たちの救出を唱える者が増えてきた。

「彼らは我々がこうしている間にも宇宙人に残酷な目にあわされているかもしれないのだ。一刻も早く救出の策を練るべきだ」

 そのような意見が世界の大勢を占めるようになってきた。


 円盤はAB国の国境で数日間浮遊していた後、突如として全く別のC国に現れた。

 C国はここ数年平和を保ち、著しく経済成長を遂げている世界の優等生国家であった。

 ここでも円盤は怪光線を発して、C国の国民を強制的に拉致した。ただ、AB国の時と異なり兵士ではなく、病院の患者たちをさらったのである。怪光線の仕組みはいかなるものか、歩けないはずの患者たちまで歩き始め、まるでハーメルンの笛吹にさらわれるように、上空の円盤に吸い込まれていった。


 数日後、今度はD国に現れた。D国でのさらい方はまたこれまでのものと違っていた。D国ではテレビ局が狙われた。世界的な芸能人、特に魅力的な俳優たちがさらわれた。


 さらに数日後はE国。今度は病院だったが、生まれたばかりの赤ん坊たちが空を浮かびながら怪光線に吸い込まれていった。残された母親たちは気も狂わんばかりに泣き叫んだ。


 円盤が平和の使者という仮説は完全に否定されたようだった。

 それどころか、世界中が円盤を憎んでいた。自分たちの大切な仲間を奪った、物言わぬ浮遊物。

 ついに国連はA国の失敗を把握しつつも、円盤を軍事的に攻撃することを決めた。


 しかし、あらゆる攻撃が無駄だった。円盤に近づくものは飛行機であれ、ミサイルであれ、皆「やわらかく」跳ね返された。超自然的であったのは、何か透明な壁のようなものに跳ね返される時に爆発が決して起きないことであった。円盤の持つ科学技術が人類のそれを遥かに凌駕しているのは間違いなかった。

 全世界の科学者が頭を悩ませることになった。


 事態が急展開を迎えたのは、円盤が出現してちょうど一年経ったときだった。

 国連の本部の前に、さらわれた男の一人が突如現れたのだ。

「よくまぁ無事で」

 男が円盤からやってきたことを述べると、多くの人がその続きを聞こうと身構えた。

 男が言うに。円盤に宇宙人と見えるものは存在しない。ただ、テレパシーのようなもので指示をされる。特に何を強制されるわけでもなく、不思議な個室に閉じ込められている。食事や排泄は意識していない。円盤の中では半ば夢うつつの様な状態になり、自分が何をしているのかも分からないという。

「他の人たちはどうなっているんです」

「まぁ聞いてください。正直、他の人のことは会ってないので分からないのです。でも、おそらく今は無事です」

「というと」

「宇宙人…便宜上そう呼びますが、宇宙人は私に地球人への伝言を指示しました。『預かっている地球人は爆殺する』と」

 なんとひどい。悪魔のようだ。いや、悪魔そのものだ。周りの声がそう高まる中、男は続けた。

「続きがあるのです…助けたければ、来てみるがいい。だが、円盤の周りの見えない壁を破って円盤にたどり着くのは地球の科学では不可能だ。」

 男はそう言ったあとに、虹色に光る鉱石と奇妙な図面を取り出した。

「これはなんだね」と聞く声に男は答えた。

「私にも分かりません。いつの間にか持たされたのです。あ、私はもう役目を果たしたようです。戻らねばなりません…どうか皆さん助けてください。爆発したくない…!」

 男はそう言うと、またふらふらと…周りの人々が行かせるものかとつかもうとするのも虚しく、男はまたも怪光線に吸い込まれて、空に消えていった。


「なんて残酷な奴らだ!」

 そう怒る人々の中から、「この鉱石は…図のこの部分と対応しているようですよ」という人の声が聞こえた。「これは何かロケットみたいなものの設計図ではないですか」


 ***

「お疲れさまでした。とても上手にやってくれましたね」

「地球人の一人として恥ずべき思いです。あんな芝居をしなくてはいけなかったなんて」

「いいのです。あなた方は自分たちの国という分割されたものにこだわり、地球人としての自覚をお持ちでなかった。あなたはそれに気づかれた。」

「あれだけのヒントでこの円盤まで来られるでしょうか、地球人は」

「なぁに、X星でもY星でもこの方法でうまくいきましたから。社会性を持った生物が成長するには、共通の敵を作るのが一番です。我々ぐらいの高度な生命体になると、異星の生き物を教育するぐらいしか楽しみがないのです。

 心配なさらなくても、あなた方の命は保証しますよ。地球人がまじめにあなた達を救おうとしている限りはね…」



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