家族Ⅱ
「真白!」「紡さん!」
追いかけようとした紅葉の腕を朱雀が掴んだ。振り解こうとしたがそれも叶わない。
「離せ!お前のせいだろう朱雀!お前が余計なこと話し出すから!」
「余計なことだと?さっきも言っただろう、これは俺達だけの問題じゃない。この街の、この世界の問題だ!あの子の力はそれくらい危険なものだってお前も分かってるだろ!」
「だったら追いかけて捕まえなきゃだろうが!1人にさせて何かあったらどうするんだ!」
紡の姿は森の中に消えてもう見えなくなっていた。ただでさえ足場が悪い森の中なんて異怪物に狙われやすい紡なんて格好の的だ。昨夜首にかけたお守りは異怪物から彼女を上手く隠すだろうがその効力も気休め程度だ。妖力の強い異怪物に狙われたら今の紡では対処しようがない。
「この森から無事に出てこられないようならこの先やっていけねえよ。それにこれから色々なやつに命狙われるってんなら、ここで終わりにしちまった方が…ってめ、紅葉!」
掴まれた右腕はそのままに、紅葉は地面を蹴って左脚を朱雀の顔面に蹴り込もうとした。咄嗟に掴んでいた右腕を離し、朱雀は後ろに飛び退く。間一髪紅葉の飛び蹴りを躱す。
「理由も分からず殺されることを受け入れろって?ふざけんな。朱雀、あいつに何かしてみろ。絶対許さないからな。」
そう言うと紅葉は紡の姿を追って森の中へと駆けていった。
「チッ、あの馬鹿が!後先考えず動きやがって。おい、燈!なにボケっとしてんだよ!」
2人の喧嘩を側で見ていた燈に向かって朱雀は吠える。
「全く。冷静になりなよ。ああでも紡さんをここに連れてきた俺が悪いか。それは悪かったね。」
「お前もあいつもなんだって厄介事に首を突っ込むんだよ。ただでさえ俺等は厄介者の集まりだっていうのによ。これ以上立場悪くしてどうするんだ。」
「じゃあ君はあの子を始末するべきだと思うのかい?」
朱雀は言葉に詰まった。命令とはいえやはり何の罪もない少女の命を奪う事を善とは言えなかった。
「じゃあどうするんだよ。現にあの…紡とか言ったか?力の制御できてんのかよ。」
「それをこれからウチに置いて修行させるんじゃないか。もちろん、バレないようにね。どうするかはまだ保留でいいじゃないか。それに…」
燈は出会ったばかりの少女とのやり取りを思い出す。芯の強い、何もかもを包み込むような優しさを持った少女を。そして、何より燈たちにとって大切な家族を好きだと言ってくれたあの少女のことを。
「紅葉にはあの子が必要だ。」
「そうかよ。あーめんどくせーな。あいつら探すか?」
「いや、紅葉が見つけてくるだろう。お手製のお守りもあることだしね。さて、俺は夕飯の支度でもしよう。君の好物を作ろう。帰ってきたらちゃんと2人に謝るんだよ。」
「わーってるよ。けどよ、あの紡って子は本当にあの真白家に伝わる例のアレなのか?」
「真白家が最も恐れている一族の呪いか…」
どんな呪いでもあの2人なら乗り越えられる。そう信じて手助けをすることが大人である自分達の役目だと燈は思う。そのために2人が帰ってこられる場所を作らなくては。
「家族が増えるよ、いつもより多めに作らないと。」