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薄紅色の縁  作者: yuki
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覚醒Ⅱ

結局その日は1日気分が優れず、昼過ぎには早退することにした。昼休み、友達2人が保健室までお見舞いに来てくれた。

「入学以来皆勤賞、遅刻早退無しのツムちゃんが珍しいこともあるね~。」

まん丸のメガネをかけた小柄な少女、鷹城琴里(たかしろことり)はのんびりとした口調で話しかけた。ショートボブが似合う可愛らしい顔立ちをしている。

「クラスの男子たちが大騒ぎだよ。ここにも皆来たがるからアタシらが黙らせて来たんだ。」

もう1人は栗色の髪の毛を腰まで伸ばした長身のスラッとした少女、明星詩音(あけぼししおん)だ。

2人とは1年生の頃から仲が良い。いつも一緒にいるというわけで訳では無い。3人とも用事があれば別行動を取るし、他2人に合わせて自分の行動を変えるということもない。お互いどこか一線を引いてるとも言えるが、紡にとって2人とのこの距離感は有り難いものだった。

「モテモテなのも困りものだねぇ〜。それより体調はどうなの〜?」

「うーん、やっぱり良くないかな。熱は無いんだけど体が重いというか…。」

「帰れ帰れ。勉強も運動もできて、お顔も整っていて、人当たりも良い。スタイルも大変よろしい。そんな完璧なやつが風邪も引きませんは出来すぎてるだろ。今日くらいゆっくり休みなよ。」

「うんうん。でもどーしよ。再テストの勉強、ツムちゃんに見てもらおうと思ったんだけどな〜。」

「アタシが見てあげるよ。全く何であんな簡単な小テストで躓くかね〜。」

琴里は見た目に反して勉強が壊滅的である。一方で詩音は紡ほどではないが、学年でも上位の成績をキープしている。


「琴里ちゃん、詩音ちゃん、ありがとう。ところでさ…」

紡は先程からずっと聞きたい事を口にした。

「高坂さんはまだ教室いるの?」

2人は顔を見合わせて同時に溜息をついた。

「今日は珍しくね。相変わらず授業はほとんど聞いてなかったみたいだけど。」

「あ!でも図書室では起きてたよね〜。今日の2時間目、図書室で調べ学習だったでしょ?ずっとウロウロしてて調べ物なんかしてなさそうだったけどね〜。」

「そっか…。」

紅葉がまだ教室にいると分かって帰るのが少し惜しいなと思ってしまう。

「ツムちゃん。あんまり言いたくないんだけどね、高坂さんと関わるのもうやめた方がいいとおもうよ?今日もすごい傷だらけで学校来てて…。ツムちゃんが何か危ない事に巻き込まれたらって思うと…。」

琴里が俯いて小さく零す。いつもののんびりした口調ではない。

「ツムちゃんの気持ちは分かってるんだけどね…。」

「心配してくれてありがとう。でもね、高坂さんは皆が思ってる様な人じゃないよ。私は高坂さんと友達になるの諦めない!」

(本当は友達以上目指してるんだけどね…)



目が醒めると自室のベッドの上だった。帰宅後すぐに寝てしまったらしく、制服を着たままであった。

(5時間近く寝てる。そんなに疲れてたのかな。)

体調はだいぶ回復している。ただの寝不足だったのだろうか。

時刻は午後11時。

もう一度眠るにしては寝過ぎてしまって目が冴えている。

(散歩でもしようかな。)

夜中に女子高生が1人で出歩くなんて危険極まりないが、それを咎めるものはいない。もしこの場に琴里と詩音がいたら全力で止められ怒られるだろうが。

(高坂さんは…)

紅葉はどうだろうか。紅葉なら自分に何て言うのだろうか。

(高坂さんに会いたい…。)

あの人には抱えているもの全て話してしまいたい。誰にも言っていない秘密を。


目的もなくただフラフラと歩いていると、不意に妙な胸騒ぎを覚えた。今朝バスの中で感じた様な違和感。

(またこの感じ…。学校の方から?)

しばらくすると学校の方から何か嫌なものを感じた。気のせいかもしれない。しかし、確かめずにはいられなかった。見えない糸に引き寄せられるように紡は学校へと急いだ。



校門は閉まっているだろうと思われたが予想外にも開いていた。不用心だなと思いつつ中に入る。夜の学校とはもっとおどろおどろしいものを想像していたが、意外にもしんと静寂に満ちていてむしろ夜空を1人で歩いているような幻想に囚われるようだった。物音1つしない、世界で1人だけになったような感覚。



紡の足はそのまま普段は絶対近づかない場所へと導かれるように進んで行った。屋上へと続く階段。

一歩一歩慎重に進む。ドアノブを捻る。ドアを開けるとそこには……。


「高坂さん…?」


眼の前には制服を着た高坂紅葉、その手には1振りの刀。

そして、もう一体いる。

(動物?でも…)

大きすぎる。犬、猫のサイズではない。軽自動車程あるだろうか。毛むくじゃらな四脚に顔はサルの様で、目が8つ、鋭い牙。まるで妖怪のような出立ち。


全ては一瞬の出来事だった。


それまでお互いどちらが先に動くか牽制し合っていた所へ部外者が乱入してきた。

怪物は突然現れた紡へ一目散にかけていき息の根を止めようとする。


「っ!!」

紡の眼の前が真っ赤な血に染まった。高坂紅葉の血で。

しかし同時に怪物からもおびただしい程の鮮血がほとばしる。紅葉が持っていた刀で攻撃と同時に一刀両断したのだ。怪物は崩折れ塵のように消えてしまった。


「高坂さん…血が!」

怪物の鉤爪による攻撃で紅葉の肩から大量の血が流れ出ていた。他にも所々切り傷があるが、肩の傷が酷すぎる。

「高坂さん!!どうしよう!!救急車呼ばないと!私のせいで!」

「ま…しろ…。な…ん…で…」

「私のせいで!私のせいだ!!」

血を止めないと。助けないと。涙が溢れる。掌を傷口にかざす。すると、眩い光が傷口を覆う。

「まっ…て…。だめ…。」紅葉が力なく抵抗する。

紡は傷口を手で抑えながら祈った。

光は次第に小さくなり傷口は完全に塞がっていた。どうしてこんな事ができたのか紡自身分かっていない。だが、明らかに自分の見ていた世界が変わった。学校の周りにはまるで結界というもののように透明な壁が張り巡らされていた。そして、結界の外には大なり小なり多くの怪物の姿が見える。先程の怪物のように襲ってくる気配はないが。


「なにこれ…?」

「視えるの?」

意識が戻った紅葉が尋ねる。顔色は悪いが傷を塞いだことで命に別状はないみたいだ。


「高坂さん!血がいっぱい出て…私のせいで死んじゃうかと思って…!」

「これアンタがやったの?」

服をずらし肩の傷口を見せてくる。

「よく分らないけど、無我夢中で…。」

「真白紡。」

紅葉は真っ直ぐに紡を見つめる。思ったより顔が近く紡はどぎまぎしてしまう。その目は怒っているようにも泣きそうにも見えた。そして、何かを決意したように目を閉じた。

「何してるんだって言いたいところだけど。でもありがとう。助かった。家まで送るから。」


この日は忘れもしない2人が本当の意味で出逢った日。互いを強く結びつけた最初の日。

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