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プロローグ
悲鳴をあげている。体も心も。何もかもが冷たい。
永遠に続く闇の中を彼女は一人きりで走る。その手には小さな木箱。雨に打たれて冷たくなったこれだけが唯一彼女を暖めてくれる。
「白…」
か細い声。愛した人の名前を呼ぶ。返事はなく、だが手に持つ箱は僅かに熱を帯びた気がした。
「っは…!」
道はそこで途絶えていた。一歩踏み出せば眼下を流れる川に身を投げることになる。
「いたぞ!捕まえろ!」
追ってはすぐ後ろに。
もう何も無い。家も身分も財産も。何よりも大切だったあの子も。
でも……
「私には『コレ』がある。あはは。まだやり直せる。ここで命尽きても、また会えるわ…だって……っ!!」
背中が熱い。衝撃で前に倒れた体はそのまま濁流へと呑みこまれた。
薄れゆく意識の中で浮かぶのはあの子の優しい笑顔。慈愛に満ちた眼差し。心地良い声音。
『この身はあなたのものです。』
(嘘つき……許さない…許さないから…)
だから今度は絶対に。
「どこにもいかないで…」
ふわっと書いてます。
こういう設定の物語があったら読みたいというのを形にしたかっただけです。