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星の屑から  作者: えすてい
第1章 自由と代償

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第7節 捜査と取り調べ

 

 憲兵は捜査資料に目を通しながら話しかける。

「事件の概要はこうだ。昨日の昼過ぎに自警団の本部が爆破され、死傷者は五十二名、全てが自警団の関係者だった。辛うじて生き残った者も、突然の爆発による音と衝撃で重傷のため、詳細は不明だ。分析班の調べでは魔法を使った爆破ではなく、火薬が用いられた形跡があることが分かっている。………自警団は倉庫に火薬をしまっていたのか?」

 問いかけられた男は憔悴しているのかひどくやつれていた。昨日から一睡もできず目が血走っている。

「いえ、そんなことはありえません………。あそこには災害や飢饉が発生した時のために、食料や水の備蓄がしてありました。それ以外は資料や各支部の備品くらいしか………」

 男は何度目か分からない質問に小さな声で答えた。

 再び憲兵は尋ねる。

「あの屋敷を全壊させる程だ。使われた火薬は相当な量、どこかに隠していたか――――」

 憲兵の言葉を途切らせるようにして、感情を強めた男は叫んだ。

「―――いや、隠していたなんてありえねぇ! 第一あそこは避難場所に指定されている施設なんだ!」

 男の頭の中に団員たちの顔が浮かんだ。

 あいつらは気さくで、いい奴らばかりだった。

「そんな場所に火薬なんて――!!」

 言い終える前に男は言葉を失う。

 控えていた別の憲兵が男の肩を掴んで宥める。

「落ち着きたまえ。君は昨日、本部の窓口を担当していた。それに間違いはないな?」

 男は明らかに取り乱して憲兵に訴える。

「ええ、そうですよ! 何度もお話しした通り、怪しい人間なんか入れたりしてない!」

 憲兵たちの疑念を感じ取ったのか、男の脳内は加熱され語気を荒くする。

「まさか、犯人を俺と疑ってるんじゃ―――」

 憲兵はジロリと男を睨みつける。

 長年の経験が言葉の裏側を(つぶさ)に見抜いた。

 この男は、爆発で多数の死者を出せるようなたまではない。

 憲兵が今度は叱りつけるように告げた。

「だから落ち着けと言っている!」

 そして憲兵は別の糸口を探す。

 勢いを失い黙った男に、こう告げた。

「君の身元は調査中だが、大量の火薬をすぐに動かせる人間はそう多くはない」

 憲兵に気圧され、男は目線を合わせたまま諾々(だくだく)と話を聞き入れる。

「これは計画されたもので多数の人間が絡んでいる。手引きしていないというのであれば、思い出せ」

 男の正面に立った憲兵が真っ黒に焼けこげた何かを取り出した。

 机の上に置かれたそれを男は見つめる。

「いいか、あの詰所で何か特別なことが起きたはずだ。なんでもいい、思い出すんだ」

 何度も問いただされた昨日の一連の流れが、再び男の頭を駆け巡った。

 男は頭を抱えて俯き、呻き声を上げる。

「特別なこと……そんなもの………」

 目の前の炭と化した物体に目を向けた。

 あっという間の出来事だった。何も変わらない日常、退屈な毎日に飽き飽きするほどだったのに。そんな日々が一瞬のうちにぶち壊され、気心知れた仲間たちの命を奪い去っていった。

 偶然外に出ていた俺を除いて、無事だった者はほとんどいない。焼けた建物は熱で覆われ、人々の救助を拒んだ。俺は只々呆然と見ていることしかできなかった。

 辺りには焦げた匂いが充満し、鼻から入って脳を(いぶ)していくような感覚がした。

 髪の毛が抜けるほどに強く頭を掴み、この事件を招いた極悪な犯人を憎んだ。

 誰がこんなことを。絶対に許さない。

 目に入る黒い物体が、どこか既視感を思い出させる。俺はこれをどこかで見たことがあった。

 原型を留めていない炭に近い何か。手で扱う道具のような大きさ。

 男の記憶が火花を散らせるようにどこかと触れあった。

 そうだ、特別なこと……!

 何かを思い出したかのように男は顔を上げる。

 弾かれたように動いた男に、憲兵は尋ねた。

「なにかあったのか!?」

 憔悴していたさっきの顔とは違う。歪んだ哀れみ、嘆きを超えた自虐のような悟り。

「………数日前のことなんですが、大量の塩が届くと通達があったんです―――」

 男は目を開いて天井を仰いだ。

 全てが繋がっていく恐怖が男を支配する。

 憲兵は呟きながら資料をめくる。

「大量の塩……」

 男は瞬きもせず小さな声で囁く。

「……俺は昨日、荷馬車数台分の塩を検品した―――」

 調査書のページを見つめていた憲兵は首を傾げるように告げた。

「調査結果によると確かに倉庫からは塩が見つかっている。だが、君がいうような量ではない」

 分かりきったことだったはずなのに、憲兵は無慈悲にも男の推測と同じ結論に至る。

「君の話しが本当だとすれば、昨日納品されたものは塩と偽られた、大量の火薬だった………」

 男は手のひらを広げて弁解するかのように大声で叫んだ。

「そんな馬鹿な! あれは確かに検品したが、塩だった!」

 御者と他愛もない世間話をしながらも、それでも確実に仕事は全うしていた。おかしな点はなかった。

 火薬の匂いなんてこれっぽっちもしなかったはずだ。

 俺が、確認ミスしたせいで……俺が……みんなを? ―――そんな、そんな!!

 男の目の前に置かれた黒ずんだ魔導具。ギルドや関所で使われているありふれたものだ。

 男は魔導具の故障ではないかと訴えたが、実物は焼け爛れ見るも無惨な姿だった。

 検品は目視と魔導具によって行われるが高度な魔法はそのどちらをもすり抜ける。

 男に罪はない。

 憲兵は絶望に押しつぶされた男の姿を見下ろしながら、別の待機していた憲兵に指示を出す。

 

 自警団本部爆破事件を受けて、クルフ子爵の憲兵団は捜査を開始することになった。

 捜査の初期段階では、自警団による火薬の管理怠慢だと思われていた。しかし、ある商会の取り扱う火薬が大量に盗まれていたと報告が入る。商会グループと自警団の確執による抗争か、第三者による派閥争いを目論んだ陰謀か。今後は二つの線で捜査が進められる予定だった。

 だが、後にその捜査が続けられることはなかった。

 その禍根がどれだけ根深いものだったかなど、誰が想像できただろうか。


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