最終節 バックコーラス
スピーカーから発した耳障りなノイズが響く。
断続的に鳴った雑音の波が引くと、しばらく無音になった。
窓から聞こえる猛吹雪の音が際立つ。風が部屋の中に入らんと窓を強く叩いた。
机に置いた手のひらは、持って余した暇を貪欲に消費する。人差し指で机を叩いて単調なリズムをとっていた。
定刻までもうすぐだ。
待ちきれない報告と、不思議な周波で鳴る機械音に心を弾ませる。
少しすると、スピーカーから再びノイズが走った。
今度は雑音に混ざって誰かの息遣いが聞こえる。
机を叩く指を止めて、耳を傾けた。
激しい雨のような音の隙間に、人の気配を感じられた。
待ちに待った言葉を聞くために神経を研ぎ澄ます。
ノイズと共に聞こえてきた声はこう告げた。
「計画……り…ヤミレスを抜けた………次は……お前……番だ……」
間を空けた直後に吹雪が止んだ。
一瞬の静寂の後にスピーカーから声が発せられる。
「魔王様よ……」
気が付くと通信は途切れてしまい、雑音は消え失せた。
部屋の中に再び吹雪の叫びが反響する。吹き付ける風の勢いに窓は音を鳴らす。仄暗い室内に備えられた灯りは、隙間風に身を揺らした。
蝋が底を尽き、最後の火が消える。
灯りのなくなった空間は、重たい闇が支配していた。
先ほどまでそこにいた人物の姿はどこにもない。
わずかな温もりだけ残された部屋の中には、冷たい機械と机だけがその場に鎮座していた。