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星の屑から  作者: えすてい
第2章 秘密の魔法学院

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第1節 羨ましい(挿絵あり)

 

 羨ましい。

 小さい頃から自信はあった。他人と比べても見劣りすることのない才能。都から呼ばれた魔術師の教師達がそれを教えてくれた。

 魔法の才がある、記憶力が高い、天才的な頭脳。私の魔法の技術や理解、飲み込みを評した賞賛の数々が自尊心を築き上げた。

 特別な存在、特異な自分、誰もが自分の魔法に驚き、そして羨望の眼差しを向ける。幼い人間にとって、なんと堕落した蜜なんだろうか。

 だけどそんな私が有頂天にならず、歪んだ性格へと育たなかったのにはわけがある。

 絶対に越えられない存在である兄たちが、私を傲慢にさせてくれなかった。

 追いつこうと何度も身を削る努力を行ってきたが、その度に彼らはどこまでも次の頂へと登っていく。

『あれが噂のクルフ子爵の………』

『ご令嬢ももっと頑張れば兄上様のように………』

『やはりお兄様とは違いますなぁ………』

 いつまでたっても追いつけない無慈悲な鬼ごっこを血という繋がりで無限に繰り返される。

 自分と兄を勝手に比べて僻むこともあった。だから私は浴びるほどの賛辞も無視して、魔法に打ち込んだ。

『まだお前には早すぎる』

『クィーラ、危険なことはするな』

『何故言っていることが分からないんだ』

 どれだけ積み重なった成果があっても、自分が認めてもらえることなんてなかった。

 深みにはまっていく自分を腐らせて、不満をぶつけてしまうこともあったかもしれない。そのたびに衝突することも少なくなかったと思う。よくない思い出だ。

 だが気丈に振舞うことを覚えてからは少し気が楽になったように感じる。自分に期待を持ちすぎていたあの頃、少しの諦めが私には必要なことだったのだ。

 どうせ、ルールエからは出られないし、旅にだって行けない。そういうものだと割り切った潔さが私にはちょうど良かった。

 しかし、ルールエの一件が終わった後、私は兄からこんなことを言われた。

『クィーラ、すまなかった。お前は見違えるほどに成長していたのに、俺はそれに気付けていなかった。

 もうお前を縛るものはない。お前は、強い』

 否定され続けていた兄に認めてもらえたことが、私は本当に嬉しかった。

 まだ悪を知らない私を危険から守るため、ルールエで冒険者になることを禁じていたこと。無鉄砲な私が無謀に走らないよう、常に強くあり続けてくれていたこと。

 ずっと私を気に掛けていてくれていたことを、私は改めて知った。

 もう守られるだけの存在ではなく、誰かを助けられる存在にならなくては。

 旅へ出て、本当に自分が望んだことが叶う。

 そんな希望をもって生まれ故郷を出発した。

 だけど、浮ついた私はすぐに叩き落とされてしまう。

 旅のお供についてきてくれたドーラは、その気持ちを汲んで優しく言葉をかけてくれる。

「お嬢様、気を落とすことはありません」

挿絵(By みてみん)

 どこか遠くを見るような目で二人は眺めていた。

 目の前で起こる現実離れした無軌道な光の動き。

 夜空に浮かぶ星座ごと空から降ってきたような、点と点を結ぶ綺麗な図形の数々が二人の瞳に映る。

「………魔道士様は、特別なのです」

 他意はないのだろうが、彼女の言葉に少し傷付いた。

 私だって、前まで特別だったのに。

 努力を惜しんだことはなかった。成果が乏しくても、歩みだけは止めなかった。繊細で力強い自分の魔法が好きで、だけどそんな地道な頑張りが風前の塵の如く思えた。

 洗練された魔力の結集がそこにはあった。

 知識とか技量とかだけの問題ではない。感性やセンスによって描かれた高等な魔法理論。アルゴリズムを完全に理解しつつ既存の魔力回路に無理なく組み込む独自性。誰にも真似できない創造力で魔法陣を補完し、圧倒的魔力総量ですべての機能を顕現させる。

 彼を前にして戦えていたあの悪の頭領は、今思えば異常だったのだ。

 新調した紺色のローブを着た私の肩くらいの背丈。少しうねった白い髪に、聡明な顔つき。私よりも幼いはずの年齢には似つかわしくない、思慮深い言動と内に秘めた高い人間性。

 瞳の中の虹彩が恐ろしく澄んでいた。この瞳に魅入られる度に、心臓が跳ね上がりそうになる。

 彼との旅で学んだこと。

 私は魔術師としても、人間としても、まだまだ発展途上ということだった。

「どうかしましたか?」

 彼は不思議そうに尋ねてくる。

 様々な感情の渦を飲み込んで、慌てて返事をした。

「い、いえ、考え事をしていただけです」

 私は眉の上をちらつく髪を耳にかけ直す。

 彼を羨んでも仕方がない。私よりもずっと厳しい修練を積んだに違いない。そういう環境の元で生まれ育ったのかもしれない。

 だけど、だけどちょっと。

 ちょっぴり彼が、妬ましかった。

「お嬢様、魔道士様、村が見えて参りました」

 馬を操縦するドーラが声を掛ける。

 ルールエを出発した後は街道沿いをずっと進み、とうとう父の領地を抜けた。リベクスト王国と中央都市国家ロキの国境までもう数日はかかるだろう。

 父の用意してくれた馬車は馬に引かれながら、三人を乗せて国境付近の村まで辿り着いた。


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