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星の屑から  作者: えすてい
第4章 あの雷を追いかけて
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第33節 尖兵たちの計画


 時は少しだけ遡る。

 こんこん、と窓を叩く音がした。

 メアムが蝶番のついた窓を開けると、凍えるような空気が強い風と一緒に入ってきた。

「わっ!」

 そして風に乗った一通の手紙が、部屋の中に押し込まれる。床を滑った手紙は勢いよく反対側の壁まで滑っていき、趣のあるブーツにその端を踏みつけられた。

「……教団からだな」

 バドが苦々しい口調で告げると、窓の外に視線を向けた。首輪をつけた伝書鳩が遠くに飛び去るのが見える。

 窓を閉めて肩をさするメアムは、椅子に腰を下ろして言う。

「定時連絡には早いですわよ、まったく」

「まぁそう言うな。教団の方に何か動きがあったのかもしれない」

 拾い上げた手紙の封を切り、バドは便箋を広げる。中身を読むと、顔を歪ませ舌打ちをした。

「大丈夫ですの?」

 メアムは尋ねる。

「なんてことはない。エルフの耳に顔を殴られるなんて、貴重な体験じゃないか」

 腫らした顔に治療痕。バドは微笑する。

「マゾ男」

「変な言葉を使うな。そんな趣味はない」

 吐き出した息もそのままに、メアムは言う。

「……でも驚きましたわ。あれほど拒絶されるなんて」

「今まで俺たちがやってきたことを回顧すれば、当然のことだ」

「因果ホウオウ(・・・・)ってやつですわね」

「それを言うならオウホウ(・・・・)だ。もう取りなしてもらうことはできそうにないな……あとは教団がどう動くかだったんだが……」

 バドが言葉を切って手に持った手紙を見つめる。軽くメアムに奪い取られ、視線を彼女に向けた。

 朗らかにメアムはくるりと回り、

「流石にこれ以上の無茶は言ってこないはずですわ」

 そう言った。しかし、手紙に視線を落とした彼女は肩を上げる。

「……ええ?! ペンタギアノも動き出しているんですの?」

「手広くやり過ぎた結果だな。これこそ因果応報だ」

「これ、どうするんですの。私たち、もう御言葉の力は借りられないんですわよ」

「……どうするって、決まってる……両方だ」

 言い放ったバドにメアムは言葉を失う。

「ペンタギアノは御言葉たちを相当恨んでるって話だ。そこをうまいこと利用するしかない」

 黒い肌を覆い隠すように、丈の長い衣服を身に纏うバド。そして押し黙るメアムに告げる。

「最初のプランが潰れただけだ。次のプランは考えてある」

 鍵付きの箱を丁寧に開けると、その中から魔力がこぼれ出る。淡い光に照らされたバドの瞳が、その中身を見つめていた。

「鬼は俺がどうにかする。その間にメアム、ペンタギアノは任せたぞ」

 肩を竦めて手紙を放り投げた彼女は、恨めしげにバドを睨んだ。

「逆ですわよ……」

 箱から持ち上げた小さなランタンから視線を外すバド。

「なんだ、エルフに殴られたいのか? マゾはそっちじゃないか」

「ち、違いますわ! 私が抑えている間に、あなたが鬼を誘い出すんですの!」

 バドは言葉の行き違いを理解して笑った。ペンタギアノとは予想外だった。確かに、早くこちらを終わらせてしまわないと、大変なのはメアムの方だ。

「それ、取り出して大丈夫なんですの? 魔力探知に引っかかりでもしたら……」

「俺のスキルはものでも大丈夫だ。魔法使いが俺を見つけることはできない。あいつらはあいつらの道理で生きてるからな。それを利用させてもらう」

 ランタンを箱に戻したバドは鍵をかけ直すと、続けざまに言った。

「そんなことよりメアム。”黒翼”が現れたって噂、聞いたか?」

「なんですの、それ?」

「なんだ知らないのか。船乗りが話していた。空を飛ぶ恐ろしく素早い鳥がいるそうだ。黒い姿をした、鳥よりも大きな翼らしい」

「魔物ですの?」

 外套に袖を通しながらメアムは尋ねる。

 バドは首を振って答えた。

「さあな。だが、黒翼が降り立った場所に妙な足跡が残ってるらしい」

 自分の足を見つめたメアム。

「妙な足跡?」

 鼻を鳴らすバドは、奇怪な噂話に顔をしかめる。

「二足でも四足でもない。太い車輪を引いて回ったような跡だそうだ。しかも、馬車みたいな四輪じゃなくて一輪。それが何本もその辺をうろついてる。まるで何かを調査しているみたいにな」

「……それが私たちと何か関係ありますの?」

 不安げな眼差しを送るメアムに、バドは揺らがない視線を合わせる。

「”失敗した例の件”、分かるだろ? あの山村にその跡が残っていたらしい。そいつ……黒翼は……魔神を調査している可能性がある」

 カグヤたちの船が出航する、少し前のことだった。


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