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星の屑から  作者: えすてい
第1章 自由と代償

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第15節 自由と月の光

 

 成人してすぐのことだった。

 父の領地である交易都市ルールエで、ならず者たちが幅を利かせているとの噂を耳にしたのは。

 精神を落ち着かせ、痛みを和らげるという植物の葉は、多量に摂取すると絶大な多幸感を得られるという。ルールエではそれが蔓延しているのだそうだ。

 父は一貫として自治をルールエ市民に委ねていた。

 何の気まぐれだったか、俺はルールエを訪れた際それを確かめたくなった。

 街についてすぐ、目に付いたのが浮浪者の姿だ。道の端に寄って、ブツブツと何かを呟いている者。怯えるように陽の光を避けて震えている者。笑ったり、叫んだりしている者。

 狂気だ。率直にそう感じた。

 貧民街を抜けてしばらく行くと、豪華な建物が並ぶ通りに出る。大きな屋敷と綺麗に整えられた庭。はしゃぎ回る清潔感のある子どもたち。

 とても同じ街だとは思えなかった。

 路地裏に差し掛かり、何者かの気配を感じた。

 そっと息を潜め、中へ入っていく。

 目が血走り、呼吸の荒い女の姿が見えた。彼女はローブを纏う何者かと一言二言話す。ローブの人影が消えた頃、女は貰った小包を広げ、中の瓶を取り出す。ぶすりと腕に差し込んだ瓶の先から液体が溢れ零れ出す。舐めとるようにした女は突然笑い声を上げ、ガクガクと体全体を痙攣させ始めた。

 それ以上は見ていられなかった。

 噂に聞いていた通り、この街はもうダメなのかもしれない。

 何故父はあんなものを取り締まらないのだろう。許容できる範囲はとっくに過ぎているはずだ。俺が領主ならあんなもの、この街には絶対入れないのに。

 気まぐれのついでに俺は議会に出席した。観覧という名目で名と顔を伏せる。議会に出られるのは市民が推薦した十数名だったが、皆、商会を取り締まる上役ばかりだ。交易や税、金のことばかりで、薬物の違法取引について言及されることはなかった。

 議会が終わった後、街を取り締まる憲兵に尋ねた。

 彼はこの街に赴任してかなり長い。

「この街は、あと何年もつんだ」

 憲兵はたじろいで濁す。

「ガノア様、そのようなことは私の口からは……」

 それでも俺は尋ねた。

「概算でもいい、父には伝えない」

 私兵は考え込むと、声を潜めて口にした。

「……五年も経てば、主要な産業は衰退するかと………」

 俺は哀れに思った。

 こんな状態があと五年も続くのか。

 ルールエの基盤は多様な交易ではない。広大な耕作面積にある。そんなことも分からない商人たちが、この街を取り仕切っているというのか。ルールエに住まう農民たちは薬物漬けにされ、農作物の収益は落ち込んできている。

 今、この街の財政を支えているのはそんな農民たちから搾り取った金だ。

 俺は内政について調べ上げ、糸口を探り、全国に支部を持つギルドに目をつけた。完全に保たれた中立性のおかげで、規模も大きい。冒険者は市政に関与せず、思うままに生きている。このギルドを利用しない手はなかった。個人で薬物の売人を捕らえることは難しいが、ギルドの手を借りられれば父の自由主義の御旗も折らずに済むだろう。

 助けを求める依頼さえあれば、俺は動ける。

 三年後、冒険者等級五級を得た俺は、農民の依頼である売人の逮捕に協力をした。彼らの根は深く、多数の商人の関与が暴かれ、議会の中心人物たちの約半数が失脚する。真の黒幕がいると踏んでいた俺はさらに調査を進め、その該当人物であるヴァストゥールを逮捕した。

 希望の光がルールエを席巻する。街は一変した。

 議会の定員が改めて制定されることになり、雇用主と労働者の半分ずつが議員と定められた。農民たちの不満の種であった給与問題や、薬物問題などが一挙に改善される。違法な売買に対する規制も強まり、治安も改善されたルールエはとても住みやすい街となった。人口が増えたことにより、さらに大きく発展を遂げていく。

 ギルドの活躍も認められ、ギルドに対する権限や地位も高まった。冒険者を優遇する働きかけも街から奨励された。税収も増え農作物の生産量も増加し豊かになったルールエは、国に誇れる都市となった。

 かつての姿からは想像できないほど成長し、平和な暮らしを市民たちは謳歌することができた。

 だが、穏やかな平和が長続きしないことも、俺はその時学んだ。

 ひと月も経たず、ヴァストゥールは脱獄した。強盗、殺人、誘拐、器物破損、違法人身売買、違法薬物生産売買、違法兵器製造等等。狂気じみた犯罪の数々を勲章のように築いていく男。ルールエのみならず他の都市でも悪名高い犯罪組織"ダスガスト"のボスであった。

 彼はルールエで捕らえられた後、中央憲兵団有する首都の監獄に収監された。ダスガストの仲間からの逃走幇助を恐れた憲兵団は、最重要警備を施し地下深くに収容する。

 しかし奴はあっさりと脱獄してしまう。

 その方法や経緯は憲兵団の情報隠蔽によって詳細が明かされることはなかった。

 一方、ガノアは珍しく父から呼び戻されていた。

 貴族の心得を幼い頃より叩き込まれて以降、特にあれこれと指図されたことはない。

 ギルドに名を連ねてからは、実家に戻るのは父と妹の誕生日のみとなっていた。

 子爵邸は簡素な作りであった。

 もともと華美なものを求めない父は、必要最低限の宴を必要最低限の人数で催すことしかしていなかった。

 社交界とは縁遠い父。彼が貴族としての名誉を保てているのには理由がある。領民からの支持や国への献上品が、他の貴族と一線を画しているからであろう。父の自由経済の取り組みは革新的で、ルールエの様な合議制を採択する都市はそう多くない。

 小さな頃から変わらない執事から出迎えられ、書斎で父が待っていると伝えられる。

 書斎をノックすると返事がきた。

「入りなさい」

「失礼します………」

 父は礼儀作法に厳しい。

 所作の一挙手一投足まで指摘され、子ども時代には一日の半分は叱られていた。

「ただ今、招集を受け、馳せ参じた次第です」

 深々とお辞儀をして椅子に座った父と対面する。

 厳格な父親、そのイメージがこびりついていた。

「うむ、ご苦労であった。楽にせよ」

 告げる父親に従い肩幅まで足を広げる。

 あの頃と比べれば、随分丸くなったものだ。

「此度は大義であったな」

「至極光栄に存じます」

 定型文の応酬。これが俺にとっての親子の会話。

 俺の目に映る白髪の中年はさらに綴る。

「ルールエにおける薬物問題には、私も手を焼いておった」

 ………嘘だ。父は分かった上で、犯罪を傍観していた。

「よくぞ、解決まで至った。お陰でルールエは以前の活気を取り戻せた」

 俺は内心で煮えくり返った思いを閉ざし、口八丁で辞句を返す。

「恐縮でございます」

 少しの間だけ、間が空いた。

 俺は父の空気が変わったように感じた。

「…………ガノアよ。市政には関わるな」

「は――?」

 真っ直ぐに父は俺を見据える。

「我々はこの土地を人民からお預かりしている立場なのだ。土地と生命の、保全と監督、重責を担っている。生半可な気持ちで政に関わるものではない」

「し、しかし――――」

 反論を待たず、父が席を立つ。

「ガノア。今回はお前が救った命も多分にあろう。薬物中毒者もその家族も、お前が救った者達だ」

 手のひらにじっとりと汗をかいている。身に覚えのない震え、嫌な予感。

「だが、逮捕された者の家族はどうなる。財産を奪われ、住処を奪われ、生きる希望まで奪われた者たちは、誰が救うのだ」

 眼光の鋭さに体が竦む。

 父は、あの頃と変わってなどいなかった。

 心の底に引っ掛かっていた何かが肥大した。それらが用意していた言い訳を押し潰す。

「気が付いておらなんだか。囚われた商人の家族は街を追い出され、汚名のため行く宛てもなく、路頭を迷う」

 膝がわななく。今まで立っていた足場が突き崩されたような感覚。

「救った命と、奪った命は天秤には掛けられん。正義のために奪っていい人命など、ありはしない」

 父の言っていることが重しになって、身動きが取れない。それでは、俺が救ったあの笑顔はなんだったんだ。

「で、ですが――――」

 父は歩き出して、俺の言葉を制する。

「我々は統治者だ。神ではない。誰かを幸福にすれば、誰かが不幸になる」

 父の言動に俺はただただ居竦(いすく)まってしまった。

「我々は、個人の幸福や不幸にまで責任を負うことはできぬ」

 俺は、何も言い返せなかった。

「生半可な気持ちで政に関わるのはやめなさい」

 父はもう、俺を見てなどいなかった。

 背を向けた父親の背中が全てを語る。

「人は……生まれながらにして……愚かなものだ」




 ■■◇■■




 炎が吹き出し、残された瓦礫さえ燃やし尽くす。街の至るところで火の手が上がっていた。消火することはもう不可能だろう。

 ガノアを見下ろし哀れみを滲ませながら、ヴァストゥールは告げる。

「こんなことは君のお父さんも望んではいないだろう」

 熱風の中、ガノアは意識を目の前の男に向ける。

 気力を振り絞り、うわ言のように呟く。

「俺は…………統治者だ…………神ではない…………」

 槌から受けた衝撃は、全身に巡っていた。

「――それでも護る、理不尽から、恐怖から………」

 身体中が悲鳴をあげている。どこか骨が折れているのかもしれない。

「守りたいと思ったから守るんだ、守るための理由など、初めからいらん!」

 激しい炎を背に、再び立ち上がる。

「………失望したよ、ガノア君。君は、あの頃よりも馬鹿になったな」

 陰険な顔つきが曇る。

 降ろしていた槌を軽く上げると、こちらへ歩き出した。

「助けたところでこいつらはまた繰り返すんだよ。意味のない人助けは、また不幸な者を増やすだけだ。

 君はもう知っているはずだろ?」

 歯を食いしばりながら、ガノアも歩みを進める。

「ならば今度は、全てを救えばいい。過ちを繰り返すなら、その度にまた正せばいい!」

 盾を構え直す。何度も諦めなかった、妹の顔が浮かぶ。

「後悔なら死んだあとでいい。俺は諦めない!!」

 走り出した二人は高速で接近する。

 再び、盾と槌が激突した。衝撃は凄まじく、辺りの地面が振動を起こす。

「――――?!」

 槌が大きく弾かれ上体を仰け反らせる。驚いたヴァストゥールは距離をとった。

 ガノアの手にした盾は青く光り、炎で照らされながらも、煌々としていた。

 ヴァストゥールは気付いた瞬間、口角を上げ笑った。

「スキルか! すごいじゃないか!!」

 青い盾は数十と数を増やし、ガノアを中心に拡散する。

 鱗のように広がった盾は等間隔で静止した。

 ガノアはヴァストゥールに飛び込むと同時に、周りの青い盾を連続で打ち出す。

 槌で叩き落とそうとするが、盾の勢いに押され、ついにヴァストゥールの体に盾がめり込む。堰を切ったような怒涛の勢いで、青い盾の雨がヴァストゥールの体に突き刺さる。

 最後に飛び出したガノアの強烈な一撃が、真っ向から顔面を捉えた。後方に吹き飛ばされたヴァストゥール。槌で地面を削り衝撃を殺す。

 叩き折られた鼻から血が流れ出る。それでもガノアから目を離さない。

 ある特定の人間には、特殊な能力が備わっていた。生まれながらにして持つ者もいれば、後天的に身につく者もいる。"スキル"と呼ばれるその能力は、個人によってその性質が違う。汎用性のあるものもあれば、局所的にしか使用できないものも存在した。多種多様のスキルに共通することは、魔法と違い一切の魔力を消費しないことだ。魔力を扱わない者が魔法使いに対抗する唯一の術であり、その異能は魔力による探知もされない。

 ヴァストゥールは口の中に入った血を吐き出すと、鼻を強引に曲げて位置を正す。

 (おもむろ)に足元の木片を拾い上げ、腕を引き、勢いをつける。

 そしてガノア目掛け、燃えかけの木片を投げつけた。


 闇夜を裂き、猛烈な速さで飛ぶ飛翔体は、目的に到達する前に、眼前の青い盾に阻まれた。

 粉々に吹き飛ぶかと思われた木片は、青い盾に触れた瞬間、そのままヴァストゥールに跳ね返った。

 投げた拳でそのまま木片を砕く。

 槌を器用に回転させながら、ヴァストゥールは口を開いた。

「反射、だなぁ」

 驚いたガノアは目を見開く。

 彼のスキルは、まさに"反射"であった。青い盾を浮遊させ、それに触れた物体を同じ力で弾く。その際の威力は盾に受けた衝撃の倍となり、受けた方向へ威力を反転させる。盾の数は数十個程が限界で、範囲もそれほど広くはなかった。

 しかし、近接戦闘に特化したガノアにとって、敵の遠距離からの攻撃を全て弾き返し、攻撃を倍加させる能力を持つこのスキルは、彼に最も適した殲滅能力を誇る。

 ガノアは対峙した敵の強大さを今頃になって思い知ることとなった。

 理解が早すぎる。

 この男から感じていた妙な圧力は、高い戦闘能力に裏打ちされた、ぶ厚い経験値だ。

 数多のスキル持ちや魔法使いと戦ってきたのだろう。余裕と自身に満ち溢れ、しかし決して油断しない。

 何もせずとも人を潰せるような鉄塊を振り回しながら、ヴァストゥールは再び接近してくる。

 触れれば等倍の威力を返す青い盾は、全てヴァストゥールも見つめ迎撃態勢を整える。

 正面から立ち向かえば、手痛い反撃を食らうのは誰もが想像できた。

 しかし、ヴァストゥールはその姿に見合わない俊敏な動きで盾の隙間に入り込む。槌を細かく振りかざし、青い盾を打ち払っていく。裏側から衝撃を受けた盾は、易々と破壊されていった。

 ガノアの渾身は見るも無惨な結末を迎える。盾の弱点は、前方向以外からの攻撃だった。

 ヴァストゥールは迎撃態勢を取った盾の向きや形から、スキルの弱点を探っていた。

 盾を配置し直し迎撃させるが、その圧倒的な素早さについてこられない。

 少ない手数でその能力と弱点を看破され、ガノアは焦った。浮遊する盾での防御を諦め、自身の盾を光らせる。接近し盾での反撃を狙うが、ヴァストゥールの速さはその先をいく。

 盾での攻撃が空を切った後で、槌を握りしめた道化師は背後から重いカウンターをガノアに打ち込む。重圧を含んだ風が押し出され、巨大な鉄の塊がガノアを影で覆い隠す。

 青い盾を瞬時に移動させ、ガノアは咄嗟に攻撃を弾く。だが、ヴァストゥールはその反射を利用すると、今度は槌を逆回転させた。

 翻った正面からの一撃がガノアを襲う。彼の大きな体が、とてつもないスピードで焼失した家屋に叩きこまれる。

「能力自体は悪くないねぇ。ギルドマスターになれたのはそれのおかげってわけか」

 家屋の破片が背中に突き刺さり悶える。

 盾の防御が間に合わず、右腕で衝撃を抑えた。致命傷への直撃は避けられたが、骨が折れて腕はもう使い物にならない。

「だが相手が悪かったなぁ。君のお父さんには悪いが、まぁこれも運命なんだと受け入れるんだねぇ」

 振り上げられた無情の得物。鉄槌が月と重なる。炎に包まれても、月は煌々と明るかった。

 そうか、俺の盾は月に似ているのか。

 最後に気が付くなんてな―――。

 残酷な月食がおぞましいシルエットの男と重なり、ひび割れた円盾、月の光を断つ。

 あぁ……すまない……みんな―――。

 スキルを使ってさえこの男には敵わなかった。絶対的な強者。故の圧倒的敗北。

 父が期待を寄せるわけだ。

 クィーラには、まだ荷が重すぎるな。

 無慈悲な鉄槌が振り下ろされた刹那。

 眩いばかりの光に包まれる。目が開けられないほどの光。

 不思議な感覚だった。

 激しく全てを飲み込む光から、何故か暖かい安らぎを感じた。

 これは死後の世界なのか、と一瞬迷った。

 目の前の小さな影が、冷酷な鉄塊を受け止めているのが見えた。

「お兄様!!」

 声で我に返ると、クィーラが傍に駆け寄っていた。

「クィーラ………どうして………」

「子爵邸に戻る途中に、私も襲われました。危ないところを、彼に助けて頂いたのです」

 擦れた衣服をまとったクィーラが告げる。

 ヴァストゥールは、妹まで計画に入れていたのか。

「彼からルールエに危機が迫っていることを聞き、急いで戻ってきたのです!」

 何故だろう。

「私には、まだやらなければいけないことがあると――」

 少し見ない間に、妹は逞しくなった気がする。

「お兄様、あの男が黒幕で間違いありませんか!」

 クィーラは尋ねながらガノアに肩を貸す。

「ああ……だが……逃げた方がいい……奴は、強すぎる……」

 以前対峙した時とは全く別人のような強さだ。

 奴は、一体どれほどの人間を殺してきた。

「いいえ、逃げません」

 ガノアはその言葉にあっけにとられる。

 以前までは考えられなかったクィーラの強い意志。

「お兄様が逃げなかったように………」

 何かがクィーラを変えたのだ。

 妹は光の中心である小さな背中を見つめる。

「それに、彼ならきっと……いえ、彼なら絶対に、何とかしてくれます」

 ヴァストゥールと相対する小さな影。

 あれは最近ギルドに入ったばかりの少年。あの年齢で冒険者をしている者は他にいない。

 彼がこの大きな変化をクィーラにもたらしたとでもいうのだろうか。

 名前は確か――――。

 地面を擦るような音と共にヴァストゥールが下がる。不思議な光景を目の当たりにしているようだった。

「はぁ、これは、ついてないねぇ……。これが兄さんの信じた、運命だってのかい……?」

 ヴァストゥールは恨み言を呟きつつ、懐から瓶を取り出した。

「―――あの瓶は!」

 クィーラが反応する。

 黒ローブの男が狂人を巨大化させた薬品だ。

「心配いらないよ。彼らみたく、大きくなったりはしないからさぁ!」

 瓶を腕に突き刺し、薬品を体内に流し込む。身体中の血管が焼ききれるような感覚に体を仰け反らせる。神経が全て破壊され、修復していく。生命の終わりを垣間見た瞬間に、新たな命の登場を体験する。

 ヴァストゥールは痛みに身体を震わせた。

「これは……結構……きついねぇ……ッ!!」

「――――!!」

 眩い光に目を焼かれ、明滅する視界。ガノアとクィーラはすぐに気が付かなかった。

 一瞬でヴァストゥールの体が消えたことに。

 少年の姿とともに。


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