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星の屑から  作者: えすてい
第四章 あの雷を追いかけて
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第23節 閉北の道2


 僕らは魔導具によるゴブリンの街襲撃を語った。ハイド運河に巣くっていた魔物たちに、誰かが魔導具を与えたとみて間違いないと思う。

 国主は唸り声を上げる。

「……ううむ、魔導具を操る魔物か」

「魔力を感じさせない魔導具も、もしかするともうすでにあるかもしれません。そして、それを鬼が使っている可能性はあります」

 告げた言葉の恐ろしさは、この場にいる誰しもが痛感していることだろう。魔物の脅威を感じ取ることができるのは、魔力だけなのだ。祖龍教国の谷底、転送陣があった場所で、僕はカグヤの動きに身の毛のよだつ恐怖を感じた。気配を消して背後からあんなスピードで迫られたら、自分の身を守れるという保証はない。

「致し方あるまい……」

「?」

 僕は重々しく口火を切る国主に眼差しを送る。

 彼は側近の大臣に合図を送ると、もう一度僕らを見回した。

「ギルドの代表者よ、御言葉様たちと話がしたい、席を外してもらえぬか」

 埠頭国の国家機密。僕の頭にそんな言葉が浮かんだ。ギルド員の彼女は、緊張から解かれたのか、ほっと息を吐き出しながら、そそくさと退室していく。

 部屋に残された僕ら四人と国主。横の扉、先ほど大臣が出て行った通路が開くと、そこから、二人の若い男性が現れた。

 僕は訝しんで真っすぐに彼らを見る。二人の男性は多分召使いなのだろう。服装でなんとなく分かる。二人は抱え込むような丸い大きな球を持ってでてきた。部屋の奥、雷幻宝と同じくらいの黒い球だ。後ろから歩いてきた大臣を見るに、どうやらこれを運ばせてきたらしい。

「それは何?」

 ルリは率直に尋ねる。

 金属製の重量感が漂う丸い形。大臣は床にそれを置かせると、魔力を流し込んだ。

「説明をするより、見てもらった方が早かろう」

 大臣が言うが早いか、魔力を得た黒い球は細かに彫られた溝を光らせ始めた。球の一部の外殻に、螺旋状の溝が刻み込まれ、外側に引っ張られるようにして開かれた外殻。その内側が淡く光る。まるで瞳だ。僕は生唾を飲み込むと、震えるような既視感に包まれた。青白く光ったままの光彩が、僕の方をじっと見ている。どこかで感じたことのある奇妙な体験だった。球体の側面が浮き上がり、半月のような腕が滑らかに内側から取り出された。

『識別番号二四四、起動シークエンスに移ります。埠頭国ハーフェン国主、ドルドン陛下でございますね』

 驚きのあまり、呼吸を失ってしまうところだった。それは僕だけじゃない。カノンやカグヤ、ルリだって同じだ。

 喋る球体は瞳と思しき部分を国主に向ける。

「あ、ああ。そうじゃ、儂がドルドンじゃ……」

 狼狽えながらも、しっかりと返す国主はやはり肝が据わっている。

 こんなものは見たことがない。先ほど使われた魔法のほかに、黒い球体からは少しばかり魔法の痕跡が感じられた。魔法で、動かしているのだろうか。

『生体認証登録。位置情報を初期化、再設定中……エラー。再設定中……エラー。電波の届かない場所にあるか、電源が……』

 同じ言葉を繰り返し始めたところで、カグヤが尋ねる。

「……コレ、どうしたの?」

 小さな指で指し示す。

 球体は黒い瞳は瞬きのように点滅させて、何かよく分からない譫言(うわごと)のような言葉をずっと連ねている。そんな謎の物体を止めることなく、国主であるドルトンは告げる。

「デロデロ……と呼ぶそうじゃ。ある日この国を訪れた風変わりな商人が置いていったのじゃ……機能は、よく分からないんじゃが、国を守ってくれると言っておった。儂はこの珍しい魔導具がどういう原理で動くのか確かめるために工房の職人にも尋ねた……じゃが、これがどういう構造か誰も突き止められなかった」

 黒い球体改めデロデロは、丸い体を器用に転がし僕らの前に躍り出る。その瞳を天井に向けると、突然光を強めた。

 ……こ、これは!

『それでは、紹介映像をご覧いただきます』

 光が精巧に形を作り、あたかもそこに存在するかのように三次元的な物体の表出を錯覚させる。以前ヤミレスのチェイン商会で見た地図の魔導具と同じだ。後ろの大臣が操ってるわけじゃない。遠隔で誰かが操作しているわけでもない。デロデロの中に組み込まれた魔法陣が、自動で動いている。

 僕らの驚きをよそに、その自由な球体は女性の声で勝手に話し始めた。

『さぁ、みなさんにご紹介するのは、地上配置型防衛システム、デロデロ!』

 歌うような響きが室内に広がる。さっきまでの無表情な声質は急な明るさを持ち、整合性のとれない不気味さを僕たちに運んできた。

 目の前で動き回るデロデロの映像。軽やかに転がり魔法の攻撃を避ける。爆風や土煙が間近に感じられるが、実際にそこにはなにもない。模擬戦の記録を僕たちにみせているようだ。光を放っている目の前のデロデロ本体は、微動だにしていない。

 映像が切り替わり、黒の機体が大きく出る。というか、本物がそこにあるのにわざわざ投影する必要はあるのだろうか。

『ご覧の通り、"デロデロ"は球状の体を器用に動かし戦場を自由自在にカバーします。愛らしい見た目の内側には、格納式の二本のアーム、それらが襲いかかる敵を一網打尽にするでしょう!』

 腕の先端から炎が燃え上がった。四足歩行の魔物に向かって放たれた何かは、着弾と当時に敵の体を弾く。自動で戦場を闊歩し、次の目標を探し回る様子や、無機質な目玉が動き、遠く離れた敵でさえ感知する様子を見せた。

『起動は簡単! 魔力を少し流すだけ。最初の持ち主を登録しておけば、他人に取られても主人を攻撃することはありません。持ち主の座標を記憶するので、離れてもすぐに駆けつけます。セキュリティ面も万全で、いつでもどこでも頼れる相棒となるでしょう!』

 瞳の部分の色が変わり、揺れるように体を転がす。まるで鋼の肉体が意思を持っているようだ。

『殺風景な戦場に癒やしを与え、速やかに安全を提供する地上配置型防衛システム"デロデロ"! 魔物駆除や隣国との戦争に、危険を顧みず配置できる優れモノです! 事前配備の検討を、是非、よろしくお願いします!』

 映像の淡白さと揚々とした声の差が、やっぱりどうも狂気じみている。音が鳴り止むと、デロデロは天井に向けた瞳をこちらに向けて声を発す。

『紹介映像は以上となります。質問は他にございますか?』

 僕は唖然として開いた口が塞がらなかった。この魔導具は想像を越えている。何故なら、魔力を流すだけで覚えた動作を行うだけじゃない。これ(デロデロ)は、国主の言葉に反応して映像を流した、つまり。

 魔導具が言葉を認識している……!

 

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