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星の屑から  作者: えすてい
第四章 あの雷を追いかけて
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第18節 ビリビリ


 十人も入れない狭い部屋の中に私たちは押し込まれる。扉が閉まると、体が重くなるのを感じた。昇降機と呼ばれる人や物を部屋ごと移動させるものだ。教王国から流罪地区に移動する際、虜囚の柱を使ったのを思い出す。大抵は魔力を原動力として動かす装置だが、これは……。

「これも魔力を感じないな。奴隷でも使っているのか?」

 誰に訊いたとも言えない私の言葉に、案内係のギルド員が答える。

「この昇降機は電動で上下する仕組みです。ハーフェンには魔法で動くものもありますが、半分は電気によって稼働しています」

 また電気か。ルリは壁に手をあてて、魔力の通わない不思議な部屋を感じ取る。

「この国を治める国主様は大変な好事家でして、大陸中にある希少なものを収集しているのだとか。その中にあったのが"雷幻宝"と呼ばれる魔導具なのです」

 体の重さが徐々に戻り、目的の階に到達したのか扉が開く。ギルドの建物は他では見たことがないほど背が高く、それが宿だと気が付いたのはついさっきのことだった。

 埠頭国ハーフェンは大陸でも有数の大都市である。目覚ましい発展の中心に、一つの魔導具があるというのは噂に聞いていた。案内人が先頭を歩きながら話の続きを述べる。

「雷幻宝は無限の雷を生み出す奇跡の遺物です。この国がここまで明るいのは、その電気を用いているからなのです」

 廊下から見下ろす埠頭の全容。海は漆黒に塗りつぶされているが、町全体は光の粒が覆うように明るく照らされていた。

「すごいですわ、バドも御覧なさい!」

 メアムが飛びつくように窓へ駆け寄った。

 まるで海に宝石をちりばめたような景色。弧を描くようにして続く街並みが、奥行きを感じさせる光のアーチを作り出す。伸びた光の軌跡を、海面が曖昧に溶け広げていた。

「雷幻宝は魔法を使わない次世代のエネルギーなのです。風車小屋を使わずとも麦は製粉できますし、魔法を使わなくても船を動かせます」

 ギルド員は私たちを部屋に案内した後、揉み手をして下がる。彼女が言うには、この国の原動力は魔導具が放つ雷の力なのだとか。魔力に代わる新しいエネルギー。それがどんなことを意味しているのか、この国は正しく理解しているのだろうか。魔法に生涯をかけて鍛錬を積む魔術師はたくさんいる。しかし、この電気さえあれば、幼子でも強力な力を使えてしまうということだ。人も物も多く集まるこの場所には、魔法使いだって相当数いる。冒険者の中で彼らが魔法使いとして名を馳せられるのは、魔法という一種の自己優位性があるからに他ならない。自分にしかできない魔法という個性があるからこそ、自己を確立させられるのだ。

 ルリは割り当てられた部屋の豪華さに顔を綻ばせている仲間たちを遠目に見る。二等級冒険者にふさわしい、広く快適な部屋だ。

 大きな力は大きな意志の元でしか扱われるべきではない。自然の理から外れた未知の力に対して、染み出してくる嫌悪感を私は感じずにはいられなかった。

「さて、人払いもできたことだし……」

 鎧を脱ぐことなくカグヤは告げる。まるでこの時を待っていたかのように視線を尖らせた。

「メアム、バド。あなたたち、何者なの」

 二人を強引に呼びつけた彼女がしたかった質問とは、このことか。メアムとバドに緊張感が走った。電気の照明が、高価な家具を一層華美に仕立て上げる。

「な、何者って、既に説明していますわよ。私たちはヒルデシアから来た……」

「そういうことじゃないわ。メアム、あなた相当な腕利きよね。一人でラガルートと渡り合えるくらいに」

「……」

「エルフの耳、何が言いたい」

 バドに視線を向けたカグヤは、声色を変えずに告げる。

「私たちは長年冒険者をやってるけど、同業の魔族の数ってそんなに多くないの。みんな何かしらの理由をもって旅をしているから、名前と顔は覚えているわ。あなたたちもそれは同じみたいだけど、私はあなたたちの名前を聞いたことがない。ましてや、二人の活躍が噂にならないはずがない。そうでしょ?」

 バドはともかく、メアムの実力は確かなものだ。一か所に留まって依頼を捌いているのならともかく、各地を転々としている彼女たちの名前が、魔族の冒険者として広がらないというのは矛盾している。二人の冒険者等級は五級。それは彼らにしてはあまりにも乖離した等級だった。

 剣を一瞬で抜いたカグヤは、その刃先をバドの首元に添える。カノンが短く叫ぶ。

「お姉ちゃん!」

「本当は最初から御言葉だって分かってて私たちに同行してきたの、知っていたわ。話しかけてきたあのギルドで、あなたたちの視線は他の冒険者とは違ったもの」

 やっぱり気が付いていたのか。ルリは問い詰めるカグヤを見つめた。

「答えなさい。あなたたちの正体と目的を」

 バドとカグヤの視線が交錯する。

 メアムとバドは魔王の復活に否定的だった。魔神の存在に割りを食っているのは人間よりも遥かに魔族たちなのだろう。魔神の影響は人間たちが北に進出するのを拒んでいただけでなく、魔族の生活にも支障をきたしていたらしい。孰湖のような異様な力を持った魔物が各地に現れ、おまけに魔王国は統率者を失った混乱期にあった。そうであれば、当時の魔王国の動乱は想像するに余りある。

 先に動いたのはバドだった。

「……分かった、降参だ」

 両手を上げた彼は、首元の刃に視線を移すことなく白旗を揚げた。

「すべて包み隠さず話しなさい」

 バドの黒い皮膚を、カグヤの剣が薄く反射した。


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