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星の屑から  作者: えすてい
第4章 あの雷を追いかけて
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第6節 接触1

 

 ギルドカウンターまで依頼票を持ってきた僕らは、受付係の素頓狂な声を聞いた。自身の眼鏡をしっかりと掴み、まじまじと僕らを見る女性は赤毛のおさげを揺らす。まるで瓶底のような分厚い眼鏡は度がきついようで、彼女の目尻が凹んで見えた。

「むむむ、二等級、本物ですね……」

 疑り深い彼女は音を上げる。冒険者証を見せ終わったカグヤは懐にそれをしまった。

「珍しいからしょうがないわね! エルフの耳、覚えておいて頂戴!」

 軽い調子で話すカグヤは、特に気にした素振りはない。こういうことには慣れているのだ。

「はぁ……ですが、後のお二人は……」

 受付の女性がカグヤとカノンから目を逸らし、僕とルリに視線を向ける。もちろん、カグヤたちと違って僕らの等級は低い。ルリのためにギルドの手続きをしたのだって、つい先日だ。僕の等級はルールエを出た時と変わらず九級。ルリは十級。対して、受けた依頼内容は三級相当だった。受付係の女性は太い辞典のような本を引っ張り出すと、机の上で素早くページをめくっていく。

「えー……受注の際の注意点……どこだっけ……あったあった、コレだ……」

 独り言を呟いたと思ったら、そのページを僕らの前にずいと広げる。本の端がかなり擦れていた。相当使い込んでいるようだ。指差さした箇所を彼女は読み上げる。

「パーティにおける依頼受注は、メンバーの平均値が受注可能水準に適応されます。みなさんの現在の平均値が五級ですので……」

 三級の依頼は受けられない、そう彼女は突っぱねた。僕らの等級には差がありすぎるというわけだ。カグヤがそれを聞いてカウンターの上に肘を乗せる。身長が届いてないので足は浮いていた。

「ちょっと、私たちがついてるから大丈夫よ! それに二人はどっちも並の実力なんかじゃないわ!」

「お姉ちゃん!」

 難癖つけるカグヤと、それを諌めるカノン。カグヤは受付係を睨む。

「そ、そう言われましても規則ですから……それに万が一ということもありますし……」

 困り顔の受付係は身を引いてギルドの辞典で顔を隠す。さらに顔を近付けるカグヤは、カノンに足を引っ張られ、降りなさい、と注意されている。震える声で受付係はカグヤに抗議した。

「い、依頼以外で等級を上げるなら、ギルドの昇格試験を受けないと……」

 それを聞いたカグヤはすぐに顔を明るくする。

「それよ! そういうのあったわね! ここら辺だと……ハーフェンかしら? いつ? 次の試験はいつあるの?」

 捲し立てるように喋る彼女を、カノンがついに引きずり下ろす。

「……何よ」

「もう恥ずかしいからやめてよ……」

 只でさえ彼女たちの耳は目立つ。騒ぎを聞いて冒険者たちが僕らのほうを見ていた。変に視線を集めてしまった。僕は後ろを振り返って野次馬たちの顔を見回す。

 流罪地区を抜けて僕らが目指したのは、魔神の痕跡が残る魔王国領内だ。カノンの持つ竜骨の笛には不思議な力が宿っていた。なんと大陸にいる魔神の位置が朧げながら分かるのだ。カノンによると、封印された魔神は残り三体。その内の一体に彼女たちは心当たりがあるそうだ。伝承通りだと、魔神は北の大地にしか現れていない。どのみち僕らは北へ進路をとるしかなかった。

 東のアコマー湾へ流れる大河に沿って、順当に僕らは歩みを進めていた。途中で立ち寄った街や村で宿泊をしながら、魔王国領まであと二ヶ月といったところだろうか。徒歩でいくのはかなりの時間がかかるので、僕らは馬車の購入を検討していた。しかし魔王国への越境に耐えうる馬車は、そうそう安価に手に入るものではない。安物買いの銭失い。ルリはそういうのを嫌う。

 ギルドに登録しそこで収入の安定を図るよう提案する。結局、ルールエの時と同様、冒険家業を平行し旅を続けることになった僕ら。祖竜教国やヤミレスからの追っ手は来なかったが、その理由は語るまでもないだろう。両国は大規模な戦争状態に入ったのだ。今まで未開の地であった霊峰を挟み、二つの大国は互いの軍事力をぶつけ合った。初戦を大勝利に治めた中央都市国家は、山脈に築城を開始し直接本国を叩く勢いだ。

 聖騎士たちがみすみす負けを譲るなんて、ロキは早速ペンタギアノを投入したに違いない。そんな彼らに御言葉を追っている余裕はないはずだ。人混みに紛れた視線を僕は諦めた。なんだろう、この嫌な感じは。

「気付いたか」

 僕に耳打ちをしたルリは、既に偽の片腕を作り攻撃に備えていた。

「狙いは僕たち……?」

「わからない。御言葉を狙う刺客は、どこにでも潜んでいるということだ」

 僕とルリは死角を補い合い、どこからでも対応できるようにしておく。ズールィの時のようなヘマはもうしない。僕は目を開いて違和感の正体を見出だした。

 だが僕の気合は空振りする。垣が別れた。喧騒の中で一際目立つ二人組。フードを被った彼らは、なんだか異質な感じがした。彼らだ。僕らを監視していた瞳は。

「えぇーっ! 半年後!? そこまで待てないわよ!」

「そ、そう言われましても……」

 カウンターにがっつくカグヤと、困った表情の受付係。彼女が気付いていないはずないのに。僕がカグヤとカノンに合図を送ろうとしたその時、例の二人組が野次馬から抜け出して歩み寄ってくる。

 フードを取ると、野次馬たちから低い悲鳴が聞こえた。


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