表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の屑から  作者: えすてい
第三章 流れ星に祈りを
120/182

最終節 君臨

 

 石細工は窓の外をぼんやりと眺めていた。

 蒼天には雲一つない、澄んだ空。

 城下町の中央に作られた大広場には、たくさんの人だかりができている。

 大きな歓声を上げる人々の情動は、これから始まる余興へ心を踊らせているようにも見えた。

 広場の真ん中に高台が置かれ、直立した衛兵の武器の先端が眩しく光を反射する。

 石細工の男は鼻で大きく息を吐きだし、作業の手を止めて工房から帳場へ出た。

 薄暗い店の中から外の光景を見つめる。

 広場に面した街道の先で、人垣が騒がしく波打った。

 お立ち台の上、ボロきれを着せられた人影が数人の兵士に引きずられるようにして連れてこられる。

 手足を繋がれ身動きの取れないその人物は、顔から被せられた袋の下で荒く息巻く。

 咎人のような格好の男はうつ伏せのまま兵士によって無理やり頭の袋を剥がされる。

 その瞬間から歓声は怒声を含み、さらに大きな叫びを呼んで、大勢の口が男を汚く罵った。

 石細工は傍らのビラをトントンっと軽く叩き、その上に肘を置いてひっそりと呟く。

「……御言葉か」

 浴びせられる罵声に男は身を萎縮させる。

 傷だらけの体を小さくし、怯えた様子で身を震わせた。

 突如として、彼の背後に黒い影が現れる。

 音も気配もなく姿を見せた黒き鎧。背中に身の丈ほどの鞘と剣を担ぐ。

 慌てて男は振り返ると、その禍々しい鎧の剣士を見上げて呻く。

「あ、あぁ……違うんだ、俺は……俺は御言葉じゃない! だから助け―――」

 次の瞬間に跳ね飛ばされた男の首と胴体から、黒々とした血が流れ出る。

 観衆は叫び声を上げて男の処刑を歓喜した。

 人間を遥かに超えた体躯を持つ亜人たちの喝采。

 翼を広げて空を舞う者、尻尾を波打たせ歓喜する者、覗かせる牙、体毛を身震いさせる者。

 石工は固い鱗を翻して工房に戻る。

 手に持ち直した工具を、小さな亀裂に添えて石を砕く。

 喧騒から離れた彼は興味を失ったかのように、またひっそりとこぼした。

「ジョルムの勇者……大したことはない男だったな」

 振るう小槌がノミを通じて石を穿った。彼の打つ音が、うねる熱狂にかき消されていく。

 魔王国ローザイに現れたジョルムの御言葉は、ほどなくして"彼女"に捕縛された。

 民衆から名前飛び交う鎧の女性。

 魔王国における最高司令官、国の頂点に君臨している。魔王が復活を遂げるまでの間、彼女は玉座につき、実質的な魔王国の代表を担っていた。

 黒い真鍮の鎧と流れる長髪。小さく、まるで子どものような体つきだった。

 尖った長い耳と切れ長の瞳。手にした剣がぼんやりと光を帯びる。

 右手を掲げる動作に、魔族たちは湧き上がった。

 彼女こそが、"現魔王"を名乗る唯一の存在。

 埋め尽くす歓声の中心地で、彼女の瞳と髪色が、薄紫に輝き始めた。

「御言葉は、全て殺せ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Xにて投稿のお知らせ。 きままに日常も呟きます。 https://x.com/Estee66gg?t=z3pR6ScsKD42a--7FXgJUA&s=09
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ