プロローグ
初投稿作品です。
よろしくお願いします。
瞬く星が綺麗だった。
何もないこの場所は、一層輝きを放つこの銀河から
独り取り残されているようだった。
■■◇■■
「復活する魔王を討つよ」
育ての親であるジジ牧師にそう告げた時、彼の深い皺は少し強ばった。町の人からは徳の高い人物だと評されている。こんな辺鄙な場所に孤児院を設けたからだろうか。
齢六十程を迎え、段々と老いが目立ち始めてきた。
皺だらけのあの手に撫でてもらうのが、僕は好きだった。
「ついにそんなことまで言うようになったか」
「あのねぇ、このあいだ言葉を覚えた赤ん坊じゃないんだから」
おどけるジジに、僕は言う。
「不思議だな、ワシから見ればまだまだ赤子に見える」
「僕から見ればまだまだ生きてるジジの方が不思議だよ」
今度は不敵な顔を作るじじい、もといジジ。
ほんと何歳なんだこの人。
吐くため息。
「……本当に、行くのかね」
古びた魔導書を丁寧に書棚に納めたジジは、向き直って尋ねる。
「うん、そのための力だから」
僕の右の手のひらにぽっと明かりが灯った。眩しくはないが、確かな光。ここで学んだ魔法。
饒舌だったジジの瞳に、光が吸い込まれていく。今日までの日々を思い出すかのように、少しの間が空いた。
彼は大きく息を吸い込み、
「そうか。それが、使命か」
そう呟くと、僕に頭を下げた。
「一人で大丈夫だよ」
ほの暗く照らし出されたジジの顔を見て、僕は告げる。
いつだったか、僕は民家を一つ吹き飛ばした。
驚いた人々は僕を化け物呼ばわりする。
『その力は"使命"だ。嫌うことも驕ることも許されない』
ジジが言ったその言葉を、僕は今でも覚えている。使命はいつだって、まっとうする者をこそ試す。
数刻後、直ぐに旅の支度は整えられた。ジジはこの日が来ることを予期していたのだろう。
簡単な食事を済ませて、夜のうちに出立する。孤児院のみんなの寝息を妨げないよう、ひっそりと戸を閉めた。
小さな燭台を掴んだジジ牧師と、裏の出口から外へ。
夜が更け、あたりには静寂があった。
見た目よりも重い鞄を背負いなおす。本は抜いたはずだが、後ろに強く引っ張られる。両手で肩にかかった背負い紐を掴むと、後ろで軽く息を吐かれた。
「気負うな、若人よ」
「気負うよ、世界の平和だよ」
どこかで、遠吠えが聞こえた気がする。風が強く吹き、牧師の持つ蝋燭がかき消された。
一瞬の暗闇。
だけど、すぐに淡い光に包まれる。幾度となく夜を照らした僕の魔法。眩しくはない、安らぎや心地良さを与える神秘的な光。
風は止んだ。
「儂はそなたを拾ったこと、後悔しておらんよ」
ジジの言葉に僕は答える。
「知ってる」
凪いだ空気に干し草の匂いが香る。辺境にある小さな町の小さな教会。そこで僕は、異端だった。
「不遇な扱いを受けさせてしまった。申し訳なかった」
「その代わり最高の師と出会わせてくれた。ありがとう」
深い皺は微笑み、軽い調子で僕に告げる。
「いつでも戻ってきなさい。最高の師が最高の歓迎をしよう」
別れを告げて僕は歩き出した。
恐れとか、不安とか、高揚はない。
教わった力で世界を救い、恩返しをする。
この力はそのためにあるんだ。
光はより、強くなる。風が柔らかにそよいだ。
僕は振り返ることもせず、地面を踏み出した。
……いってきます。
ジジ牧師は遠のく光を見つめながら、
「神よ、あの子をどうかお導き下さい」
輝かしい空に、そう祈った。




