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「おーい!そろそろ船外活動終わりにしないと磁気嵐が来るぞ〜!」
「おいおい!マーカス!いつからそんな冗談言うようになったのだ?おーい!ユウキ!マーカスから磁気嵐が来るから船内に戻れだとよ!」
ここは宇宙。オレは米村勇気。純粋な日本人だ。今オレは日本が総力を上げて打ち上げた宇宙ステーション朝日に居る。
《ユウキ!ジョン!後30分以内には船内に戻ってくれ!じゃないとNASAが日本とカナダに記者会見する事になる!早く戻ってくれ!》
アメリカンジョークか。
この宇宙ステーションの目的とは、宇宙開発に遅れた日本が失われた時間を取り戻すために起死回生の切り札だ。中国から嫌がらせのような事もあったが無事に地球周回軌道に乗せられた。
名目としては1900年代から打ち上げられ、その役割を終えた数々の宇宙のゴミ・・・通称スペースデブリの回収だ。その他にも次代のモジュールに使えそうな装備なども搭載してある。
早い話が太陽光を利用した宇宙ドローンを複数機、操縦して特殊なネットにて回収してしまう、いかにも古臭い仕事だ。
だがこれを放っておくとスペースデブリがたまりいつ、地球に落下してしまうか分からないため、この構想をNASAに提案した時喜ばれたそうだ。だが、詰めが甘い日本。乗せられて日本が独自で打ち上げた宇宙ステーションにアメリカが黙ってるはずもない。作るのも打ち上げるのも日本。だが、運営は両国で持とう。と言われ従うしかなかった日本。
まぁこの話はいいだろう。
そして今、船外活動は回収したスペースデブリ・・・中国の国旗が描かれているなにかだが・・・宇宙ステーション朝日の回収口に傷を付けたみたいでその確認作業をしている。
共にミッションに参加しているのはオレとアメリカ人のマーカス、クリスタ。カナダ人のジョン、ハンナだ。
「ユウキ〜!早く戻っておいで〜!今日のディナーはjaxaが用意したすき焼きだよ〜!私凄い楽しみにしてたのだから!」
モシャモシャ
「確かにjaxaの飯は有名だからな!って!おい!ハンナ!その音はもう食べてるのか!?」
「んにゃ いや?食べてないよ?」
嘘だ。絶対に食べているな。jaxaを通して日本の企業がわざわざオレのためにスポンサーになり開発してくれたのに・・・。
「それ日本の企業との約束で動画撮らないといけないんだぞ?そのためにスポンサーになってくれたんだから後で食べても驚いた演技してくれよ!?」
「ユウキはいいね!個人スポンサーがついてくれて!」
暫く仲間と談笑しながらオレは作業を終わらせる。少し傷が入っただけで特段支障があるわけではなさそうなので特殊インクを塗り終わりだ。だが・・・磁気嵐まで30分とあるはずだが聞いた事のない音が聞こえた。
宇宙ではあり得ない音だった。
ザザー ザザー ザザー
「お、おい!ユウキ!早く戻れ!何かくる!」
「わ、分かっている!今戻る!」
オレもさすがに唯ならぬものを感じ船内に戻ろうとしたが・・・その頑張り虚しく蒼白いモヤっとしたなにかが見えた。
「磁気嵐だ!!チッ!計算が狂ってしまったか!?」
《全員に告ぐ!直ちに活動をやめて船内に戻りーー》
「っるせ〜!そんな事くらい分かってる!おい!何故こんなに計算が狂うんだ!まだユウキが船外に居るんだぞ!おい!ハンナ!オレがユウキを迎えに行く!」
「ちょっと!マーカス!?それはダメよ!」
「磁気嵐到達まで後40秒・・・あなたが行っても間に合わない・・・」
「クリスタ!?お前まで・・・おいユウキ!なにがなんでも戻ってこい!」
オレも死にたくない。もし磁気嵐に巻き込まれれば・・・
《ユウキ!落ち着きなさい。レベルは4だ。繰り返す・・磁気嵐のレベルは4だ。船尾に蓄電池用のパネルがある。そこで暫く待機!心拍数が上昇している。落ち着いて行動とりなさい!》
んな事言われなくたって分かるさ!だが・・・
「管制官!足にフックが絡んで・・・」
「なんだと!?おい!ユウキ!落ち着け!落ち着いて行動しろ!」
オレは直感的にもうダメだと思った。というかダメだ。太陽からの爆発が見えた。
「マーカス!オレは帰れない!恐らく通信も途切れる!母親に今までありがとうと伝えてくれ!日本には謝っておいてくれ!深くすいませんでした!と言っていたと!」
「馬鹿やろう!最後まで諦めるな!なんでそんな時まで日本人は潔いんだよ!抗えよ!オレはそんなの伝えたくねーよ!」
「すまん・・・みんな・・・」
プチュン
チッ。通信が切れてしまったか・・・。まさか磁気嵐に巻き込まれるとは・・・はぁ〜。まぁ夢の宇宙飛行士になれ、この大事なミッションに参加できただけ恵まれていたか。後任は中々決まらないだろうな。
マスコミからjaxaはかなり批判されるだろうな。
オレは磁気嵐の色とは蒼白いだけではなくピンク色にも見えるんだな・・・と冷静に考えていた。
「ありがとう」
オレは気付けば何故か感謝していた。そしてその言葉を呟き目を閉じた。
その瞬間、途轍もなく今まで感じた事のない圧力がオレを襲う。そして足に激痛が襲った。
「うっぐ・・・痛ってぇ〜!!!」
見れば、フックに絡まっていた足が千切れていた。そして酸素が漏れているのが分かる。オレの血は塊となり一緒に吹き飛ばされていた。
一度瞬きし、宇宙ステーション朝日の方へ向くともう豆粒くらいにしか見えなかった。
「クッソ!こんな時にjaxaのスーツが優秀なおかげで即死できないのかよ!寒い・・・息も苦しい・・・」
死ぬと分かっていても少しでも長生きしようと生存本能が働く。無線はもちろん通じない。
千切れた足から空気が漏れていたが右手で裾を握る事で大幅に軽減された。痛さは半端ないけど・・・。
真っ暗な宇宙に放り出されたのは人類でオレが初ではないだろうか。夢も希望もない。だが、死ぬと分かっていても少しワクワクした感じもある。誰も生で見る事のないリアルな宇宙を見ているからだ。
もう少し先・・・100年くらい未来になればここら辺くらいには人類も到達できるだろうか?
色々な思い出が頭の中を駆け巡る。
「チッ。少し呼吸がしんどいな・・・クッソ・・・酸素レベル後、2%か・・・いよいよ終わりが近づいてきたな」
暗闇の宇宙の中・・・オレは最後に目を閉じる。だが・・・また聞いた事のない音が聞こえた。
ゴォーーーーーー
は!?あれは!?まさか・・・ブラックホール!?やば!どれだけオレは神様に恨まれてるんだよ!?吸い寄せ・・・られるよな・・・あぁ〜。
あわよくば何かの拍子で300年後くらいに遺体回収くらいしてもらえるかと思ったがブラックホール・・・お前だけはダメだ。
スパゲティ現象か・・・痛いを通り越えるだろうな・・・。
あわよくば先に酸素が切れて気絶したかったが・・・
「吸い込まれる方が早いな・・・。こんな所にブラックホールなんてないはずだろ!?どこに飛ばされたんだよ・・・」
「うっ・・・苦し・・・死・・・ぬ・・・」
薄れゆく意識の中、ブラックホールの中に光が光ってるように見えた。身体も満足に動かせない中、その光がどんどん近づいて来てるように見えた。
「生きたい!」
どんな形であれ生きたい!
何をしていたのか自分でも分からない。まるで泳いでいるかのような動作をしていたのかもしれない。光が大きくなりもう目の前ってところでオレは脱力感に襲われ動く事ができなくなった。
オレは確実に終わったと思った。
だが・・・オレの人生は続いているらしい。夢か幻か・・・目が覚めるとそこには・・・。