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第32話『事前準備とまずは』

「さて、さっき話があった通りだ」

「暁くんが言ってくれた通りになりすぎて、ビックリしちゃったけど、それと同じく安心したよ」

「でもあれだよな。クエストに関してはサラっと触れられていないのだけは文句言ってもいいと思うんだがな」

「うーん、たしかに。資格の勉強をする時に出てはきたけど、あんなに大きい音が鳴るってのは聴いてなかったし、公休申請とか諸々のことは詳しく教えてもらってないね」

「だよな」


 不定期だからかもしれないが、でも、俺らみたいな学生は休みがもらえるからラッキー程度しか考えないとしても、社会人の人達にとっては致命的な問題かもしれないのに。

 ダンジョンセンターという施設を探索者に開放している優しい一面があるからこそ、そこら辺もしっかりとしてほしいところだ。

 今のところは問題ないが、そこら辺以外にもまだあるとしたら怖いぞ。


「とりあえず、今回の俺らは合計60体以上らしいから、それについて軽い策戦を立てるとしよう」

「う、うん」


 朝食の後12時、俺達はダンジョンセンターの各所に設置してある長椅子に腰を下ろしている。


「朝にも言ったが、入り口付近は初心者の人達に譲る」

「そういえば、そういう感じの人達が居たけど討伐総数ってどれぐらいなの?」

「んー、確実ではないが合計で20体ぐらいなんだろうな」

「え、6人パーティとかで?」

「そうだな。そんでもって鈴城には悪いんだが、俺と一緒だから数が多くなっているんだ」

「ううん。それは全然問題ない……と思うんだけど、同じ探索者なのにそこまで差ができちゃうものなんだね」

「まあな。たぶんだけど、ああいう人達は今の鈴城よりレベルは低いと思うぞ」


 さて、ここからが本番だ。


「それで、開幕速攻でダッシュする」

「そうしたら、通過する時にモンスターが追いかけてきちゃうんじゃないの?」

「当然そうなるが、他の人も同じことをするから気にしなくていい。最悪、俺らが最後尾になったとしたら討伐するだけだ」

「な、なるほど」

「奥に行けば行くほど、階層を降りれば降りるほどモンスターは強くなっていく。だが、2人ならある程度は問題が無いと思う」

「期待に応えられるよう頑張ります」


 そろそろ他の探索者も集まってきたな。


「じゃあ最後、アシスタントAIについてだ。走りながらで大丈夫なんだが、『自動索敵モード』『自動回避モード』『自動走行モード』を唱えてほしい」

「わかったよ。でも凄いね、各モードの同時使用ができるんだね」

「ああ。先生とかはこういうのを教えてくれないのは今でもどうかと思うが、普通にできる。だが注意しなければならないのが、『自動戦闘モード』になると戦闘系以外は機能がしなくなるから注意してくれ」


 鈴城は忘れないよう、空中に呼び出しているであろうキーボードでメモを取っている。


「後はダンジョンの中で戦闘しながら覚えられるだろうし、休憩もできる」

「うん。頑張る」


 鈴城はメモを終えたようで、手をパタパタと扇いでいる。

 そうだよな。

 いろんなことがわからず戦闘経験も少ないというのに、わけもわからない強制参加のクエストに参加させられるんだ。

 いくら知り合いと参加できるからといって、緊張しないっていう方が無理は話だよな。


「そういえば、ゲームの方ってしっかり楽しめてるか?」

「う、うん。運がいいことに同い年の友達もできたから、楽しいよ。まだまだ強くはなれてないけど、ただ景色を楽しんだり、ただその子とお話をするだけでも楽しいんだ」

「そりゃあいいな。楽しみ方は人それぞれでいいし、俺にはそういう楽しみ方ができないから羨ましい」

「そうなの? でも暁くんってものすっごく、初心者の私でもわかるぐらいにはあのゲームを楽しんでいるし、なによりも好きだよね?」

「ああ、それは胸を張って言えることだが……残念ながら、俺にはそういう楽しみを共有できるような仲間は居ないし、たぶん、一般的な人から見て普通の愉しみ方をしていないんだと思う」

「そうなんだ。私は今までゲームをして遊ぶって機会がほとんどなかったから、見るものやること全てが新鮮で楽しいだけなのかも。だけど、暁くんはそう言ってもやっぱり楽しそうだよ。なにがって根拠があるわけではないけど」


 緊張を解すために話題を作ったのに、なんだか俺が慰められているようになってるな。

 しかし、俺も景色を楽しむ心は残っていたし、誰かと一緒にゲームをしたいと思う気持ちも残っている。

 だが……それができないから、できる人が居ないから少し悲しいんだろうな。


 そして、今でも最初に助けたあの人のことが心のどこかで引っ掛かったままだ。

 自分から見捨てておいて、なにを悲観的になっているんだって話だが。


 なぜだか、鈴城は辺りにキョロキョロと視線を運んだ後、俺に向き直る。


「こういうことって、大きな声で言えないと思うんだけど――」


 鈴城は俺との間をちょいちょいっと詰め、ひそひそ声で話しかけてきた。


「暁くんのレベルって今はどれぐらいなの?」

「今はレベル30で、ついでにゲーム内もレベル30」

「うわ凄いっ。私はレベル3だから、ちょうど10倍なんだね――なら、これ以上の余計な心配はいらなそうだね」

「だな。油断せず、自分の感覚とアシスタントAIを信じて戦うんだ」

「よーっし、頑張るぞーっ」


 声量を戻し、拳を斜め前へ突き出し始める姿には、先ほどまであった不安はなくなっているように思えた。


 侵入開始したら気を抜くな。

 これはゲームではない。

 一歩間違えれば命を落としていしまうんだ。


 気を引き締めていけ、俺。

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