第12話『週明けの学校っていうのは憂鬱だな』
「だぁ~」
週明けの授業っていうのは、幾度と繰り返されるが毎回気乗りしない。
例外があるとすれば、月曜日にゲームの発売だった時ぐらいだ。
俺は現実の体ではない体で、机に突っ伏して全力で気だるさを演出している。
「なあ暁、ここってどうやって操作するんだ?」
「Ctrl+Sの後にAlt+F4」
「お~、さすがは暁。さんきゅー」
ふふっ。
騙されたな夏英。
「おえ!? な、なあ暁! 今度はアプリが消えちまった! 助けてくれ!」
そんな綺麗に引っかかることあるか?
「ホームにある創作フォルダってところを開いて――」
「うんうん」
「その中にある授業用3ってやつを開いて」
「ほうほう、おお! ちゃんとさっきまでの内容が保存されてるぞ! やっぱり暁はすげえな!」
「いやそれ、先生の横にある電子板に書いてあるだろ」
「わーお」
俺達は今、システムカスタムの授業をしている。
この語呂の良いものは、基本的に卒業後必ず使用することになるものだ。
基本的にはアシスタントAIに作業補助を指示する際に必要となる。
入力方法はこめかみに張ってある、携帯端末からARキーボードが展開して直に入力。
ちなみに、音声入力で出来るようになるのが、探索者にのみ許可されているアシスタントAIの制限解除というわけだ。
つまり俺は、この授業を受ける必要がないとでも言える。
まあそんなことを堂々と発言したら、間違いなく先生に怒られる&減点になるが。
「夏英は卒業したら進学するのか?」
「んー、まだわからん」
「そりゃあそうか」
「今は1年生だからな。来年の……末ぐらいには決めようかと思ってる」
「今考えたろ。そんでもって少しでも先延ばしをしようとしているだろ」
「バレたか」
俺も人のことは言えないがな。
それにしても、今更ながらに思うことがある。
俺達は仮想の体で学校に来ているわけだが、実際に登校しているように椅子に座り机を利用しているわけだが、これは本当に必要なのだろうか。
なんせ、この体は疲労が溜まったり疲れたりしないからな。
「逆に、暁はどうするんだよ。ゲーム制作会社に就職するのか?」
「いやそれはないな。俺はプレイヤーであって、クリエイターになりたいわけじゃない」
「なるほどな。んじゃあ、進学するんか?」
「ん~、一つだけ言えるのは、ゲームはずっとやり続けるってことだな」
「うっわ、暁らしい発言」
「だろ」
俺は窓外の作り出された景色に視線を移し、ほんの少しだけ考える。
探索者を続けてどこかに就職するのは無しじゃない。
だが、確実に時間は減る。
それはゲーム時間も同じく。
じゃあ進学して今と同じように生活すれば、たぶん今と変わらず過ごせるはず。
しかも学校に通いながら卒業した後のことをゆっくりと考えられる。
これが一番無難な気はするが、じゃあだったら高校を卒業したら探索者とゲーマーの2つだけに集中した方がいいのでは。
視線を必死にシステムと向き合っている夏英に戻す。
「俺も来年ぐらいに決めるとするか」
「それがいい」
焦って決めるようなことでもないしな。
「ああそういえば、そろそろ委員会的なものを決める様な気配を感じるんだよな」
「なんだよその預言者みたいな発言」
「いやほら、入学してもう2か月目じゃん? 中学の時もそういうのあったからさ」
「言われてみればそうだな」
中学の時は、環境委員を選択した。
実際に花を植えるわけではない。
インターネット内の学園に通うのに環境委員とはなんだよ、という疑問に惹かれて選択したのもあるが、単純に面白そうだと感じた。
システムを構築して、花壇を生成したり創造したい花を配置するというもの。
高校の委員的なものはどんなものがあるんだろうな。
できるだけ楽なものか、放課後の時間のとられないやつが一番いい。
「おっ、できたぞ~っ」
「よしじゃあ最後の仕上げにAlt+F4だ」
「よーしっ――っておい。騙されないぞ」
「ちっ」
そんなやり取りをしていると、隣から笑い声が聞こえてきた。
「男子らしい会話で面白い」
「だろ? 楽しそうだろ?」
俺は、今回同じグループになった皆野理紗へそう返す。
「ちなみに私はもう終わってるから、余裕の表情だよ。ちなみに進学希望」
「くっ、じゃあ今回は俺が一番遅かったってことか」
「夏英、落ち込むな。『今回は』ではなく『今回も』だ」
「くっ……」
「ふふっ、本当に楽しそう。そういうノリ、私は大好きだよ」
ちなみに皆野の顔はほとんど覚えていないから、今の印象しか知らない。
大体のクラスメイトがそんな感じなんだが。
皆野は印象だけで言ったら天真爛漫。
蒼毛のサイドテールという、ゲームキャラにしか見えない特徴的すぎる髪型をしている。
体型はみんな大体一緒で健康的なそれそのもの。
顔も、まあ綺麗系という感じ。
「まあ女子同士となると、こんなアホッぽい会話は難しいんだろうな」
「どうなんだろ。私はあんまり他の人と話しをしないからわからないや」
「そっか」
皆野は少し寂しそうに言ってはいるが、逆にそれが普通ではある。
実際に顔を合わせて会話をする機会は極めて少ないため、ならば友人になる必要もないとも言えるからな。
「そういえばさっき、委員会的な話をしてたよね。今朝の先生の話聞いてなかったの?」
「え?」
「え?」
俺と夏英は全く同じ反応をした。
「いやだって、先生が今日の5限目はホームルームで委員会の話をするって言ってたじゃない」
「あー、そういえばそんなことを言っていたような気もするようなしないような」
「マジか、記憶にない」
「そういえば暁くん、机とお友達になってたもんね」
「あー……そういうことか」
俺は睡眠不足のあまり、両手を枕にうとうとしていた。
実際の体ではないのに、自分の意識に従ってしまうというのは是非とも改善してほしい。
そしてもう一つ思い出した。
休み時間は全部寝ていたから、鈴城と話ができなかった……これはマズい。
「お、そろそろ授業終わりだね」
「よーしっ、今日は授業中にクリアできたぞ」
さすがに授業が終わったら、一番に鈴城と話をしよう……。




