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8.縫い物をしてみよう


朝起きたら、リロイがお義母さんとご飯を作ってた。最高か。


何この新婚生活。私の幸せ数値が爆上がりなんだけど、これからどうなるの。


「…。おはよう」


昨夜の気まずさから頬をほんのり染めて照れるリロイがバカ可愛い。抱きついていいですか。

返事を返すとほっとした顔をして、調理に戻って行った。

押し倒していいですか?


「あ〜、好き」

「朝から元気だねぇ」


ぽつっと呟いた言葉に返事があって、ビックリした。


「そんな所に蹲ってないで、座りなよ」


まるで自分の家のように振る舞うヘルバンに膝裏キックしたくなる。

手伝わないのは気がひけるが、人数が増えても邪魔なので、渋々定位置に座った。


「うちの護衛が悪かったね。ガイズがキチンと締めといたから安心して」

「はぁ。反撃したんで別にいいですけどね」

「ああ、あれね」


思い出し笑いをしたヘルバンが手を叩いて笑う。


「傑作だったね。普段偉そうにしている奴が内股で背中を丸めてるんだよ。思わず『剛腕を自慢している君が誰にやられたんだっ』って大声で聞いちゃったよ」

「え?あれで剛腕とか嘘でしょう?うちの村じゃ普通ぐらいだったよ」

「本当にこの辺の人達は強い人が多いなぁ。竜種を簡単に狩るんだって?」


感心したように言うけど、この周辺の村しか知らないから比べようがない。

ついでに言えば、竜を狩るのは簡単ではない。ちゃんと下準備をして連携を取らないと危ない。竜種や個体によっては危険度が高いやつもいるんだから。


「もしかして、他じゃ狩らないの?」

「少なくとも五、六人で狩るもんじゃないね。地竜でも十人以上で狩るよ。飛竜なんて無理無理」

「え?飛竜は落とせばいいじゃん。翼膜ぶち抜いたら落ちるよ?」

「簡単にいうなぁ〜」


ヘルバンはへらっと笑って天を仰いだ。

弓の腕前が良ければ、喉を狙えば瀕死で落ちてくるので楽なんだけど。他ではしないの?

この世界って、テレビもネットもないから、本当に情報って少ないんだよね。

学者はそういうのが比較できるぐらい各地に行ってるって事なんだよね。

リロイもいろんな場所に行くのかな。


「ねぇ、ヘルバン。学者って色んな所に行くんだよね?」

「そうだね。調査依頼の時もあるし自分の研究目的の時もあるけどね。リロイはまだ若手だから色んな助手もさせられるんだよ。今回は俺の手伝いと、塔の仕事ね」

「ふぅん」

「ちなみに俺のライフワークはリロイと同じ植物なんだけど…」

「そっちは興味ないのでいい」

「清々しいほど一途だねぇ」


ニヤニヤして楽しそうなヘルバンは放っておく。考え事あるから一人で遊んでて。

要するに、各地を巡るからリロイが次にこの村に来るのが何年後かなんて分からないのか。もしかしたら来ない可能性もあるってこと?

これで振られたら、もう無理かな。……いや、弱気になってどうする。こんな半端で諦めたら末代までの笑い者だわ。

リロイの仕事が終わるまで後八日。

押し倒す勢いで頑張れ私!


「何、気合いいれてるの」

「ちょっと、初心に帰る決意を」


ファイティグポーズをしてたら、リロイから呆れた視線を頂きました。

コトリと朝食の皿が置かれる。


「へぇ。………」

「え?なに?」

「何でもない。ほら、食べよう」


誤魔化すように食事に手をつけるので、私もつられて食べ始める。

小さい声でもごもごと言うから聞き取りづらかったけど、ヘルバンがどうのと言ってた気がした。

なんでそこでヘルバンかな。私の名前を呼んでよ、秒で返事するから。

いいなー、同僚。でも私に学者は無理。


「うん。やっぱり、嫁一択で」


リロイがいきなり咽せた。


「ちょっ、リロイ大丈夫?」


食べ物が気管に入ったのかも、吐くような咳をするリロイの背中をさすってあげる。


「あら、あら。新婚さんみたいね」

「え?本当?嬉しいっ」

「うちの息子をお願いね、ユーリー」

「全力で幸せにしますっ!」


お義母さんと話しながらもリロイの背中から手は離さない。

はぁ、温かい。背中広い。好き。

ごめん、リロイが苦しい思いをしてるのに、喜びが抑えられない。


「も、もぅ、いい…から」

「本当?大丈夫?」


体を起こして、喉の調子を整える姿を食い入るように見つめる。

大丈夫そうだけど、涙目が、濡れた目がキラキラしてて、カッコいい。可愛い。

尊い。ってこんな感じ?

やっぱ、嫁一択で。




気分を新たに、お嫁さん気分でリロイを見送ったらお義母さんのお手伝いに精を出す。

針仕事は苦手だけど、お義母さんに教わりながら縫い物をするがどうしても縫い目がガタガタになる。


「もぉ!なんで真っ直ぐなんないの」

「練習したら出来る様になるわよ。ほら、縫う間隔は均等で綺麗よ」

「そこはできてるのに、なんで真っ直ぐにならないのよぉ」


むきー!

もうだやだ。縫い目汚い。

むすっと膨れる私を「練習あるのみよ」とお義母さんが笑い飛ばす。

繕い物だけで疲労困憊なんですが。

後で武器の手入れでもして気分転換しよう。


「ありがとう。ユーリー」


次の予定を決めてると、お義母さんにお礼を言われた。

何の事かと首を捻ると、縫い終わった服を膝に乗せたまま私を見て微笑んでいた。


「変わらずリロイを好きでいてくれて嬉しいの」


そんな当たり前の事にお礼を言われるのも変な感じがする。


「あの子、痩せてるし、体力ないし、狩りは下手だし、正直モテないのよ。そういうところ、父親に似たんでしょうね」


そう言って寂しそうに笑う。

リロイの父親は学者だ。村に何度か来ていた時にお義母さんと恋をして、リロイが生まれた。でも、リロイが生まれからは一度も訪れていない。他の学者に聞いたところ、他の塔へ移動したらしく、それ以上の消息が掴めなかった。

竜種の研究をしていた人だったから、もしかしたら生死も怪しいのだと言われたらしい。


「親の私は先にいなくなるし、あの子の事が心配だったのよ。でも、昔と変わらずユーリーがあの子の事を好きでいてくれてホッとしたの。ごめんなさい。勝手ね」

「?なんで謝るの?変なの」

「そうかしら。変かしらね」

「そうよ。変よ」


お義母さんと顔を見合わせて笑った。


「私ね、リロイがお嫁さんにしてくれるなら付いて行くつもりなの。でも、それはリロイが望んでくれないとダメでしょ。だから、頑張るね」

「私はユーリーの味方よ」


もちろん、頑張るつもりだ。

でも、ちょっとだけ自信が無くなったら押し倒そうと思ってると伝えるとお義母さんは目を丸くしてから吹き出した。


「最高よ。ユーリー。それって、私もやったわ」


お淑やかに見えても、お義母さんもやっぱり村の女だったらしい。

うちの村は男よりも女の方が強くて強かなのかもしれない。



お読みくださりありがとうございます。


次話は翌日6時です。

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