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7.壁ドンしてみよう


壁ドンって知ってる?

好きな男の人に、壁に追い詰められた状態のアレ。

背中には壁、その壁に手をついて男の人の腕の中に囲われる夢のような状態。ただし、好きな人に限るってやつね。

至近距離と捕まった獲物のようなドキドキ感を堪能できる乙女的イベントなのよ。

それをまさか体験できるなんてっ!

悲しむべきは、壁ドンしているのが私で腕の中にいるのがリロイって事だけで……。


なんでこうなった。




翌日、夕方に帰ってきたリロイは機嫌が悪かった。

何かあったのかと心配になったが、ヘルバンが何故か私に片手で謝るような仕草をする。

ヘルバンに謝ってもらうような覚えはないので、首を捻る。


「ユーリー。ちょっと来て」


硬い声のリロイに促された先は、出禁になったはずのリロイの部屋だった。

初日に夜這いに行って追い出されて以来である。

もう解禁かとウキウキしながら部屋に入った途端、背筋がぞわっとした。

無言でこっちを見てくる目が、本当に怒ってる。これ、マジだ。

でもなんで?

初日以来、夜這いはしてないし、風呂上がりを狙って突撃もしてない。

もしかして、アレがバレた?


「ユーリー…」

「ごめん!ほんの出来心だったの。そんなに怒るなんて思わなくて。ごめん、もうしないから」


怒られる前に両手を合わせて拝むように謝る。先手必勝。先制攻撃はリロイには有効打なのだ。

とにかく反省してる事を伝えれば、少し悲しそうな顔になった。

うう、申し訳ない。


「ユーリーが謝らなくてもいいんだ。当然の事なんだから」

「え?え、そ、そうかな。リロイはそれでいいの?」

「ああ。自業自得だしな」


自業自得?なにが?

よく分かんないけど、お墨付きもらえたって事でいいのかな。

公認。いい響き。


「ありがとう。実は、怒られるかな?ってちょっと不安だったんだよね」

「怒るわけないだろ」

「でも、さっきは怒ってたよね」


あれは怒ってた。

久しぶりに激おこだった。

そう指摘すれば、リロイは気まずそうに目を逸らした。


「悪かった。八つ当たりだ。ユーリーが僕に相談もしなかったから」

「ええっ!?聞いて良かったの?」

「当たり前だろ」


照れたリロイが尊い。好き。

ほんのりピンクに染まった頬が可愛い。やばい、くっつきたい。抱きしめたい。

だが、今では無い気がして、力一杯拳を握って耐えた。


「任せて。今度からちゃんと相談するから!」

「あ、ああ。そうしてくれ」


勢いに任せてずいっと前のめりになっちゃった。

リロイはくすっと笑ってくれた。

もお、その笑顔が好きすぎる。さっきからトキメキが止まりません。


「それで、ガイズが君に謝罪したいと言ってるんだけど、どうする?」

「え?なんでガイズが?」

「ガイズは護衛パーティのリーダーだから責任があるだろう?」

「なんの?」


はて。

ガイズに何かされただろうか。そんな覚えはないけどなぁ。


「だから。ゾッドが君に……」


リロイの言葉に首を傾げる。

ゾッドって誰?

本気で分からなくて困っている私の前でリロイの眉間の皺が深くなっていく。

あれ?なんか、雲行きが怪しい。


「ユーリー」

「な、なに?」

「さっきは、何を、謝った?」


声を荒げてるわけじゃないのに、なぜか怖い。

怒ってもかっこいい。でも、怒らない方が大好きなんだけど。


「何をって。ユーリーのシャツを、その、無断で持ってること……」


洗濯籠にあったユーリーのシャツを見つけて、思わず取り出して彼シャツやっちゃったんだよね。

ダボダボとはいかないけど、リロイの方が大きいから袖とか丈とか長いんだよ。もう、リロイに抱きしめられてるみたいな?

うきゃあぁぁ!ってジタバタしちゃうよね。

そのまま返しそびれて、私の服の間に隠してるのだ。

……やっぱり怒るよね?

ちらりと見れば、眉間を揉みながらため息を吐き出していた。


「あれ?違った?じゃあ、出かけた後のリロイの椅子に座って温もりを堪能した事?え、違う?じゃあ、じゃあ、風呂上がりが見たくて待ち伏せした事、とか…」


違いますか。違うようですね。そうですか。

呆れ果てた視線が冷たい。

ここ室内。嬉し恥ずかしリロイの部屋なのに、寒い。その胸で温めて欲しい。


「昨日、ゾッドに襲われたんだろ」


ああ、あいつそんな名前だったんだ。覚える気ないから別にいいけど。

たしかに、襲われたけど返り討ちにしたし。思いっきり蹴り上げたから、かなり痛かったんじゃないかな。

男じゃ無いから、どれくらい痛いかは知らないけど。

また再度襲ってきたら、次は容赦なく踏み潰してやる。


「だから、大丈夫だよ。ガイズにもそう言っておいて」


リロイも気にしないで。

そう笑うと、顰めっ面をしたリロイが一気に距離を詰めてくる。思わず後退りすれば数歩で壁に背中がついた。

私の正面に立つリロイが、私の両脇に手をつくと真っ直ぐに私を見つめてくる。


「大丈夫じゃないだろっ」


これ、壁ドン?

え、うそ嘘。何かで見た壁ドンだ。

近っ。リロイの顔が近い。

至近距離で見るリロイがカッコよすぎる。

囲い込まれてるせいか、なんだか体温も感じちゃう。これってリロイから抱きしめられてるも同じじゃない?

何コレ。幸せすぎる。

逃がさないぜ。って意思表示でしょ。逃げないって。むしろずっと捕まえてて。


「どんなに強くなったって、ユーリーは女の子なんだから。男に襲われかけて怖くないはずはないだろ」


怖いというよりムカついたぐらいです。とは、言えない雰囲気。

そんなことより今が幸せすぎて、もはやどうでもいい。

はっ!ここは「怖かった…」って小動物みたいに震えるべき場面?

でも、それ、私がして似合うかな。やった事ないしなぁ。逆に引かれないか心配だわ。


「それとも…余計な心配、だったか……」


迷っていたらリロイが顔を曇らせて俯いてしまった。

か、顔、顔が見えない。


「リ、リロイ…?」

「やっぱり、ユーリーも僕なんかよりああいう男の方が良いよな…」


声が沈んでる。昔のリロイみたいに哀しそうな声。ダメだよ、その声は私も哀しくなる。

何て言ってたっけ。僕なんて?ああいう男の方が?

まさか、私の心変わりを疑われてるの!?心外だわ!


「…悪い」

「待って!」


離れようとするリロイに手を伸ばしたら、バシッと音がするほど振り払われた。

私も驚いたけど、リロイも驚いた顔をしていた。

傷ついたように顔をくしゃりと歪めて去っていこうとするその手首を捕まえる。その手首を軸に私と位置を変えてリロイを壁に押し付ける。

逃げないように両脇に手をドン!と付いて、少し上にある顔を睨みつけた。


「ユーリー…」


辛そうな顔しないでよ。私の方が傷ついたのに。


「私がリロイを好きなのは知ってるよね?昔からずっと言ってるのに、なんで信じないの!?なんであんな筋肉バカの方がいいと思うの!」

「でも…」

「でもじゃないわよ。他がどうだろうと、私はリロイがいいの!リロイが好きなの!それを疑わないで!」


リロイの胸倉を掴んで引き寄せると、その勢いのまま唇を重ねた。勢いが良すぎて歯が当たってちょっと痛かった。

ぐっと押しつけて、体を突き離す。


「リロイのバーカ!明日まで口きいてあげないからっ」


捨て台詞を残してリロイの部屋から出て、お義母さんの部屋に閉じこもる。

一気に力が抜けて壁に背を預けて座り込んだ。

ヤバい。キスしちゃった。

だってすっごいムカついたんだもん。

歯も当たるし、全然ムードなんて無いし、色々重なってちょっとショックすぎて泣きたい。


「ファーストキスだったのになぁ……」


リロイのバーカ、バーカ。

反省しろっ!


お読みくださりありがとうございます。


次話は本日18時です。

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