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4.護衛を志願してみよう


今回のリロイたちの仕事は、植物の分布図の再確認とか色々らしい。

植物調べてどうするのかな。よく分からないけど、リロイが大切な事だと言うからそうなんだろう。


朝一は止めろと言うから、翌日の昼前にリロイの家に寄ったらもう出かけていた。残念。

明日は朝一で来ようと誓う。

「また来てね」と言うおばさんの表情は明るくて、どことなく嬉しそうだ。久々にリロイに会えたんだもんね。私もワクワクが止まらないもん。

リロイが居ないなら仕方ない。今日は、昨日採ってきた岩塩の処理をする。ついでに薬草の仕分けもする。

こういう細かい作業、苦手なんだよね。


「ご機嫌ね、ユーリー」


鼻歌でも歌って少しでもテンションを上げてたら、お母さんが私の横にしゃがみ込んだ。


「んふふふ。だってリロイに会えたもん」

「大きくなったわよね。相変わらず細いけど、立派な学者さんになったわね」

「分かる!?昔から知的で素敵だったけど、今は磨きがかかってカッコよくなったよねっ」


目元とかすっとして、輪郭とか、手とか男っぽくなってて、すっごいカッコいいの。

声もいつのまにか変声期で低くなってるし。でも、いい感じの低さ。アルト?テノール?高すぎず低すぎず、そんないい感じ。

あー、あの声で名前呼ばれたい。

『好きだよ』って囁かれたい。

きゃー!きゃー!いやーー!好きー!


想像して、ジタバタと悶える私を見てお母さんがくすくすと笑う。


「本当に、リロイが大好きなのね」

「大好きっ!」

「でも、リロイは学者よ?この村には定住しないわ」


その言葉に気持ちがシュンと萎れた。

そう。リロイは学者だから『知識の塔』で働いてる。だから、嫁になるには私が村を出て、ついていかなきゃいけない。

お母さんを残して。


「…うん。分かってる」

「だからね。一緒に付いて行きなさい」

「……え?」


顔を上げると、お母さんはにんまりと笑った。


「リロイが好きなら、生涯を共にしたいと思うなら、逃しちゃダメよ。しがみついて離さないぐらいの気持ちで食いつきなさい」


拳をギュッと握りしめて力説する。その目はイキイキと輝いていた。

昔、ハンターやっていた時の顔と同じだ。引退したけど、お母さんも根っからのハンター気質なんだろう。


「ユーリーがこの村を出るのを躊躇う気持ちは分かるわ。不安も多いでしょ。だからこそ、悩んで考えて結論を出しなさい。いい?自分の気持ちを一番考えるのよ。親の心配をするなんて百年早いのよ」


伸ばした人差し指でドスドスと頭を小突かれる。

地味に痛い。


「分かってるってば」

「いいえ。分かってないわ。親はね、子どもの幸せが一番なのよ。私もお父さんもユーリーに幸せでいて欲しいのよ」

「分かった。分かったから止めてってば」


上半身だけを動かして凶器のような指から逃れる。

ニッと笑ったお母さんの指の速度が速くなったので必死で避ける。

何の訓練よ、これ。

お互いに息が切れたところで中止となった。

なにやってるんだか。おかしくて、二人で笑った。


お母さんを一人にしちゃう気がしてた。

リロイが好きだけど、でもお母さんを置いて出て行く勇気がなかった。

そんな不安な迷いなんてお見通しとばかりに、お母さんは「大丈夫」と笑う。お父さんの思い出もあるし、友人もたくさんいるから寂しくなんてないそうだ。


「お父さんはね、そりゃあモテたのよ。腕っ節が強くて、狩り上手で、頼り甲斐があって、その上仲間思いで誰からも信頼されてたわ」

「なに、ノロケ?」

「そうよ。とっても素敵な人だったから、本当にモテてたのよ。あの人の周りはいつもどうやって誘惑しようかと考える女ハンターばかりだったわ。だから、押して押して押し倒して私が手に入れたのよ」

「今さらっと言ったね」

「やあね。そのぐらいの気迫で行きなさいって事よ」


カラカラと笑うお母さんを見て、自分は母親似だなぁ、と実感した。

最終的には押し倒そう。それがいい。


「お母さん。私、頑張るっ!」

「その意気よ!私の娘なら負けんじゃないわよ」


気持ちを込めて互いの手をグッと握り合う。

任せて!負けない!諦めない!へこたれない!

恋する乙女を舐めんなよ。リロイ、覚悟しててね。



お母さんの後押しも受けて、俄然やる気の私は翌日朝一でリロイの家に突撃した。


「おはようございますっ!」


起きてそろそろ朝ごはんという時間にも関わらず、おばさんは心良く招き入れてくれた。


「朝から元気ね。一緒に朝ごはん食べる?」

「はいっ!ぜひっ!」


この前採取した果物と岩塩を差し入れしたら喜んでくれた。

部屋に入ると寝起きのリロイがいた。


「朝一で来るなって言ったのに」

「リロイ。おはよう!今日も素敵ね」


寝癖ついてる。可愛い。好き。

まだ目に力の入ってないとこが可愛い。好き。

今日は朝からいい日。くふふふ。


「手伝うね」

「あら、ありがとう」


タイ米みたいな米で作った雑炊みたいなご飯と焼き野菜と果物をテーブルに並べる。

リロイの前にドキドキしながら配膳する。

うわぁ、なんか新婚さんみたい。

はい、あなた。なーんて、なーんて。きゃあ、恥ずかしいっ。

でも、良い!やりたい。


「私、ちゃんと幸せにするからね」

「……なんの話」

「ここまで無視されると傷つくなぁ」


学者その一のヘルバンが乾いた笑いを浮かべる。おばさんは「あらあら」と楽しそうだ。

一緒に朝ごはんを食べながら、今日の調査について行きたいと申し出てみた。


「ダメ」

「なんで?」

「塔が雇った護衛がいるから」

「それは知ってるよ。でも、現地の人を道案内で雇うでしょ?知ってるよ。これまでの学者たちもそうしてたもん」

「だから、昨日と同じ人にもう頼んでる」

「私、お金要らないよ。一緒に行きたいだけだし、邪魔もしないよ」


だって後十四日しかないんだもん。側にいてガンガンアピールしなきゃ。

タン。とリロイが食器を置く音がその場を打った。


「ユーリー。遊びじゃないんだ」

「わ、私だって遊びじゃないよ」

「迷惑だと言っているんだ」


強い視線が真っ直ぐに射抜く。

怒ってる。リロイが、私に怒ってる。

なんで?私、強くなったし、足手まといにならないよ。ちゃんと戦えるよ。

なんで、怒るの。

じわっと涙が溢れそうになった時、優しい手が頭を撫でた。

視線を向けると、おばさんが優しく微笑んでいた。


「ユーリー。お仕事だからあなたの我儘で変更するのは難しいわ」

「……うん」

「でも、ユーリーの気持ちも分かるの。だからね、しばらくうちに泊まりなさい」

「え!いいの?」

「はあ!?」


リロイの驚いた声と、ヘルバンが吹き出して咽せてる声が聞こえたけど、無視。


「お仕事の邪魔はダメだけど、おはようとおやすみが言えるのって素敵じゃない?」

「素敵!いってらっしゃいもおかえりも言えるとか、もはや新婚夫婦!嬉しいっ!これってプロポーズ?」


寝起きも寝姿も見放題。すごい、楽園はここにあった!

え?もしかして、お風呂上がりとか、ラッキースケベに遭遇とかある?あるかも。なんなら寝ぼけて一緒のベッドに寝たりなんかして。

やだ。なにそれ、なにそれ。

別に期待してる訳じゃ…、いや、してるけど。してるけどー、待って、心の準備が。いや、下着の準備も。

きゃあああ、嬉しいっ。嬉しいっ。どうしようーーー!!


「母さんっ!何を考えてっ」

「お黙り、息子。嫌なら貴方がユーリーを未練もなくなるぐらいにこっ酷く振りなさい。中途半端な事するんじゃないわよ」

「そんな、ことは…」

「据え膳食うぐらいの気概を見せなさい。男でしょ。こんなに可愛い子を前に何を躊躇ってるの」

「僕は、まだ駆け出しで、まだ、そんな…」

「ぐずぐずしてると横から掻っ攫われていくわよ。モテるのよ、ユーリーは」

「……」


私が妄想新婚生活に浸っている間に、リロイとおばさんが何やら話し合っていたが、無事に私とリロイの新婚生活(期間限定)が始まることとなった。


お読みくださりありがとうございます。


次話は翌日6時です。

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