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3.赤毛狒々を狩ってみよう


ピナとレイガはよく二人で狩りに出かけているらしい。レイガが誘ってくる事もなくなってるから、多分上手くいってるんだと思う。

このまま行けば秋の祭りで夫婦になっちゃうかもね。

感謝して欲しいわ、本当に。


コランド村は山の中腹にあって、冬が長くて夏が短いの。短い夏を終えたら冬支度に忙しくなる。

秋のお祭りは、冬支度に向けての物々交換会と一年に一度の合同結婚式が開催される。

雪が降ると村から滅多な事では出れないからね。新婚夫婦にはうってつけってわけよ。

物々交換会は、お互いに得意分野の物を交換するの。私みたいなハンターだと、織物は作れないからね。逆も同じ。

行商人も来るから賑やかになるんだよね。

その秋の祭りが約一か月後に開催される。

冬支度の為にも最近は主に岩塩と木の実採取が多い。どちらも水にさらしたり手間がかかるからね。

そんな訳で、今日は岩塩採取。ツルハシ持って行ってきます。

と、言っても一人じゃないよ。今回は三人で交互に採取する予定。だって、採取してる間って無防備だから周囲を見張ってくれる人がいるじゃない。持ちつ持たれつだよね。

コランド村よりも上にある洞窟に岩塩が取れる所があるの。うっすらピンク色でかわいいんだけど、味はちょっと苦め。

こんな時は前世の日本っていいなって思う。食が溢れてたよね。味は思い出せないけど、美味しかったという記憶はある。味が思い出せなくてよかった。覚えていたら食事に不満ばかり言ってたかもしれない。


取り止めのない事を考えながら岩塩の塊を袋に入れていく。他の二人も交互に採取して、木の実を取りながら帰る。木の実だけじゃなく、薬草とか美味しそうな果実とか色々。

荷物いっぱいでほくほくと帰っていたら、途中で争うような声が聞こえた。

目配せをして慎重に近づくと、数人が赤毛狒々に襲われていた。

背中に一筋の赤い毛を持つ狒々は、猿系なせいか知能が高い。枝や石などを使って攻撃してくるし、隠れて攻撃してきたりと厄介な動物だ。群れで行動しないのが救いだ。

そんな赤毛狒々は私たちに背を向けている。

視線を合わせて頷くと、静かに移動した。スミナがその場で弓をつがえる。私とオルガは左右に移動して剣の柄を握りしめた。

頚椎を狙って放たれた矢が首に刺さる。同時に駆け出した私たちが左右から腕を切り付ける。片手剣じゃ切り落とす事はできないが、それなりに深手を負わせたはず。距離を取り、振り回した腕を掻い潜って胴を切り付けるが浅かった。


「離れろっ」


鋭い声と同時に後ろへと下がる。

威嚇で振り上げた両手の隙に薙ぎ払った大剣が赤毛狒々の胸を切り裂いた。

両断とはいかなくとも半分近く切れた上半身から後ろに倒れ込む。すかさず倒れた二メートル近い巨体の上に飛び乗り、心臓に剣を突き刺した。

死んでると思うけど念の為にね。

少しの間は様子を見て剣を引き抜く。

大丈夫。ちゃんと死んでる。


「どう?」

「大丈夫」

「いいね、背中に傷がないわ」


スミナが駆け寄って赤毛狒々の顔を見て確認をする。オルガは赤毛狒々の状態を見てニンマリと笑った。

赤い毛が美しい赤毛狒々の背中は高値がつく。

今回は私たちの獲物って訳じゃないから、交渉次第かな。


「助力感謝する。助かった」


最後にとどめを刺した男がこっちに近づいてきた。この辺じゃ見かけない装備に身を包んだ男は腕や足の筋肉が盛り上がった、うちの村でも見劣りしない筋肉マッチョだった。スミナとオルガの目がキラリと光った気がした。


「こいつの前に岩竜に出会ってな、二人負傷したんだ」


岩竜は小型の竜で、飛ばないがとても固い。しかも、食べれる部分がほとんどない。素材としては優秀なんだけどね。

岩に擬態するので気付かずに近づいてしまう事がよくある。

男の後ろで肩や腕に包帯を巻いた二人がいた。重傷ではなさそうだが、利き手が使えないのは痛手だろう。


「俺たちは護衛でね、コランド村へ行く予定なんだが。もしかして…」

「運がいいね。私たちはコランド村の者だよ。赤毛狒々の背中を譲ってくれるなら、道中加わらせておくれ」


オルガの提案にガイズと名乗った男は快諾してくれた。

赤毛狒々全部は持って帰れないので、解体して背中の毛皮と目玉と爪を剥ぎ取る。

オルガは赤毛狒々の股に剣を刺して睾丸を取り出していた。ガイズと仲間の顔が引き攣ったように見えた。

アレ、滋養強壮に効く薬になるから、村のおじさん達に蛇酒と共に大人気なのだ。


自分の持ち分をオルガたちと話し合っていると、ガイズ達がマントを被った二人と話をしていた。

あの二人が護衛対象かな。身なりから戦闘職じゃなさそうだし、荷物が少ないから商人とも違う。学者かな。

じっと見ていたら、一人と目があった。

深い夏の緑の色が大きく見開かれる。


「ーーーー」


形の良い唇が私の名前を呼んだ気がした。いや、絶対に呼んだ!


「リ、ローーーイ!!」


衝動だけで突っ走り、勢いよく抱きついた。

ひょろいリロイが抱き止められるはずも無く、そのまま後ろに倒れ込む。

あぁ、この感触。マッチョじゃない。

うわっ、汗臭くない。いい匂いがする。

リロイだっ!リロイだー。


「ユーリー、ちょっ、ユーリー、重い…」


リロイを堪能していたら背中を軽く叩かれた。

やばっ、押し倒しちゃった。まだ早かったね。


「ごめんね。嬉しくって、つい」


体を起こすついでにリロイの手を引いて立たせた拍子にフードが脱げて、リロイの顔が晒される。

相変わらず、線が細くてカッコいい。深緑の髪の毛を無造作に一つに結んでいるところも変わらない。

記憶の中の可愛かったリロイの面影がちゃんとあるけど、カッコよく成長してる。

懸念していたマッチョにはなってなくて、細身だけどそこそこ硬かった。眼鏡が似合いそう。モノクル?だっけ、片眼鏡のアレ似合いそう。

うわ、やばい。超好み。超好き。激好き。


「やっぱ、すきぃぃ」

「え、ちょっと、ユーリー」


筋肉ムキムキじゃない体も、優しい顔も、柔らかい声も、大好き。

困ってへにょって下った眉も昔と変わってなくて好き。


「あぁ、もう。ほら、泣くなよ」


布を顔に当てて拭ってくれる。

優しい。好き。結婚して。

あ、身長高くなってる。目線がちょっと上になる。

カッコいい、好き。


「うぅ、リロイがカッコいい」

「そんな事を言うのはユーリーだけだよ」


みんな見る目ない。無くて良かった。リロイのかっこよさを知るのは私だけとか最高。

もう私の婿一択でよろしく。


「リロイじゃん。相変わらずひょろいわね」


訂正しろオルガ。ひょろくない、細いの。ムキムキじゃないだけで、ちゃんと筋肉あるし、これでいいの。


「ほら、ユーリー。早く帰るよ。喜びの再会は後でゆっくりしな」

「うぅ。やだぁ、離れたくないよぉ」

「引っ付いてていいから足動かせ」

「分かった。リロイ、後で会いに行ってもいい?」

「あー、明日でよければ」

「大丈夫。全然大丈夫。朝一でリロイの家に行く」

「いや、朝一はちょっと」

「落ち着け。迷惑にならない時間に行くんだよ」


痛い。オルガに脳天チョップされた。

心配してくれるリロイ、優しい。好き。

渋々、荷物を持って村へと帰る。道中、リロイの横は譲れないと伝えればガイズも他の人も苦笑しながら受け入れてくれた。


「リロイのお母さんから聞いてたけど、本当に学者になったんだね。やっぱりリロイは凄いね」

「見習いから昇進したばかりで、まだまだ知識が足りないよ」


謙遜するとこも好き。

この辺のマッチョは自己主張激しいからね。嫌いというより苦手。ぐいぐい来るなって言いたい。

あ〜、好き。大好き。好きしか出てこない。


「笑顔全開のユーリーとかレア」

「ユーリーの好みって変わってるのね」


うるさい。

前でこっち見ながら要らん事言うな。

好きな人が横にいたら笑顔になるのは当たり前じゃん。

乙女の恋心を勉強してこい。


「ねぇねぇ、コランド村に滞在するんでしょ?どのくらいいるの?」


できるなら、リロイがいる間に口説き落としたい。最低でも恋人になりたいし、最高でも恋人になりたい。

どうする?どうする?

とりあえず夜這い?忍び込んじゃう?

待って。勝負下着ってあったかな。

やだ、どうしよう。どうしよう〜、困っちゃう。


「ユーリー?聞いてる?」


しまった。意識が飛んでた。

心配そうな顔もたまらん。好き。


「ごめんね、ちょっとぼけっとしてたみたい」

「疲れたんじゃないか?大丈夫?」

「大丈夫っ!リロイに会えたから凄い元気になった。今なら飛竜もソロで狩れそうな気がするっ」

「危ないからソロは止めときなよ」


優しいっ!!

やばい。ときめきが止まらない。

えへへ。と顔がだらしなく緩む。


「それで、さっきの…うわっ」


話しかけてくれたら石を踏んだみたいで、咄嗟に転けそうになったリロイの手と腰を捕まえた。

ナイスキャッチ私。


「…あ、ありがと…」


照れるリロイが、カッコかわいい。

やだ、好き。

嫁に来い。違う、嫁にもらって。もしくは嫁に行く。


「いつでも、私が守ってあげるからね」


だから遠慮なく頼って。と笑うと、リロイは眉根を寄せてプイッと横を向いてしまった。

照れてる?ふふ、かーわーいい。


帰りの道すがら、話しかければぽつりぽつりと答えてくれる。

『知識の塔』の話は余りできないらしいけど、それはいいの。

塔よりもリロイにしか興味ないから。

リロイの近況から重大な事が分かった。

今現在、リロイに恋人がいない事。できる予定もない事。あ、これは私以外でね。

コランド村には十五日滞在する予定だと言う事。その滞在先は自宅だと言う事。

ただ、同僚のヘルバンっていう学者も一緒に泊まるらしい。

うそっ、ちょっと待って。


「私でさえお泊りしてないのに、他の男とまさかの同棲!?」

「ヘルバン。気にしないで、ユーリーはちょっと変わってるから」

「大丈夫。リロイに惚れてる時点で変わっていると思ってたよ」


あははと笑うヘルバンも、リロイとそんなに体型は変わらない。リロイよりも背が高くて、ちょっとだけゴツくて垂れ目だ。

リロイの魅力に気がつかない周りが変なの。でも、一生気がつかなくていいと思う。独り占め。ふふふふふ。


「ユーリーさんは美人だからモテるでしょ?なんでリロイがいいの?」


美人だって。

社交辞令をするっと言えるとか、おっとなー。

どうせならリロイに言われたい。


「なんでの意味が分かんない。リロイがカッコいいからに決まってるじゃやい。落ち着いた物腰、知性あふれる緑の目、優しさに満ちた声、細くて薄い体、難しい事を考えてる時の眉間の皺、作業している時の集中力、繊細な動きをする指先、もう全部が好き」

「………だってさ」

「ユーリー、ちょっと黙ってて」

「照れてるだけだから。続けて?」


え?まだ聞いてくれるの。大抵の人はここで「もういい」とか言うのに。

いい人だ。


「私は不器用なんだけど、リロイはすごいの。あっという間にいろんな物を作っちゃうし、器用なの。植物を見分けるのも上手でね、雪割草と春告草って似てるのに一目で見分けちゃうのよ。その時の真剣な眼差しとかカッコよくてさ、横顔見てるだけでも幸せ。後ね…」

「ユーリーっ!頼むからもう黙って!」

「あ、ごめん」


調子に乗って喋ってたら怒られちゃった。

リロイの顔がちょっと赤い。

本気で怒らせちゃったかな。自分の事を聞くのって恥ずかしいよね。反省。

でも、このあふれる好きな気持ちは抑えきれない。自重とか無理。ごめん。

ヘルバンは楽しそうに笑ってリロイの背中をバンバン叩いてる。

ちょっと。繊細なリロイになんて事するのよ。

ヘルバンの手をパシリと叩いて、リロイを引き寄せたらなぜかますます笑われた。

なんだか、失礼な人。


お読みくださりありがとうございます。


次話は本日18時です。

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