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2.苔豚を狩ってみよう


村の中央にある共同温泉はちゃんと男湯と女湯に分かれている。日本の温泉とよく似ていて、裸で入るし、入る前に体を洗うのが常識だ。

中は岩を敷き詰めた大きな池のような浴槽が一つあるだけ。前世のスーパー銭湯を知っているとちょっと物足りないが、温泉があるからお風呂に入る習慣があるし、地熱の関係か冬は比較的暖かく感じる。

体を洗って浴槽に浸かると「ふへぇ」と緊張感が抜けた間抜けな声が漏れた。これはもう性としか言いようがない。温泉サイコー。

温泉に入ると否応なしに自分の体が目に入る。引き締まって、ガチガチな筋肉だらけの体。

リロイは柔らかくて女の子らしい方が好きだったのかな。例えば織物上手のベスとか?料理上手のミル姉さんとか?でも、彼女たちの好みもガチムチなんだよね。リロイなんて相手にもされないはず。

大丈夫。

こんな事でほっとしちゃダメなんだけどね。

あーあ、思い出したらまた凹んじゃう。

せめて、振ってから出て行ってくれれば良かったのに。いつまでも諦めがつかない。

湯上がりの果実水を飲み干す。腰に手を当てるのはお約束。


「ユーリー。明日苔豚を狩りに行かない?」


二つ年上の女友達に声をかけられた。

苔豚は背中に苔が貼り付いてて、主に食用に狩られる。運が良ければ背中に苔茸ってキノコが生えてる時がある。これは薬になる貴重素材なの。

苔豚は強くも無いし、群れでの行動だけ気をつければいいので比較的楽。それに皮も内臓も使えるから割がいいんだよね。


「いいよー。二人で?」

「ピナにも声かけてる」

「あー、ピナかぁ」


ピナは同い年の女の子なんだけど、どうもレイガが好きみたいで、なぜか私を敵視してる感じがする。

多分、狩りの後にレイガが先に私に声をかけるからだと思うんだよね。その後にピナに声をかけて、結局二人で仲良くしてんのに、なぜか私が睨まれるという…。

意味わかんない。もー。

レイガは全然好みじゃないのに。リロイの方が百倍も好みなのに。

でもさ、それを聞かれても無いのにわざわざ言うのもためらうじゃん。「レイガが好きなの?」とか聞かれたらハッキリ否定するけど、聞いてこないんだもん。

いい機会だから、狩りの時に話しかけてみようかな。



苔豚は十頭前後の群れで暮らしている。

足は早く無いけど体重はあるので、不意打ちにさえ気をつければ大丈夫。

女三人でもいけると思ってたのに。


「どうだ?」


屈んで低木の隙間から周囲を窺っていると、側にきたレイガが私の横にやってくる。

なんでアンタがいるのよ。

集合場所に行ったら既にコイツがいた。暇だから手伝ってやるって何様よ。

報酬はいらないって申し出に、ピナはもちろんリーダーのジェシーまで二つ返事だった。ここで明確な理由もなく嫌だなんて言えないじゃん。

別にレイガが嫌いなわけじゃないし。ハンターとしては経験もあるし、信頼できるし、腕も確かだ。ピナが絡まなきゃなんの問題もないんだよね。


「六頭と子豚が二匹」

「意外と少ないな。一気に狩るか」


その判断は悪くない。レイガがいるから戦力過多じゃないかってぐらいあるし。


「ジェシーたちに伝えてくるわ」

「ああ。見張ってるよ」


後をお願いして、近場にいるジェシーたちを探したらやっぱりピナに睨まれた。

もう、本当になんなのよ。

いい加減イラっとするから、狩りが終わったら文句言ってやる。

苔豚狩りは戦力過多で、楽々と終わった。

持ち帰る分を考えて、子豚と親二匹は見逃す。運がいい事に苔茸が二つ生えていたので、これはレイガに渡す事にした。無報酬ってわけにはいかないしね。

一頭だけ解体して分けると、残りは一人一頭持つ。レイガは片手に抱えれるけど、私たちは無理なので背負っている。そこそこ重いけど、両手が空くからこうするのが無難。

レイガとジェシーが話してる隙に、ピナに近づく。


「ねぇ」

「なによ」


私も友好的とは言えない話し方だったたかもしれないけど、ピナの話し方にはカチンと来た。

ツンデレが許されるのは好意があるからで、ツンしかない奴に好感度は無いんだよ。


「あのさ、何が気に食わないのか知らないけど、毎回睨むのやめてくんない?」

「なんのことよ」

「は?無自覚なの?毎回毎回、目が合う度に睨まれたんじゃ気分悪いっての」


ピナは本当に無自覚だったのか、気まずそうに目を逸らした。

やる事やってんのに、嫉妬するってなんなの。恋愛下手か。てか、前世みたいな恋愛ってないわ。ほぼ体から始まってんじゃん。

お互いに苔豚を背負った姿でマジな恋バナとか笑いにしかなんないわ。


「あー、マジか。もー」


何をどう話したらいいものか。

腰に手を当てて盛大に息を吐く。

私だって恋愛経験多くないんだよ。てかリロイ一途だからね。


「私さ、レイガは好みじゃないんだよね。レイガだって、私が一度も誘いに乗らないから話しかけてくるだけなの」

「でも、私より先に声かけてるわ」


だーかーらー。

それは私が誘いに乗った事がないからだって。


「もうさぁ。レイガに言えば?好きだから私以外を誘わないでって。ついでにもう自分からプロポーズして、結婚しちゃえばいいんじゃない?」

「は!?ちょっ、な、なに、言うのよっ!そんな簡単に言わないでよっ」

「簡単じゃん。そんな好きなら捕まえろ。捕獲しろ。好きって伝えてよそ見させないぐらいメロメロにしなよ」

「えっ、ちょ、めろってなによぉ」


半泣きなピナの背後に豚の足が見えてるのに、赤面して狼狽えるピナが可愛く見える。

筋肉レディも女の子なんだよね。好きな気持ちは良く分かる。

帰り道に散々焚き付けたらその気になったみたいで、苔豚を背負ったままレイガを誘っていた。

レイガも満更でもなさそうに鼻の下を伸ばしていたから、そのうち上手くいくだろう。

ジェシーから「仲直りしたんだね」と言われたが、別に喧嘩はしてない。一方的に嫉妬されただけで。


あーあ、私にも春が来ないかな。

今度、村に学者が来たらリロイの事を聞いてみよう。

『知識の塔』って何箇所かあるみたいで、今のところリロイを知ってる学者には会えていない。

年に一回来るかどうかの学者なんで、来た数は片手で足りるぐらい。

元気かな。

もう五年も会ってない。どう成長したのかすごく気になる。

もし、逞しくなってたらどうしよう。マッチョなリロイを見たら私はどう思うんだろう。

想像できないから、分かんないなぁ。

マッチョでも、中身が5年前のリロイなら有りかもしれない。

うん。余裕で外見も好きになれそうな気がする。


お読みくださりありがとうございます。


次話は翌日6時です。

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