12.奇襲をかけてみよう
リロイの家に戻るとお義母さんにハグされた。
「もう大丈夫?どこも痛く無い?」
心配だと体のあちこちを確認する姿が嬉しくて、笑って大丈夫と繰り返した。
「あの子から擦り傷はあるけど大丈夫だって聞いていたけど、心配したわ」
優しいなぁ。
うちのお母さんなんて動けるなら動けって遠慮なく用事を言いつけてきたもんな。
変に気を遣われても気持ち悪いから、お母さんはお母さんのままでいいけどね。
「あの子は出かけてるわ。天候にも恵まれてるから予定より早く終わりそうなのですって」
「そう、なんだ…」
「ユーリーがいるのだから、ちょっとぐらい手を抜いて引き伸ばせばいいのに。融通が利かないところは父親似だわ」
「……。お義母さん、お願いがあります」
困り顔でため息を吐くお義母さんに、真剣な顔で告げる。
どうしたってお義母さんたちの協力が必要だ。
リロイの仕事が早く終わりそうなら、悠長な事なんてしてられない。のんびり新婚生活(仮)を楽しんでなんていられないのよ。
そう!名実ともに新婚生活をする為に!
私の提案を聞いたお義母さんは目を輝かせて両手を打ち合わせた。
「いいわ!全力で協力するわよ、ユーリー!」
「ありがとう!!」
そうして、二人で話し合って色々と準備をした。
お義母さんの協力は得られた。
今夜が勝負。
覚悟しなさい、リロイっ!!
「それで?どういう事なんだ?」
夜鳴き鳥の声が聞こえる程静かな夜。
私の下でリロイが額を押さえて呻いた。
リロイの胴を跨いで押さえているので、起き上がる事もできない状態。力づくで暴れられると無理だけど、リロイは紳士だから多分しない。
大人しく押さえつけられくれる優しさが好き。
「どういうも何も、夜這いに来たの」
正直に話せば、更に深いため息に変わった。
ムカつくのでため息製造器にキスしてやった。
今度はちゃんと歯が当たらないようにゆっくりとしてみた。
ふ、ふ、ふ、やったね。成功。
「ゆ、ユーリー、なな、な、なに、を」
「だから、夜這いだって言ってるじゃない」
持ち込んだカンテラに照らされた顔だけじゃなく、首まで真っ赤になっているリロイに笑いかけて、上衣を脱いだ。
前世の下着とは違うから寄せて上げるなんてできない胸当てみたいな下着だけど、若さもあってそれなりに大きさと弾力はあると思う。
腹筋あるからお腹周りはちょっと硬いけど、まぁ、おおむね女の子らしい体だと思うんだよね。
「ゆゆゆ、ユーリー、待て、ちょ……待て、落ち着け」
「リロイが落ち着こう?ほら、リロイも脱いで」
「ばかっ、止めろ、こら、待て!母さんもヘルバンもいるだろっ!」
脱がそうとした手を掴まれる。
リロイの反論ににんまりと笑う。
「お義母さんは、うちに泊まってもらってる。ヘルバンはガイズたちのところ」
「は!?いつの間に!?」
リロイがお風呂に行ってる間に♪
事前に打ち合わせした通り、お義母さんはうちに泊まる事になっていて、ヘルバンはお酒を持たせてガイズたちの元へ送り出した。
そんなワケで、今この家には私とリロイだけという夢の空間なのだ。
「さあ!観念して襲われてね」
「待て!ユーリー!」
「待たなーい。はーい、ばんざーい」
上衣を捲り上げて引き抜く。ベッド脇の机に置いたカンテラの明かりもあって、薄闇に色白な肉体が浮かび上がる。
意外と筋肉あって引き締まってて素敵。
うきゃー!いやー!カッコいい。
直視できない。いや指の隙間からチラ見しかできない。
鼻血吹きそう。
「恥ずかしがるぐらいなら退いてくれ」
「それは無理」
だって、こっちは決死の覚悟だもん。
後には引けないの。背水の陣ってやつ。こっちにそんな言葉無いけどさ。
ただ、この後どうしよう。
………えっと、ズボン脱がすの?
ハードル高くない?いや、もう突き進むしかないけどさ。
どうしよう。私が先に脱いだ方がいいかな。
え?どっち?
「リロイ……私、先に脱いだ方がいい?」
首を傾げて聞いてみたら、ぎゅうっと眉根を寄せて両手で顔を覆い隠してしまった。
え?どっち?
「ねぇねぇ。それとも先に脱がした方がいい?」
下にあるリロイの腹筋に触れる。
あ、弾力があって気持ちいい。
思わず腹筋辺りをなでなでしてしまった。
「………のっ………っで」
噛み締めた口から漏れ出た言葉はくぐもっていてよく聞こえなかった。
「リロイ?」
上体を倒して顔を近づけてみる。
逃さないように太腿に力を入れるのは忘れない。
両手が少し開いて真っ赤になっているリロイの顔が見れた。
ギリっと睨まれて、悲しくなるけど、引かないからね!気持ちを込めて睨み返したら、両脇から腕が伸びてぎゅっと抱きしめられた。
「んきゃっ」
す、素肌。リロイの裸の肌、生肌が頬にピタって!ピタってぇぇぇーー!!
いやー!至福。なに、これ。素敵。
「もう、本当に何なんだよ」
いや、それ、私のセリフ。
もう何?何のご褒美?
リロイの体温最高。肌の感触最高っ。
あ〜、もぉ、大好き。
リロイの裸を堪能していると、ドッドッドという心臓の音が聞こえてきた。
リロイの心臓も速くなってる。
その事実が嬉しくてふっと体の力が抜けた瞬間、ぐるりと視界が回った。
薄闇の中、見上げた先にリロイのカッコいい顔がある。
すごい真面目な顔で私を見下ろしている。
その表情も好きぃ。
てか、今、私押し倒されてるー!
黙って見下ろされているだけで、心臓が跳ね上がる。じわりと顔に熱が集まってくる。
お願いだから、何かしゃべって。
視線が反らせない。話しかけたいけれど、口が上手く動かない。
どうしよう。
見られているだけなのに、なんだか恥ずかしい。
「ユーリー」
根負けして視線を外しそうになった時、リロイが私の名前を呼んだ。
緊張なのか少し掠れた声がセクシー。やばい、カッコ良すぎて泣きそう。
「男の部屋に来る意味が分かってるのか?」
「そっちこそ、夜這いに来られた意味分かってる?」
「その場の気分でしていい事じゃないだろ」
「違いますぅ!ちゃんと考えて、考えて夜這いに来てますぅー」
むしろ私にしてはかなり悩んだ方だよ。
振られるのも覚悟の上だからね。
「だって!もう少ししたらリロイは塔に帰っちゃうじゃない。そしたらもう滅多に会えないじゃないっ。思い出作ったっていいじゃんっ!」
「思い出って…」
「それで子どもが出来たら私は嬉しいもん。リロイに父親になれなんて無理言わないよ」
子どもを盾に迫ったりしないよ。
安心して欲しくて言ったのに、リロイは顔を歪めた。
「勝手な事を言うな」
絞り出すように言われた言葉に泣きそうになる。
勝手な事も、我儘な事も分かってる。
「だって、じゃあ、どうしたらいいの。リロイが好きだけどど、リロイは違うじゃない。報われないなら勝手でもいいから、思い出もらったっていいじゃない」
リロイがどうしても無理なら諦める。私の顔がダメなら目隠しとか方法は色々あると思うんだよね。
でも、体がダメならどうしたらいいんだろう。
「もしかして、リロイって女の子がダメ、とか?」
思いついた内容に恐る恐る聞いてみると、眉間の皺がより深くなり嫌そうに顔を顰めた。
「なんで、そうなるんだ」
「え?違った?違ったなら良かった」
「分かった。覚えてないんだな。そうか。分かった」
「え?何が?よく分かんな……」
話の途中で視界が暗くなった。そして、唇に柔らかい感触が押しつけられた。
そして慣れてきた目に映るリロイのドアップ。
「ふわっ」
驚きで開いたせいで、またしても歯が当たった。
これ、地味に痛い。
リロイも痛かったみたいで顔を離して口元を片手で覆っている。
それどころじゃない。リロイからキスされた。
なんで?
リロイからキスされたっ。
感動と混乱の中、手を引かれて起き上がる。
ベッドの上に座り、向かい合わせで見つめ合っていると、両手をぎゅと握られた。
真剣な眼差しに胸が高鳴る。ドキドキが止まらない。
「何度も言わないから、今度はちゃんと覚えてろよ」
大好きなリロイの顔がカンテラの灯りに照らされる。
周りの闇が濃くてリロイだけが浮かび上がっている。世界にリロイと私しかいないみたい。
「好きだ。ユーリーが大好きだ」
夢と同じ告白に頭の中気真っ白になった。
「ふわわわわ…」
「もう少し自分に自信が持てるようになったら言おうと思ったけれど、悠長にしてられなくなったから言うよ」
ど、どうしよう。心臓が止まりそう。
顔が、頭が、熱い。血が沸騰してるみたい。
やばい、私、死んじゃいそう。
「ユーリー。僕のお嫁さんになってください」
…………………。
「ユーリーっ、息、息して」
………はっ。
リロイの声で息を吐き出したら咳き込んでしまい、上半身を折って咳をした。
名前を呼びながら背中を摩ってくれるリロイが好きすぎる。
「はっ、かはっ。はふっ。ふ、ふふ、ふふふ」
「ユーリー?」
「あはは、う、うれし……。うれしい」
嬉しすぎて涙腺が決壊した。
涙がぼろぼろどころがだばだばと流れ出す。
「ゔれじぃ〜わだじぼずぎぃ〜」
「うん。知ってる。ずっとありがとう、ユーリー」
リロイは嬉しそうに笑うと、触れるだけのキスをしてきた。
驚いて一瞬だけ涙が止まったが、嬉しくて再び涙腺が壊れた。
「ははっ。すごい顔」
拭くものがなくて、さっき脱がしたリロイの服を押し当てられた。リロイの匂いがするそれに顔をぐりぐりと押しつける。
暖かい腕に抱きしめられて、リロイの匂いが濃くなった。
「好きだよ、ユーリー。自分が情けなくて言えなかったけど、子供の時からずっと好きだったんだ」
泣き止もうとしているのに、リロイがそんな事を言うから、ますます涙が止まらなくなった。
お読みくださりありがとうございます。
次話は本日18時で完結となります。




