11.覚悟を決めてみよう
本日は15時にも更新しております。ご注意ください。
ふ、ふふふ。んふふふふ。
今の私は幸せ数値が爆上がり中なのです。
リロイに「大好き」って言われた夢を見た。
なんて幸せ。
「大好き」だって。「好き」じゃないの「大好き」なのよ。
リロイのあの素敵ボイスで「大好き」だよ!?
うきゃー!いやー!私も大好きぃ!
きゃーーー!ヤバい、照れるっ!
なんて夢見てんの。願望強すぎか。
「ジタバタしてないで水汲んできてちょうだい」
ちぇー。
もう少し幸せに浸っていたかったのに。
お母さんに渡された桶を二つ持って水汲み場に行く。
村の東に湧水があって、石でニ段の水溜りを作っている。上の溜まりは飲み水、下の溜まりは食べ物を洗う為のもので、その下は洗濯場になっている。洗濯は川でする事もあるけど、ちょっと離れてるのでここが一番人が多い。
飲み水用の桶に水を汲んで、自分の桶に移し替えて行く。満タンにすると重いしこぼすので七分くらい。
「溺れたわりに元気そうじゃないか」
肩を叩かれて振り返ればオルガが立っていた。
「別に、溺れたってわけじゃないもん」
「現に溺れてんだろ?」
「ぅ〜、そぅ、だけどぉ」
なんか納得いかない。
だって不可抗力だし。叩きつけられたら、ああなるでしょ。
泳げないけど、浮くぐらいはできるもん。
「それだけ元気そうなら安心したよ」
「オルガも来てくれたんでしょ。ありがとう」
「あんた達が頑張ったから、楽な仕事だったよ」
私が溺れてる間に応援が間に合い、ヤマアラシは無事に討伐された。その応援に来てくれたうちの一人がオルガだった。
罠のおかげもあるけど、討伐は早く済んだらしい。私が溺れたぐらいで、皆軽傷で済んだと聞いてほっとした。
可哀想だが、ヤマアラシの子どもも一緒に解体したらしい。消えた命は無駄なく使わないと申し訳ない。人間の勝手な言い分だけど、私たちは自分が生きる分を狩って生きてる。
過剰なく、不足なく。
持ちすぎるのは良くないのだと教わる。
「驚いたのはリロイだよ。私たちに遅れずに付いてきてさ、あんたをおぶって帰ったんだからね。少し見直したよ」
「遅いわよ。リロイは昔からカッコいいんだからっ」
「あ〜、はいはい」
そうなのだ。私はリロイにおんぶされて戻ってきたらしい。
もう一度言おう。
リロイにおんぶされたらしい。
だから、あんな幸せな夢を見たのか。
でも、リロイの背中にべったりと貼り付いた覚えがないなんて悔しい。私なら根性で思い出せよ。気絶してる場合じゃないだろ。もったいない。
また狩りに誘うよ。と言われ、ありがとうと返してオルガとは別れた。
重い水桶を持って帰る先は自分の家。
そう。自分の家。
ヤマアラシに投げられて深い水溜りで溺れた私は自分の家に運ばれてしまった。何かあったら大変だから自宅療養ってやつよね。
満身創痍だったせいか、丸一日眠っていたらしい。
目が覚めて、お腹いっぱい食べたら復活した。
自分で言うのもなんだけど、私、丈夫すぎる。
擦り傷とか浅い切り傷だけだったせいもあるけど、ご飯食べたら動き回るぐらい元気になるって、自分でもどうよ?って思うわ。
目が覚めたからにはリロイのうちに帰りたいけど、今日一日は自宅待機なのですよ。
祈祷師のおじさんからもらった薬を全身に塗って、夜に精霊へ感謝の祈りを捧げなきゃいけないのだ。
ファンタジーじゃないのよ、アフリカとか南米とかの信仰みたいな感じのやつね。
竜種とかモンスターいるのに、スキルとか魔法とか無いんだよね。
異世界転生ってよりアフリカ転移って感じ?いや、山だからカナダ?ノルウェー?スイス?
どれも違う気がするから、やっぱり異世界転生かな。まぁ、今更どうでもいいや。
とりあえず、今日まではうち。それで、明日になったらリロイのうちに押しかける予定。
1日潰しちゃったからね。リロイの仕事が終わるまで後六日。マジか!日にちないよー。もう、後悔したくないから、夜這いを決行しちゃおうかな。
もし嫁がダメでも、思い出ぐらい欲しいじゃない?
まぁ、思い出で満足できるなんて思わないんだけどね。
そんな決意を、夕食を食べながらお母さんに話した。
もし、子どもができたら産んで育てるつもりだけど、お母さんの協力は必要だからね。
「てなワケで、リロイを襲おうと思います」
水代わりの果実酒をぐびりと飲み干したお母さんは、私の目をジッと見つめた。
決意を揺るがすような強い眼差しに負けじと見つめ返す。本気だと分かってもらう為に。
しばらく互いの目を逸らす事なく見つめた後、お母さんがふぅと息を吐いた。
「覚悟はあるようね」
「でなきゃ宣言なんてしないわよ」
「思ってるほど簡単じゃないわよ」
「好きな人の子どもを諦めるより難しくないわ」
「経験者だから言うけど、夫婦でも大変なのよ」
「だから、経験者を巻き込むんじゃない。その時は頼りにしてるわよ、お母さん」
にっこりと笑うと、お母さんは降参とばかりに両手を上げた。
「可愛い孫を楽しみにしてるわ」
「任せてよ。私に似ても、リロイに似ても可愛い子になるのは間違いないわ」
やるからには最善を。
私も、多分リロイも初めてだけど、どうにかなるだろう。
脱いで任せればいいとか言うし。
うん。たぶん、大丈夫。
穴だらけの計画だが、気力と根性でどうにかしてやろうと心に決めた。
お読みくださりありがとうございます。
次話は翌日6時です。




