漫才 【スピーチ】
ツ→ツッコミ
ボ→ボケ
ツ&ボ「「どうもーよろしくお願いしまーす」
ツ「うーん……まいったなー」
ボ「おい、これから楽しく漫才やろうと思ってるのにいきなりどうした?」
ツ「ちょっと大変なことを頼まれてさ」
ボ「大変なこと?」
ツ「スピーチ」
ボ「スピーチって、結婚式の?」
ツ「そうなんだよ。あのさ覚えてる? 中学時代の同級生だった田中俊樹」
ボ「おー覚えてる覚えてる。よく3人で一緒にサッカーして遊んだよな」
ツ「そうそう、遊んだ遊んだ。あと3年の時に同じクラスだった山下美紀も覚えてる?」
ボ「もちろん覚えてる。俺とアイツは家が隣同士だったから幼馴染だよ。で、その二人がどうした?」
ツ「実は来週、二人の結婚式があるんだけどさ」
ボ「へー……結婚式があるんだ」
ツ「それで急遽、スピーチをお願いされたんだけど……俺ってそういうの苦手でさ。何言っていいかわかんなくて。困ってるわけ」
ボ「へー……結婚式のスピーチ……ねー……へー」
ツ「急に元気ないけど、どうした?」
ボ「俺……呼ばれてない」
ツ「え?」
ボ「親友と幼馴染の結婚式に呼ばれてない……俺」
ツ「え……あー招待状が届くのが遅れてるとか」
ボ「来週結婚式なのに? 同じ市内のお前には届いてるのに」
ツ「あ、思い出した。あんまり……ホントは仲良くなかったよな。二人とお前」
ボ「仲いいわ。なんなら俺が二人のキューピットだよ。キューピット呼ばない結婚式ってあるか?」
ツ「逆に呼ばない的な?」
ボ「逆が分からんわ。まぁいいよ。呼ばれてないものはしょうがない。そのかわり呼ばれてない分、スピーチに思いを込めてお前に託すよ」
ツ「さすがキューピット。天使のような広い心を持ってるな。じゃあスピーチのお手本をお願いします」
ボ「まかせなさい。まずは掴みからだ。司会から紹介されたとして、えー先程ご紹介に預かりました新郎の俊樹君と新婦の美紀さんの、えー中学時代の同級生のツッコミです。今日は急に俊樹に頼まれてスピーチをすることになって……慣れないスピーチで少し緊張しております」
ツ「お、いい感じだな。それっぽい」
ボ「まずは俊樹君、美紀さん、そして両家のご家族やご親族の皆さま、本日は誠にめでたくもないクソみたいな結婚式で反吐が出ます」
ツ「ちょっちょっと待った」
ボ「え?」
ツ「急、急に怖い。お前の恨みが前面に出て怖いから」
ボ「そうか? 両家の関係がメチャクチャになったらいいなと思って」
ツ「押さえて、俺がスピーチする台本だから。恨みは0%、祝福100%でお願いしますよ」
ボ「あ、祝福100%の方ね。それ先に言ってよ」
ツ「先にって、当たり前だろ」
ボ「冗談だよ。怒るなよ」
ツ「頼むよほんとに。困ってるんだから俺は」
ボ「まかせなさい。えー二人はこれから夫婦として新たな人生を歩んでいきます。夫婦の歩みには3つの坂があるといいます」
ツ「お、その3つのあるあるいいね。定番っぽいよ」
ボ「1つは上り坂」
ツ「うんうん」
ボ「2つ目は下り坂」
ツ「うんうん、そして」
ボ「3つ目は1番大切な坂恨み。これはキューピットである大恩人を裏切った2人に……」
ツ「はい、ダメー」
ボ「いや、まだ途中だから」
ツ「途中でも駄目。聞いてた? 祝福100%。それ以外受付けません。ドューユーアンダスタンド?」
ボ「分ったよ。じゃあ招待されずに裏切られた今の話じゃなくて、過去の仲良かった話にするよ。それならいいだろ?」
ツ「お、それはいいかも」
ボ「えー思い返せば、二人と出会ったのは中学時代のことでした」
ツ「入りはいいぞ。頑張れ」
ボ「新郎の俊樹君はサッカー部のエースで学年一位の秀才、新婦の美紀さんは生徒会長でミスコンにも選ばれる才色兼備と、当時からお似合いの二人でした」
ツ「思い出と一緒に二人の良い所までさりげなく紹介する。スピーチの上級テクニックだ」
ボ「そんな二人が付き合い始めたのは、中学3年生の修学旅行の時でした」
ツ「よしよし、ドリブルはOK。あとは上手くゴールのオチまで持っていくだけだ」
ボ「二人はこっそり宿を抜け出して、公園で会っていました。本当は駄目ですよ」
ツ「今だから話せる笑い話、あとはシュートだ」
ボ「当時の俊樹君は次から次へと彼女を乗り換え、ベッドの上でも得点王でした」
ツ「え?いや、ちょっと……ゴール前でボールが勝手に逆走してるよ」
ボ「対する美紀さんはモテない男子に優しくして、お金を貢がせる魔性の女、彼女のせいで親の財布から金を盗んだ男子は少なくありません」
ツ「ダメダメ。誰か止めてくれ。オウンゴールになっちゃう」
ボ「こんな二人が結婚するなんて……」
ツ「なんて……?」
ボ「本当に、本当に……お幸せに」
ツ「いや、最後はちゃんと祝うんかい。もうええわ」
ボ&ツ「「ありがとうございました」」