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部屋が散らかり放題女子高生。人生逆転を夢見る妄想女子に来た招待状とは?

「優華ー!早くしないと、置いてくよーーー!!」


陽子が、わたしを捲し立てる。いま、ちょうど良いところなのに。



「はーっ・・・。もう、陽子はいっつも急かすんだから・・・。せっかくの読書タイムが台無し。」


高校生活の3年間が、もうすぐ終わる。周りはみんな大学受験。でも、わたしは就職活動かな。はやく社会に出て、いち早く結婚をしたい。そして、将来は働かなくていい専業主婦としてのんびり暮らすのだ。それが、私のシンプルな願い。就職活動をいち早く完了させて社会に出たい理由は、結婚相手を探すことが目的にある。



「優華、さっき何の本を読んでいたの?」


卒業後は芸大に行くことが決まっている陽子とは、幼馴染だ。狙っていた訳ではないけど、小学校からずっと学校が同じで、今でも当時から友達が続いているのは陽子だけ。でも、高校を卒業したら離れ離れになる。



「ちょっとね。昭和初期が舞台になっている小説を読んでいたの。」


わたしは昭和の世界観が大好きだ。歴史も好きだし、恋愛ものでも、白馬の王子様が迎えにきてくれるという発想。令和の現代にはありえない発想だけど、こういうの結構好き。憧れるんだよね。まあ、現代風で言うなら、テスラの大谷様ってとこかな。わたしをモデルXで迎えに来てくれないかなぁ・・・。



「あっ、もう、また妄想入ってるでしょ?優華はいつもマイペースで、自分の世界に浸りすぎなんだよね。ほんとあんたの頭、いつもとっ散らかってるでしょ!」


「とっ散らかってるって、失礼な!想像力が豊かなの、想像力が豊か。陽子、あんた言い方には、ほんと気をつけてよね!」



いつも、チクリと嫌味のような言葉を突き刺してくる陽子だが、彼女の才能は認めている。小さい頃から絵が上手で、将来有望な自慢の友人。そんな陽子と今日は二人で、ブックカフェに出かけていた。そしてこれから、期間限定で百貨店で開催されている、世界の美術展を観にいくことになっていた。



「うわー、このお城の絵画、いいなぁー。」


美しい自然に囲まれながら、川のせせらぎと鳥の囀りが聞こえてきそうな臨場感があるお城の絵画。こんなお城だったら、白馬の王子様がいるかもしれない。


美術展では、単独行動になっていた。陽子も夢中で作品に魅入っている。大規模な美術展ではなかったが、気がつけばあっという間に1時間が経っていた。



「陽子、まだここにいる?わたし、そろそろ帰らなくちゃ。」


「うん、まだわたしは観たいから、優華は先に帰ってて。」



陽子と百貨店で別れたあと、わたしは真っ直ぐに自宅に帰った。就職活動に向けてもやることは山積み。なんせこの1年半は、コロナ騒動で中々外に出ることもできなかったし、授業もリモートになったりと、散々な学生ライフだった。倒産する企業も増えているし、いったいどこに就職すればいいのやら・・・。まあ、わたしは長く勤めることよりも、結婚相手を見つけるために働きたいだけなんだけどね。



「ただいまー。」


自宅につくと、お母さんが夕飯の支度をしている。


「おかえりー。優華?ちょっと、こっちに来なさい!」


声のトーンからして、良い知らせではないだろう。帰ってきて早々、また何か叱られるのだろうか。お母さんのキンキン尖った声には、毎度心が不快になる。



「優華、就職活動はどうなの?なんだか苦戦してるみたいだけど。あんたはいっつも部屋が汚くてだらしないじゃない!そんなんじゃ、就職先も見つからないし、結婚もできないよ!今すぐに自分の部屋を片づけてきなさい!!」


「もう、帰ってきて早々、いっつもうるさいなーーー!!!」



わたしは片づけが大の苦手だ。むしろ、めんどくさいし、死ぬわけじゃないし、やらなくていいとさえ思っている。綺麗にしたら良いのは理屈ではわかるけど、やる気は一切起きない。いつもヒステリックに母親に言わることにも、イイ加減うんざりしていた。



「もう、せっかく美術展で良い気分になったのに、お母さんのせいで全部台無しだわ。なんかこのまま家にいたらもっとイライラするし、ちょっと気分転換でもしてこよっと。」


部屋に荷物を置いたわたしは、そそくさと家を出た。この家に私の居場所はない。だから、早く結婚をして家を出たいと思っていた。



どこへいくとも決めずに外に出てきたが、少し歩くと近所の公園が目に入った。ここでちょっとゆっくりして、美術展で味わった感動を思い出してみよう。


わたしは公園のベンチに腰をかけて、ふと空を見上げた。すると・・・



「ニャアァァ・・・・・。」


わずかに、力なく響いてくる猫の声がする。


「えっ、何?いま、確かにネコの声がしたよね・・・。」



わたしはベンチから立ち上がり、辺りを見渡す。すると、植木の合間に小さな段ボール箱が置いてあることに気づいた。歩み寄って覗いてみると・・・



「ニャアァァ・・・・・。」


そこには、まだ生まれて間もないだろう子猫がいた。


「カワイイ・・・。でも、誰がこんなこと・・・。このままじゃ、死んじゃうよ・・・。」



わたしは猫が大好き。でも、綺麗好きのお母さんは動物を飼うこと自体を毛嫌いしている。とくに、猫は毛が抜けて掃除が大変だからと、昔から絶対に買ってはいけないと釘を刺され続けていた。



「このまま誰も見つけなかったら、可愛そうだよ・・・。よし、わたしが連れて帰ってあげよう!!」


意を決したわたしは、猫を家に連れて帰ることにした。お母さんに何を言われても、絶対にわたしが面倒を見るんだ。就職して、自分で稼いで、お世話もしっかりする。これを機会に就職したら、家を離れて一人暮らしをしてもいいかもしれない。



すぐに妄想が始まるわたしは、さっそく子猫ちゃんと過ごす未来に想いを馳せていた。想像すればするほど、楽しい未来しかない。そうこうしていると、ルンルン気分であっという間に家に着いたが、そこからは中々家の扉を開けることができなかった。


「どうしよう・・・。家の前まで勢いで来たけど、、、。急に不安になってきた・・・。絶対、お母さん怒るよね。なんて言われるだろう・・・。」



そうやって家の前で立ち尽くすと、さっきまで妄想していた幸せな未来が嘘のように消失している。もう、不安と恐れしかない。頭の中に浮かんでいるのは、鬼の形相をしたお母さんの顔だ。すると・・・










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