歳時記の章
『梅ジャムの頃』
母がキッチンで梅ジャムを煮ている。
爽やかな香りの中、紅茶のポットにお湯を注ぎ、砂時計をひっくり返す。
窓を開ければ、初夏の風と一緒に楽器の音が入ってくる。
バイオリンだろうか、いつも練習しているのにちっとも上手くならないあの曲とも、今日でお別れ。
明日、私は、遠くに嫁ぐ。
(お題:楽器、砂、梅)
『もうすぐ七夕』
ミントは水辺を好む。
だからアルタイルは、天の川のほとりにペパーミントを植えた。
仔牛を売って貯めたお金を銀河銀行から下ろして、とびきり上等のデネブ産ラム酒も買った。
それからライムと、きび砂糖も少し。
一年に一度だけ、もうすぐ会える愛しい君に、おいしいモヒートを飲ませてあげる。
(お題:ペパーミント、銀行、アルタイル)
『うさぎ印の新酒』
酒蔵を継いだ幼馴染から新酒が届いた。
ラベルに印刷されたうさぎの絵を見て、にやりと笑う。
勉強は苦手だがクラス一足が早かった旧友・宇佐美の渾名は”うさぎ”。
添えられた手紙が相変わらず誤字だらけなのも懐かしく、しみじみと読み返しながら月夜に一献傾ければ、酔眼に、月のうさぎも笑って見えた。
(お題:新酒、誤字、うさぎ)