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夏の章
『百日紅の夢』
夢の中、大きな袋を持って空に浮かんで、百日紅の花を集めていた。
ピンクに白、ふんわりオレンジ、薄紫。
空高く昇っていって袋の中身をぶちまければ、夕焼け雲の出来上がり。
気がつくと隣で、小さいころ百日紅の花でおままごとした幼なじみが笑ってる。
あのこは7つで死んだのに。
(お題:百日紅、夢、袋)
『青唐辛子入りパスタの秘密』
並木道の奥に花と緑に囲まれた家があって、外国帰りの老婦人が一人で住んでいた。
子どもたちの間で魔女と噂のその人と友達になったのは、あの夏、十歳だった私の、大切な秘密。
菜園のトマトと青唐辛子をたっぷり入れて作ってくれた特製パスタの味が忘れられず、今では私の得意料理。
(お題:青唐辛子、並木、秘密)
『夏の思い出』
水芭蕉咲く高原を、白いブラウスの乙女たちの列が笑いさざめきながら通る。
清らかな歌声が高い空に吸い込まれ、やがて乙女たちの姿も、透き通る風に紛れて、ふと、空に消える。
忘れ得ぬ夏の日をこうして幾度でも繰り返す彼女たちの誰ひとり、死にたがりなどしていなかったのに。
(お題:水芭蕉、ブラウス、死にたがり)