⑪303号室
[入室00分]
僕は孤独な青年だから、今も一人で防音室にいて、孤独を誇るように、孤独を楽しむように、孤独と共存するように、部屋には何も入れず、特にこれといった目立つ行動をするわけでもなく、ただただポツンといる。
[入室10分]
特になにもしないで、時は過ぎていっていて、普段は存在感が全くないけれど、モノがない空間にいる僕だから、少しどころか、かなりの存在感を漂わせられている気がして、ほんの少しだけ、嬉しく感じた。
[入室20分]
防音は役に立っていないようで、立っていて、雑音が入ってきてしまったり、こっちの音が漏れているんじゃないか、と思うだけで、平常心ではいられなくなるから、ここは孤独者にとって、最適な空間と言える。
[入室30分]
無音に馴れること、それすなわち勝利で、今のところ、なんのイライラもなく過ごせていて、今回の通りいけば、一週間後に、ここの防音室で行われる、無音たたずみ大会での優勝も、夢ではないところまで来ている、と感じている。
[入室40分]
孤独だったからこそ出来ることで、無音に耐えているという感覚はなく、ただいつも通りここにいる、といった感じで、一週間後の大会の、他の出場者の詳細は分からないが、僕と似たような境遇の人が、ワンサカいるのだろう。
[入室50分]
無音たたずみ大会は、こんなにも無音なのだろうか、と疑問を抱き始めていて、本番はカメラが仕掛けられていたり、観客が近くの部屋にいたりと、少し環境が異なるので、振動なども気になるところだ。
[入室60分]
無音たたずみ大会の、予行練習は終わったのだが、最初から最後まで、全然平常でいられて、本番は勝てそうな気がしているが、こんなにも無音で喋らずに過ごしてしまったため、二時間後にある、とある場所での、とあるプレゼンで、上手く喋れるかが不安だ。




