外れスキル〈トレード〉が相手の体を乗っ取る〈入れ替わり〉に進化しました~勇者と入れ替わって無双しちゃいます。今更助けてくれと言われてももう遅い。ぶっ殺します~
「もう金は十分集まったから、お前はもう用なしだぜ! 出ていけ!」
村人との商売を終え、店を畳んでいる時にギルド『アラント』のリーダーであるギンが俺にそう告げた。疲れていたこともあって、一瞬訊き間違えたのかと思い、
「ごめん、もう一度いってくれないかな?」
「だからお前はもう必要ないって言ってんだよ!」
コイツ……何言ってんだ? ギンの方こそ疲れで頭のネジがぶっ飛んでんじゃねえの?
なんて思ったけれど、そうではないらしかった。
「お前のな、えっとなんだっけか? そうそう! 戦闘には一切使えない外れスキル『トレード』のおかげで資金はたんまり集まったからよぉー! いやーコレに関しては感謝してるわー!」
俺のスキル『トレード』とは、自分が売りたい品をできる限り高く相手に買わせるよう、言葉巧みに誘導させることができるものだ。
だが、冒険者志望の人間にとっては外れの中の外れであり、かつその能力の内容から知識のある人間からは酷く嫌われている。
ギンはほくそ笑みながら、金が入った袋に頬釣りをしている。
おいおい、どういうことだよ。
「そのお金……俺たちがギルドの運営資金にするために稼いだやつじゃないのか?」
近年、強力なモンスターが増殖傾向にあり、俺たちのような弱小ギルドはこうやって資金集めをして防具を揃えていく。
モンスターから素材を集めるのは上級ギルドの仕事である。
「いやー、シンリくん。やっぱ私たち、居酒屋でも営もうかなって思ってさー。だからこのお金、ありがたく使わせてもらうねー」
ギンの嫁であり、ギルド仲間のレインがにんまりと笑う。
「話が違うぞ! 俺はお前たちと冒険者として活躍したいから、こうやって頑張って資金を集めたんだぞ!?」
これじゃあまるで、俺が上手いこと騙されたみたいじゃないか。いや……彼らが言っているのを聞く限り間違ってはいないのか。
俺は騙されてしまったのだろう。
「はぁ? 外れスキル持ちのお前を雇ってやったんだぞ? 感謝の一つくらいしろよなぁ?」
ギンはふざけているのだろうか。もしくは冗談のつもりで言っているのだろうか。そうであってほしい。
けれど、彼は今の今までそんな態度を見せなかったことから本気なのだろう。
「感謝って! お前らは俺のことを騙したんだぞ!」
そんな言葉を聞いたギンは、顔色一つ変えずこう言った。
「騙される方が悪いんだぜ! 外れスキル持ちよぉ!」
言いながら、彼は俺の腹を蹴り飛ばしてきた。
「ぐっ!?」
あまりにも急な出来事に、受け身すら取れず、建物の外壁に背中を強くぶつけてしまう。
うぐ……肋が何本か折れたかも知れねぇ……。
「レイン! お前もコイツに何かやっちまいな!」
レインは相槌を打ち、俺の方へと近づいてくる。
……やめてくれ……。
俺はお前たちのために必死で頑張ってきたのに、そんな扱い……酷いじゃないか。
「もちろん。それじゃ、最高の平手打ちでもしてあげましょうかね!」
手袋をはめて、左手で俺の髪をぐっと引っ張る。
「うぐっ!」
ただでさえ肋が折れているというのに、無理やり動かされたものだから激痛が走る。
まだ顔面を蹴られた方がマシなのではないかと思ってしまうほどの痛みだった。
「お願いだ……やめてくれ! なあレイン! お前は俺に何もしないよな! あいつを説得してくれ! そしてもう一度ギルド活動しよう! な!」
「うっさいわね」
次の瞬間――顔面めがけて平手が飛んできた。
鼻に当たったからか血の匂いがじんわりとする。
「どうして……どうして……」
何度もつぶやいたが、彼らは聞く耳も持たなかった。
ただひたすらに、笑いながら俺のことを蹴ったり殴ったりした。
「おい。最後に俺たちに言いたいことはないか?」
ギンがナイフを構えながら言う。
くっそ……このままでは刺されてしまう……!
でも……立ち上がれねぇ!
次第に息をするのが苦しくなってきた。意識が遠のいていくのが分かる。痛みはだんだんと薄れてきた。
「くっそ……! お前ら……絶対にぶっ殺してやるからな……!」
最後に俺はそう言ってやった。
◆
「おい、君! 大丈夫か!」
「う……あ、はい……」
誰かに話しかけられたので、咄嗟に返事をした。
あれ、俺、生きてるのか!
目を開き、きょろきょろと辺りを見渡していると、
「ああ、ここは私のギルドハウスだ。君が路地で倒れていたから連れてきたんだよ」
優しそうな男の人だった。しかし、身にまとっている装備は恐恐しいものだ。
あれ……この人どこかで……。
「あ! あなたは!」
国を襲撃してきた魔王軍から民を守った、正真正銘の勇者であった。
えーと名前は……。
「アルスだよ。それよりも君、どうしてあんなところで倒れていたんだい?」
「ちょっと、仲間に裏切られちゃいまして……」
「そうか……それは災難だったね」
ああ、何て優しい方なんだろう。それに彼は強いし国民からも好かれている。
恨めしいなぁ。
――あれ?
ポケットの中に閉まっていたスキルカードが、唐突に光を放ち始めた。
……何かスキルをゲットしたってのか……?
◆
「あれ、君のスキルカードが光っているようだね。確認してみたらどうかな?」
「そうさせていただきます」
俺はおもむろにスキルカードを取り出し、内容を確認する。
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〈トレード〉が〈入れ替わり〉に進化しました
能力詳細 指定した人物と体を入れ替わることができる
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入れ替わる……だと?
つまりなんだ。
――正面にいる彼と入れ替わることだってできるってことだよな?
「どうしたんだい? 何かあったの?」
「いえいえ! 何故かスキルのレベルが上がったらしくて」
誤魔化せたかどうかは分からないが、とりあえず適当に言っておこう。
ふむ。
それにしても興味深いな。
もしこの能力が説明の通りだとするならば、俺は彼と入れ替われるのだろう。ならやるしかない。こんな生活は嫌だからな。
「すみません。そしてありがとうございます! 〈入れ替わり〉」
瞬間、俺の視界は真っ白になった。室内だと言うのに、風のようなものが体を包み込む。
重いまぶたをどうにか開くと――
「お、おおおおお!」
この装備は! この体は!
あの勇者のものだ!
「あれ、私は……」
俺、いや違うな。元勇者は自分の体を見て心底動揺しているようだ。
そらそうだろう。なんたって、気がつくと下等な平民に成り下がっていたのだからな。
「それじゃあな」
「え? ちょっと待ってくれ!」
元勇者の制止を振り払い、俺は件の場所へと向かう。
あいつら……絶対にぶっ殺してやる。
◆
ギルドハウス前にやってきた。ここは、俺が昨日まで所属していたギルドの拠点だ。
きっと、彼らはまだここにいる。
「すみませーん。本部の者ですがー」
「はいよ。今行く」
ギンの声だ。やはりここにいたか。
扉に耳を近づけ、足音を確認する。
――たん、たん、たん。
扉前まで近づいてきた。
よし。今か。
俺は瞬時に剣を引き抜き――扉に突き刺した。
「うぐあ………!」
木の繊維から血が滲みてくる。剣を引き抜き、扉を蹴り飛ばした
「よお。レイン」
厨房でちょうど朝食を作っていたらしい。万能包丁を持ったまま呆けているレインの姿が見える。
俺はくたばっているギンを踏みにじり、レインの方へゆっくりと歩んでいく。
「やめ、やめて……謝るから! ごめんなさい! 許してください」
泣きじゃくりながら、必死で懇願してくる。
だが、それがどうした。俺には関係のないことだ。
そんなことをしたって、俺はお前を殺す。復讐する。
「やめ、やめ――」
レインの腹めがけて、剣を突き刺した。肉を切り裂く音が室内に響く。
あああ、最高だ。最高な気分だ。
「ごめ……」
「うるせぇ」
蹴り飛ばして無理やり引き抜いた。
ふぅ……。
「復讐完了だな」
さて、このあとはどうするか。スキルカードを確認する限り、まだ〈入れ替わり〉は使えるらしいしな。
いっそのこと、魔王とでも入れ替わってやろうか。
なんて考えながら、俺はギルドハウスを後にした。
『村長から大切なお願い』
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