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 今回は二年の教室前からのスタートだ。


「えっと一番近いアイテムは……視聴覚室」


 梨穂子りほこに教えてもらった、かくれんぼの攻略を思い出しながらつづらは視聴覚室に急ぐ。

 二階の端にある視聴覚室までは同じ階なので、十秒もかからないが、今回はいつもと違う。

 維玖桜いくさの時も顕景あきかげの時も初回だったかくれんぼが、今回は二回目。ただ隠れるだけではリスキーだった。


 ガラッ。


 視聴覚室に入るとまず前回ゲットしたアイテムを使う。


『アイテム…………獣騙し(一度だけあなたに似た影を走り去らせることができる)』


 アイテムボールを視聴覚室入口にセットし、セシルがここを開けた瞬間に少し離れた場所でツヅラの影が走り去る仕掛けだ。


(これでだいたい三十秒〜四十秒稼げるって梨穂子が言ってたよね)

 

 無事にセットされたのを確認して、部屋の中を見ると教卓の上に宝物箱を発見。急いでアイテムを手に入れた後は隠れ家作りだ。

 今回は機材収納棚の上の隙間。横の棚から上がり、周りをカーテンで囲み、更に手前を本で埋める。人がどうにか一人横になれるスペースだけを残した形を作りそこに収まるとちょうど六十秒だった。


『梨穂子先生〜どうにか隠れれましたぁ』

『オッケー。後は頑張って隠れてね』

『うぃ〜』

『健闘を祈る』


 梨穂子のおかげでどうにか時間内に隠れる事が出来た。とりあえず一段落。息を潜めていると…………。


 コツコツコツ。いつもの足音だ。


(相変わらず恐ろしい音だな……)


 ガラッ……バンッバンッ。


 近くの教室を探し回っている音がする。この音が更に怖さを際立たせてくる。

 

 コツコツコツ。コツコツコツ。


 ガラッ。


 ポンッ。セシルが視聴覚室の扉を開けた瞬間に、軽い何かが弾ける音がした。


『アイテム獣騙しが発動しました。あなたに似た影がセシルビーストの後ろを走り去りました』 


 タッタッタッ……。


(おおっ!凄い!セシルが私の影を追っかけていった気がする!音で予想するしかできないけど)


 残りは三分……これで三十秒は稼いでくれるという事だ。それからしばらくは静かだったが、残りが二分半を切った頃にまた足音が聞こえてきた。


 コツコツコツ。


「ぐすっぐすっ……姉さん……姉さん……僕のツヅラ姉さん……愛してるんだ……ずっとずっと前から……姉としてなんて見れないんだよ……ツヅラ姉さん……助けて……苦しいんだ……胸が苦しいんだよ……ううっ」


(こ・れ・は!精神的に来るー!)


 年下美少年の悲痛な声は胸にギュンギュン刺さってくる。ここからおびき出されてしまいそうだ。


 高圧的に狂っていたあの二人とは違い、泣き落としでかかってくるあたりに、あざと腹黒さを感じるがこれが葛には響いてきてしんどい。


 ガッ!ガシャン!バタン!ガサッガサッ!


 残り一分。


「姉さん……ヒックヒック……ごめんなさい姉さん……好きになってごめんなさい……でも止められないの……だから姉さんも好きになってよぉ……僕のこと好きになってぇ……ぐすっ」


 残り三十秒。


「姉さん……ツヅラ姉さん……どこ?どこ?どこにいるの?出てきてよぉ姿がみたいよぉ……あっ」


 ガシャン!!


「っ?!」

「痛いー!ううっ……ううっ……転んじゃった……痛いよ姉さん……助けてよぉ」


(あああああ!!!出ていきたい!助けたいぃ!!)


「どこに居るの?ねぇ!ねぇ!僕こんなに姉さんのこと求めて探してるんだよ!!心配じゃないの!早くここに来てよ!!姉さん!姉さん!……ツヅラァァァ!」


(ぎゃーっ!!あっぶな!あっぶな!!飛び出すところだった!!)


 残り0秒。……世界が暗転する。どうにか今回も隠れる事に成功した。


 その後はまた保健室で目が覚めた。相変わらず保健室の先生は麗しい。

 今回はセシルが運んでくれたという事だ。気まずそうに謝ったセシルだが、次に会ったときはまたいつも通りなのだろう。


 ヤミメーター。セシル五十%、顕景五十%、維玖桜六十%。二度ほど連続でかくれんぼを経て、ようやく数値が均等になって来た。


(さっ!ここからが正念場だ!)


 帰りは維玖桜を選んだ。ここ最近は、顕景セシルと連続で濃厚なイベントがあった……もしかしたら、そろそろ維玖桜イベントが起こるかもしれない。


「さっ乗ってツヅラちゃん、今日は少しドライブをしない?」


(うわっ……維玖桜先生のイベント?最近イベントが密だなぁ……)


「少しだけですよ?」

「ははっ、そうそう少しだけだからね」


 維玖桜の車に乗り込むと、帰宅イベント開始だ。というか他の生徒や先生は、この生徒が先生の車に乗り込むという事を何とも思わないのだろうか?ゲームの仕様だから仕方ないとして、常識では考えられない。


 しばらく車は街中を走ると、気がつけば海岸沿いに出ていた。


「わぁ海がキレイですね」

「でしょう?ツヅラちゃんと見れてよかった」

「はっ……ははっ」


(維玖桜先生、割とキザだからなぁ……)


「少し歩かない?」

「いいですよー」


 路肩に車を止めると、二人で海岸に出た。並んで砂浜をサクサク歩くとまるでデートだ。というかこれは放課後デートなんだろう。


「ねぇ……ツヅラちゃん」

「はい」

「手……繋いでいい?」

「えっと……」

「嫌?」

「いえ……」

「じゃあ……小指だけ……ね?」


 そう言って葛の右手の小指に、自身の左手の小指を掛けた。


「ちょっと照れる……かな……ははっ」

「……ですね」


(ピュア?!先生ピュアなの?!好みじゃないのに、何なのギャップでキュンキュンしちゃうよ)


 小指だけを繋いだ状態で二人きりの海岸を歩くなんて、青春が止まらない。乙女ゲーム恐るべし。こうして女子は沼へといざなわれるのだろう。


「ツヅラちゃんは覚えてないと思うんだけど、俺達……昔会ってるんだよ?」

「そうなんですか?」

「俺が中学生の時なんだけどね……君はまだ五才位だった……あの時、俺は君に命を救われた……」

「命を?」


(というか五才?!五才の子供にこの人……えぇ……引くわぁ)


「あの頃の俺は、どうしょうもない位に追い詰められてて……死のうとしたんだ……」

「先生が?」

「そうだよ。だけど、まさに死のうとしていた時に君に助けられた」


 (それなのに何で私を殺そうとするのかなぁ。不思議だなぁ)


「だから……君を生きがいにしようと決めたんだ。君に生涯を捧げると。君は俺の天使で、女神で……とても大切なお姫様なんだよ」

「は?……え?……気」

 

 葛はすんでのところで気持ち悪いという単語を飲み込んだ。


「俺は君の事を想ってずっと頑張ってきたんだ。あの辛い過去も乗り越えて」

「いや……ちょっと先生?極端すぎません?」

「君の事を想っていなければ今の俺はいない……ツヅラちゃん……高校を卒業したら……結婚して?」

「はっはぁっ?!」


『維玖桜を受け入れますか?』


(受け入れるわけ無いじゃん!!こいつヤベーよ!!三人の中でレベルが違う変態だよ!!)


「無理……無理です先生!」

「俺のこと嫌い?」

「いや、嫌いとかのレベルじゃ……」

「ふふっ……じゃあ前向きに考えて欲しい。……とりあえず送るよ」

「あっはい」


 思いがけずすんなりと引いてくれた維玖桜は、そのまま特に何もなく家に送ってくれた。だが、受け入れなかったことでほんのり目の陰りが増している。


「ツヅラちゃん……また明日ね」

「はい。さようなら……」


 助手席まで周り、扉を開けてエスコートしてくれるスマートな大人であるのに、中身がこんなにヤバい人とは誰が思うだろうか。こいつ、当時五才の幼女に人生捧げたんだぜ?


「では……」


 葛が家に向かおうとした瞬間。


「そうだ、忘れ物」

「え?」


 チュッ。


 おでこにキスをされた。


「じゃあね」


 それだけして、維玖桜は車で去っていった。


(あの変態……キザでロリコンとは……恐るべし)


 葛は額をゴシゴシと擦りながら、ため息をついて家に帰っていった。

拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。

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