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セシルはツヅラの父が兄嫁に手を出して生まれた子供。つまり二人は異母姉弟。
それを知ってしまったのはセシルが十二才の時。辞書を借りようと入った父の書斎で、いつもなら鍵のかかっている引き出しが少しだけ開いているのを見つけてしまい、興味本位で中をみたら茶封筒があった。こっそり覗いたら何とセシルと父の血縁証明があったそうな。
「はぁ?!えっ……ええ……」
「やっぱり驚くよね……」
まだ一度もお目にかかっていない一緒に住んでいるはずの両親だか、会う前に父の浮気が判明してしまった。会ったとき大変気まずい思いをしそうだ。
「……でも、でもね。戸籍上は僕たちは従姉弟同士なんだよ……姉さん……」
ハイライトの消えかかった目で、こちらを熱く見つめてくるセシル。
「僕たち……愛し合ってもいいのかな……?」
「え?えっと……きゃっ!」
迷っているうちにベット組み敷かれてしまった。
(あれ……これ、この体制ヤバくない?)
R15とはいえ、ベットに押し倒されている様はエロティックである。などど考えている間にセシルの顔が近づいて……。
(ぎゃーっ!またチューされそうになってる!)
ウィンドウが開く。
『セシルを受け入れますか?』
(ですよねっ!!来ると思ったよ!)
すぐさま御意見番こと梨穂子にチャットで助けを求める。この前より落ち着いているのは、キスされそうになっている状態が二度目だからだ。
『今度はセシルにチューされそう!!』
『どこで?』
『隣の部屋』
『部屋か……キスしたらシーンは飛ばされるけど、あれよ……朝チュン的なあれのCGを見ることになるよ?』
『……R15でしょ?』
『だから暗転して次のシーンになってる感じよ。ベットで乱れた服で……あれよ!』
(無理ィ!!)
どうやらぼやかされるが関係を持つルートらしい。
キスですら恥ずかしくて死にそうなのに、暗転して次のシーンには服が乱れているとか、耐えられる自信など無い。
「ダメ!ダメ!セシル!!」
葛はぐっとセシルを押す。
(そう!暴力はダメよ私!殴らない!今度は殴らない)
悲しそうな顔でこちらを見て、すんなりとどいてくれるセシル。そのままベットで向き合って座る形に。
「どうして?」
「……私達、付き合ってるわけでもないんだよ?こんな事しちゃ駄」
「じゃあ付き合おう!」
(かぶせんな!姉ちゃんが話している途中でしょうが!)
『セシルと付き合いますか?』
『NO』
「付き合えないよ……セシルは弟だもん。そういう対象じゃな」
「僕はずっと……ううん。最初から異性として見てきたんだ!もう……耐えられない」
(だからかぶせてくるなって!)
セシルの目からポロポロと涙が溢れる。何とも美しい。美少年の泣き顔は世界を救えるかもしれない。
「セシル……」
「姉さん……」
ギュッとセシルが抱きついてきた。抱きつかれるのはいつもの事だが、今度ばかりは何だか切ない。
「…………姉さんごめんね。僕、少し落ち着かないと……話を聞いてくれて……ありがと……」
一度だけギュウッと力を込めて抱きしめてきたセシルは、ゆっくりと葛を離した。
「セシッ?!」
しんみりしながらセシルを見てギョッとする。
目のハイライトが完全に消え、若干の狂気すら感じる様な佇まいだ。本能的にヤバいと思った。
「じゃっじゃあ部屋に戻ります!!」
すぐさま立ち上がった葛は猛スピードで自室という結界の中に逃げ帰った。
『「姉さんは……僕のもの……絶対に逃さない……」』
(ヒィィィ!聞こえないようなつぶやきってやつを教えるシステムってどうなのよぉ!!)
バタン!ガチャ!
「あ、おかえり~。どうしたの鍵なんて閉めて」
ニヤニヤしている梨穂子が憎い。
「怖い!怖いよぉ!梨穂子様ぁぁ」
恐怖ついでに下心満載で梨穂子に抱きつこうとするが、華麗に躱された。残念である。
「鍵なんてかけても突破されるときは突破されるのよ?」
「怖いこと言わないで!!」
「朝チュンやめたの?美少年との朝チュンシーン……良いわよ。はじめは恥ずかしいけど」
「無理ィ!こじらせてるのはわかってるけど!初めては好きな人とがいいのよぉ!」
「好きな推しキャラじゃないのぉ。しかもゲーム!本当にするわけじゃないというか、匂わせだからね!したとは明言されてないからね。それに……半裸のセシルはええですよ〜」
「ぐっ……セシルきゅんの半裸……っていやいや!そう言うことじゃないの!!」
「世の中には体は未貫通、心は熟練ビッチっていう女子たくさん居っていうのに葛って大人なのに純ね」
「嫌な言い方だなぁ」
はぁとため息をついた葛は、ヤミメーターの確認のためにウィンドウを出す。
「ん?」
葛は目をこする。そして、もう一度ウィンドウの数字を確認すると……。
「……セシル……百%……え?急にっ?!」
「あ……このイベント、セシルと付き合うことも拒否すると一気に三十上がるんだったわ」
「えぇ?!これって二日連続……」
「だね〜」
「殺生なぁぁぁぁ」
明日もかくれんぼ確定だ。
葛はしくしく泣きながらベットへ潜り込んだのだった。
そして暗転して翌日。
「おはよう姉さん!」
爽やかである。寒気すら感じる清々しい笑顔のセシル。この後、ビーストになるのは知っているんだぞ。
「……おはようセシル」
「おはようございます。ツヅラ」
そしてこちらは昨日ビーストになった男である。
「姉さん、今日は当番だった事を忘れてて……先に行くね」
「えっうん」
「わかりました」
そう言ってセシルは学校に向かって走っていった。
「ゔゔんっ……二人で登校するのは久しぶりですね」
「そうだね……ははっ」
嬉しそうな顕景は昨日の朝のセシルを思い出す。心ここにあらずで歩くツヅラは、顕景がさり気なく手を繋いでいることにも気付かなかった。
「おはようツヅラちゃん」
「おはようございます」
校門前で維玖桜に話しかけられた。こいつも前回ビーストになったロリコンだ。
「……仲が良いことはいいけど、君達は男女なんだから幼児のように手を繋いで登校するのは賛成しないな」
「先生に心配して頂かなくても私達はもう高校生なのでどういう目で見られるかは分かっています」
「……」
「……」
何やらバチバチと火花が散っているようだが、私の為に喧嘩は止めて!などと馬鹿げたことを言うつもりは毛頭ない葛は、二人が話している間にすっと校門をくぐったのだった。
午前中はいつも通りに過ぎ、昼休みの時間になった。
「ツヅラお弁当を食べに行きましょうか」
「あっ……うん」
いつかくれんぼが始まるかドキドキしながら過ごしていたが、気がつけば昼休み。とりあえず昼食に向かおうと顕景と教室を出た瞬間……。
「……っ!?」
廊下の向こうに見覚えのある空色の髪が見えた。
「セシル……」
案の定、目が合うと惚れ惚れする幸せそうな微笑みを携えたセシルがこちらを見ている。そして暗転する世界。
『HIDE AND SEEKの始まりです。今回の鬼は斐川セシルビースト。制限時間は五分。今から一分以内に学校内の何処かへ隠れてください。反撃はできません。見つかれば「君を殺して僕も死ぬ」が発動し、命を落とします』
これを目にするのも三度目だ。
『それでは頑張って隠れてください。よーいSTART!』
葛は、二人きりになった世界で覚悟を決め走り出した。
拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。