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梨穂子りほこ様梨穂子様ここでここで大丈夫でしょうかぁぁぁぁ?』


 体育倉庫の道具入れの下の空きスペースに目隠しバリケードを張り、その中で縮こまりながらチャットをしているのはもちろんつづらである。


『大丈夫よ。動かないでね』

『了解であります』


 今日はゲーム内で九日目。昨日、とうとう顕景あきかげのヤミメーターをMAXにしてしまった葛。昨夜メーターを確認したあとに覚悟はしてたものの、今朝、迎えに来ない顕景に冷や汗が流れ、横で二人きりだとキャッキャッと喜ぶセシルを愛でる余裕も無かった。

 学校の校門をくぐると、少し先でこちらを見つめる顕景が立っていた。目が合うと、それはそれは美しい微笑みを見せてくれた。何かが吹っ切れたその笑顔は恐怖でしかない。『殺ってやる』という決意の気持ちが伝わってくる。

 そして、世界は暗転し……かくれんぼの開幕した。


 隠れるまで一分。その間にアイテムを見つけること、体が完全に見えなくなるように隠れること。それが重要だと教えられ、まずアイテムを探しに行く。

 隠れる場所はアイテムの近く。かくれんぼが開始される場所はランダム。今回は校門からの開始だったので、一番近いアイテムは体育館だ。


 開始と共にダッシュで体育館に向かう。校門からは約十五秒程で到着し、中に入ると体育館の真ん中に宝箱のようなものが設置されていた。

 急いで開けると卵くらいの大きさの透明な玉が入っていた。


(これが梨穂子の言ってたアイテムボール)

 

 それを掴み取ると、走りながらクローゼットにしまう。そして、梨穂子に教えられた通りに体育倉庫にむかいバリケードを貼る。初回のかくれんぼなのでこれで見つかることはないという。


 六十秒ギリギリに隠れることに成功した葛は、ゆっくりと息を吐き出した。

 そこでようやくチャットを使い梨穂子に連絡をとっていたところだ。梨穂子からの返信でどうにか気持ちを落ち着かせ、細心の注意を払う。


 ガラッ。しばらくして体育館を開ける音がした。残り時間はあと三分。コツコツコツ。ゆっくりとしたスピードでこちらへ向かって来る足音が聞こえる。葛は息を潜め、時間が過ぎるのを待つ。


 ガーッ。体育倉庫の扉を開ける音だ。残りは二分半。


「ツヅラ何処にいますか?ツヅラ姿を見せてください。ツヅラ心配しているのですよ。ツヅラ私ですよ。ツヅラ大丈夫ですから。ツヅラ出てきてください」


 ガッ。バタン。ガラガラガシャン。バンッバンッ。


 名前を呼びながら体育倉庫の中を荒らしているのが音でわかる。怖すぎる。声は冷静そうなのに、周りから聞こえる音は激しい。


「ツヅラ出てきて……ください。出てきて……出て……出て……ツヅラ!!ツヅラ!!ツヅラ!!出てきなさい!!今すぐにだ!今すぐ!!姿をっ見せろっ!!ツヅラツヅラツヅラツヅラツヅラツヅラ」


(イヤァァァァ!!こーわーいー!!こんなんで出ていくバカはいないよっ!!)


「クソッ……」


 コツコツコツ。

 足音が離れていく。しかし前回はここで安心して音を出して見つかってしまった。


 残りは三十秒。


 心臓がバクバクと痛いぐらい跳ねているのがわかる。あと少し……あと少し……。


 十秒……………あともう少し!………三……二……一!!隠れきった!!


 そう思った瞬間に世界は暗転した。


 ………………。


「…………ここは?」

「あら、目が覚めたかしら?」


 目を開けると優しげに微笑む保健室の先生。特徴のないモブ感あふれる茶色のセミロングの髪に眼鏡。目の色は黒。しかし、キャラ作りはしっかりとされており中々の美人である。


(……あぁ保健室の名もなき先生……麗しいです)

 

 という事はと、見回せばここが保健室だとわかった。ベットに寝かせられていたようだ。


「私……」

「登校中にいきなり倒れたそうよ。彼がここまで運んでくれたの」

「えっ」

「ツヅラ……大丈夫ですか?」


 そこには顕景がこちらを心配そうに見ながら立っている。


「ひっ顕景っ?!」

「あっ……ツヅラすみません。少し怖がらせてしまったようで……あの、それでは落ち着いたら教室に戻ってきてください。では」

「あっ……」


『HIDE AND SEEKで隠れきることに成功』


 ウィンドウが出て、やっと逃げ切れたことを実感した。ヤミメーターを確認すると顕景の数値が五十%まで下がっている。


(良かった……殺されなかった……)

 

 チャットを開くと梨穂子からおめでとうと入っていた。


(梨穂子のおかげだよぉ。ありがとう)

 

 昼休みになると、顕景は普通に話しかけてきてセシルと一緒にお弁当を食べた。あまりにも普通なので、あのかくれんぼが夢だったような気すらしてくる。


(こういう所がゲームって感じなんだよね……あぁ怖かった)


 放課後になりすっかり恒例になった誰と帰るかという選択肢は現時点で一番メーターの高いセシルを選ぶ。一周目では五日目でヤミメーターがMAXになった維玖桜いくさのメーターは、そこそこ相手をしているとそこまで急に上がらないということも判明し、葛はあの時の自分の軽率さを後悔している。


(今現在のセシルのメーターは八十%で維玖桜先生は六十%……セシルのメーターを下げつつ、二人のメーターを上げないとね)


 帰り道は特にイベントが起こることはなくすんなりとセシルと帰宅。


(これといってセシルの数値を下げるイベントもなしかぁ……ちぇっ)


 葛が部屋に戻ろうとすると……。


「姉さん……ちょっといい?」

「ふぇ?……おほん。何かな?」


 実は初日以来セシルとの家でのイベントは無い。放課後セシル以外の人と帰るとチクリと文句を言われるが、普段は特に何もなく部屋に戻り一日が終わるという流れだったのでこうやって話しかけられるのは初めてだ。


「少し話を聞いてほしいんだ……僕の部屋に来て」


(うほっ。セシルきゅんの部屋!ドッキドキしちゃう!)


 攻略対象の中で、葛の推しは何だかんだで一番愛らしいセシル。ちなみに、ゲーム内ではダントツで梨穂子だが、これを言ったところ引かれたので、今は心の奥に閉まっている。あと、保健室の先生も美しい上に優しいので割と推しだ。出来ればそちらを攻略対象にしてほしいと切実に思う。


 セシルの部屋は男の子にしては可愛らしい部屋だった。カーテンは水色のストライプ。ベットシーツはタータンチェック。目覚まし時計は猫型。可愛いものに可愛いをぶつけて来るとはなんたることだ。大好物である葛はツボすぎて辛くて右手で緩む口元を覆った。


「姉さんどうしたの?」

「ゔゔん。だひじょーぶ。尊さで震えてるだけだきゃら」

「?……とりあえず座って」


 いたずら心が芽生えた葛は、敢えてベットに座る。


「っ!?姉さん……あっ……えと……」

 

 ソワソワするセシルが可愛い。しばらく目を泳がせたセシルは、ふらふらしながら机の椅子に座った。


(あー可愛い!可愛いよセシルきゅん……おっといけない)


「おほんっ。それで話って何?」

「あ……うん。あのね、姉さんその……僕たちの関係についてなんだけど……」


(何だろう?血の繋がりについてかな?)


「僕がこの家に来たのは三才の時だったよね……」

「……」

「姉さんは四才。最初は不安でいっぱいだったけど……優しい姉さんに父さんに母さん……僕は幸せだった」

「……私もセシルと一緒にいれて幸せだよ」


 セシルは嬉しそうに笑う。目のハイライトは陰っているが愛らしい。


(……セシルはどこからか引き取られたって事かな?)


「僕の本当の父さんと母さんはもう居ないけど、父さんの弟になる今の父さんもその奥さんの母さんも、もちろん姉さんも大切な家族なんだ……」


(なるほど……私とセシルは従姉弟なんだ)


「大切な家族だけど、僕と姉さんは従姉弟だから結婚は出来る」

「……そう言うことになるね」

「……僕……姉さんが好き……本当に……女性としてっ!」

「……セシル……」

「でもっ……」

「?」

「僕知っちゃったんだ」

「ん?」

「というか、ずっと前から知ってて辛かったんだ……僕と姉さんは本当の姉弟だって!」

「はい?」

拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。

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