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 キーンコーンカーンコーン。終業のチャイムの音がなる。つづらが椅子から立ち上がるとウィンドウが現れた。


『誰と帰りますか?』


 ゲーム内で六日目。

 二周目から開放される攻略対象の好感度メーターを確認しつつ順調にゲームを進めていると、五日目から帰りを誰と帰るかという選択肢が現れるようになった。

 

(現在のヤミメーターはだいたい……セシル三十%……顕景あきかげ五十%……維玖桜いくさ先生二十%……中々平均的に上げるのは難しいな……)


 選択肢を選ぶ前にチャット画面を出す。


梨穂子りほこ氏、今日は誰と帰るのが正解ですかな?……メーターは……』


 このヤミメーターの平均上げは中々難しい。わかりやすいイベントが起これば流れは決まるのだが、相手は意思を持っているというAIキャラクター。こちらの対応次第でルートは無限大。

 昨日だって、前回は晴れだった天気が雨になっており維玖桜のヤミメーターを上げるつもりで顕景と帰る選択をしたにも関わらず、雨の日に稀に起こる先生に車で送ってもらうイベントが発生し、顕景と半ば強引に維玖桜の車に乗せられた。もちろん葛が助手席だ。後部座席からの圧が怖かった。


(車に乗せるためにわざと水溜まりの水を車でかけてくるとか狂ってるよ本当……)


 おかけで維玖桜のヤミメーターは下がり、顕景は上がった。ついでにセシルも少し上がっていた。このままでは顕景と楽しいかくれんぼが始まってしまう。


『そうね……先生のメーターを上げたいから、賭けで先生に行くのもありかもしれないけど……とりあえず顕景いっとく?』


 うちの御意見番も中々適当である。


「じゃあ……顕景で……」


 顕景を選択すると……。


「ツヅラ、帰りますよ」


 ビクッ!


(急に声をかけられると驚くではないか!)


「……あい。帰りましょ」


 目のハイライトが随分と陰っており若干ホラーテイストの攻略対象と帰宅だ。一体乙女ゲー厶とは……。

 梨穂子に確認したところ、目の陰りとヤミメーターは連動しているらしく、数値が上がれば上がるほどハイライトが消えていく仕様らしい。


「ツヅラ……少し寄り道をしませんか?」

 

(おっ!ここでイベント?これは行かないとかくれんぼ一直線だよね)


「いいよ」


 連れて来られたのは近所のクレープ屋。


(初めて来た……)


「ツヅラはいつものでいいですか?」


(いつもの?!)


「えっと……いつもので!」


 すると顕景がふっと優しげに微笑んだ。


「ふふっ安心しました。高校に上がり、去年はクラスも違いましたから……ツヅラが変わってきているのでは無いかと少し不安だったんです。……あ、では少しそちらのベンチでお待ち下さい」

「うん」


 近くのベンチに座り待っていると、顕景がクレープを持って隣りに座った。そちらを見れば「どうぞ」と言われて一つ手渡された。


「あっ……ありがと。……ん?」


 手元を見ると毒々しい蛍光カラーのクレープ。飾りにドクロマークのチョコレート。


「ツヅラはそれが好きですね。最初はその蛍光カラーの謎の物体には驚きましたが、それがきっかけでツヅラと仲良くなれましたからね」

「……」


(これがいつもの?!嘘でしょ!大丈夫?主人公)


 口に入れても食べ物の味はしないし、食べなくても勝手に減っていく仕様とはいえ、このクレープを持っているのは割と精神的にくる。目に悪い色だな。

 ふと顕景の手元を見れば同じものを持っている。変えてもらう事も不可能だ。


「小学三年生の転校直後……村から出てきた私は荒んでいましたから……あのときの出会いにはとても救われました」


(これはシュミレーションゲームの伝統過去語り!)


 すると目の前に映画のスクリーンの様な謎空間が現れ当時の思い出を映し出す。


(あっショタ顕景可愛いな)


 CGには小学三年生の顕景とツヅラ(目は映っていない)が蛍光カラークレープを食べている。


「貴方のあの言葉で私は…………あっいえ……何でもありません」


(濁すなぁ……)


 顕景がこちらを見つめて、見つめて、見つめて……。


「ツヅラ……本当に貴方は……」


 そっと顕景の手が頬に触れてきた。顔が近い。イケメンの破壊力半端ないな。などと考えていたら少しずつこちらに顔が近づいてきた。


(あっ……もしかして……キッ、キス?!まじで!!)


『顕景を受け入れますか』


 突如現れるウィンドウ。ゆっくりになる世界。


(助けて御意見番!)


 葛は高速でチャットを打つ。


『あきかけにちゅーさらる!どーされはいい?』


 打ち間違いなど直す暇はない。


『ん?どっちでもいいよ。キッスしちゃいなよユー』


(梨・穂・子!!)


 迫りくるイケメンと選択肢。これはゲーム、イケメンとのキスなんてご褒美のはず、しかし……。


「無理ぃぃぃぃ!!わたっ!私!初めてのなのぉ!うぇーん」


 ガッ!!


「ゴフゥ!」


 本瀬川葛二十二才。ファーストチッスも未経験のこじらせ女子は、顕景の顔面にキレイな右ストレートを決め走り去った。


「ツヅッツヅラー!!」


 叫ぶ顕景をガン無視し猛ダッシュで帰宅した葛は、部屋まで戻って来てようやく冷静になった。ウィンドウを開いて、メーターを確認すると……。


「…………顕景のヤミメーターが七十%まで跳ね上がってる……ううっ」

「おかえり葛、どーしたの?」

「梨穂子ぉ……」

 

 堪えきれず梨穂子に慰めてもらおうと経緯を話すと……。


「あはははっそりゃ顔面殴って逃走したらそうなるわよ!あははははっ!あー可笑しい」

「ひどいぃ!梨穂子慰めてよぉ!」

 

 思い返せば、家に着くなり『誰と帰ったの?』と問い詰めようとしてくるセシルを流れるように足払いで倒した様な気もする。


 今は猛烈に反省している。


「……セシルのヤミメーターも五十%に……先生動きなし……」

「そりゃ足払いして話も聞かずに部屋に閉じこもればね……ぷぷっ」

「だって……焦っちゃって……」

「ファーストキスまだだからなんて、葛ちゃんってば、かーわいー」

「やめてよぉ……恥ずかしくて死ぬぅ」

「そういえば葛の年齢っていくつなの?中学生位だったりして?」

「……」


 急にだんまりになる葛。


「……?葛?もしかして、まだ小学……」

「違うわ!……にじゅ……に……」

「んん?十二?」

「二十二才!!」

「……………………すみません葛さん。私今まで……」

「やめてよぉ!今まで通りでいてよー!!現実に戻さないでぇ!高校生でいたいのー」

「いや、現実世界には戻りたいんだけどね」

「……ってことは梨穂子は年下?」

「十七才でござる」

「羨ましすぎて吐きそう……でも……あぁ……十七才。黒髪黒目の美少女……最高」


 うっとりとした目で見られた梨穂子は、葛と少し距離をとった。


「ガチで気持ち悪いんでやめて下さい葛さん」

「ああっ!好感度がダウン!!…………そういえば……ゲーム内の美少女とのチューなら何度もしたんだけどなぁ」

「GLは専門外なんで」

「GLとは違うのだよGLとは」

「でもチューするんでしょ?」

「するけど、その時の自分の性別は男とか女とかじゃなくてプレーヤーって感じなのよ。それに恋愛対象は男性だし……」

「ほう?よく分からないなぁ」

「分かってもらえなくてもいいよ……でも、理解できないからって人って離れていっちゃうんだよね」


 寂しそうな顔をする葛。


「友達いないんだね葛」

「ズケズケ言うなぁ」

「私もだからいいじゃん」

「梨穂子が?こんなにも美少女なのに?」

「顔は関係ない……いやあるかな……自分で言うのも何だけど私さ顔が整ってて、でも乙女ゲー厶大好きなオタクで……ここじゃこんなだけど、現実世界じゃ人見知りもあって……浮くでしょ?……あと顔だけでそこそこモテちゃってたから……オタ女からも距離置かれるし……男子は下心満載でキモいし……」

「…………じゃあ……もしかして梨穂子もファーストキス……」

「乙女ゲー厶で済ませましたー」

「それカウントするの?!」


 ツヅラ達の楽しそうに笑う声が部屋に響き渡る。しかし、それが部屋の外へ漏れることはない。

 だが、それでも部屋の前ではセシルが、家の外では顕景が、路肩に停車した車の中では維玖桜が、恨めしそうにヒロインの部屋を眺めていた。

拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。

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