5
一日目の夜。
オートセーブが終わった後、あの声に従いクローゼットを開いてみると見事に『棺』というアイテムがあった。
「……助けるってどういう事かな?お助けシステムってこと?」
よくわからないが、初心者を助けてくれる救済システムかと思い、棺を選択するとぽんっと音を立てて本当に棺が現れた。ゴシック調の棺はなんともいえぬ美しさを醸し出している。
「開けろってことかな?死体とか出てこないよねぇ……」
葛は躊躇しつつも、このままでは埒が明かないと思い恐る恐る棺を開けた。そして開けきった棺をそろーっとのぞくと。
「えっ!!びっ美少女!美少女じゃん!!」
棺の中には黒髪の美しい少女が眠っていた。その少女のまぶたがピクリと動いたと思うと、それがゆっくりと開く。
「はぁはわわわわ……」
美少女大好きな葛は興奮でどうかなりそうだ。
少女が目を開けると愛らしい黒目が見えた。彼女はよいしょっと言って体を起こすと葛を見据えた。
「初めまして」
鈴を転がしたような可憐な声に、心臓がズキューンと射抜かれる。
「はっはじめっ初めましてぇ……ふぇへへ」
「……」
「あぁごめんなさい。ちょっと興奮して……」
「えっと……驚かせてごめんなさい?」
「いやっ!謝らないで!尊過ぎてちょっとおかしくなってるだけだからっ!」
「えぇ……?」
パンッ。葛は自分の頬を両手で叩いた。
「どうしたの?」
「はぁ……ごめんなさい。えっと……美少女ちゃん……お名前……ん?紹介ウィンドウが開かない?」
「私はここのキャラクターじゃないもの」
「はい?」
「私は『戸郷 梨穂子』このゲームに閉じ込められているの」
「戸郷……ん?何処かで……んー??」
何処かで聞いたような名前だが思い出せない。
「そう?芸能人とかと間違えてるんじゃない?貴方の名前は?」
「あっ……斐川ツヅラです」
「違う。ここの名前じゃなくて現実世界の名前を聞いているの」
「えっ……本瀬川葛です」
「葛ね。あと敬語はやめよう?ちょっとした付き合いになるだろうからね」
「あっはい。あっと……うん」
中々距離感の近い美少女にドキドキする。
「さて、本題に入ろっか。葛はどうしてこのゲームを始めたの?」
「えっと……」
葛は今までのことを話した。
「他のゲームと思って?!じゃあ事前知識もなしに始めたの?」
「そうなるね……ははっ」
「あぁ、だから初めてのかくれんぼを失敗したのね」
「ん?」
「一番初めに起こるかくれんぼはイージーなんだよ。何処かに隠れて時間まで音を立てずに動かなかったらクリアなの」
「そうなの?!」
「だから声を上げたのよ」
どうやらあのまま動かないのが正解だったらしい。
「あの声は梨穂子ちゃんだったんだ」
「そうよ。私は今までゲームの中で眠っていたのだけれど、あのかくれんぼで目が覚めたの。そしたら知らない女の子がゲームをプレイしてるでしょ。驚いたわ」
「起こしてごめんね?」
「ううん。むしろ助かったわ。前のプレイ中にかくれんぼでアイテムの棺に隠れたら出れなくなってしまって……気がついたら眠っていたみたいで」
「アイテム?」
「そうよ。あなたの本当に何も知らないで始めたのね……」
「えへへ」
梨穂子は葛を残念そうな目で見てくる。それはそれで悪く無いと思える葛は、立派な変態である。
「HIDE AND SEEK……つまりかくれんぼの目的は二つあるの。一つはもちろん隠れきること。それともう一つはアイテムを見つけること」
「えっでも、動いたら見つかるんじゃ……」
「そうよ……だからアイテムを回収してから隠れる必要があるの」
「そうなんだ……」
「クローゼットはいわゆるアイテムボックスなの。色んなものが入れられるよ。とりあえず机にある手鏡を入れてみて、チュートリアルね」
「りょ」
そう言って葛は部屋の机を開けた。中にある手鏡を持ち、クローゼットを選択すると言われたとおりに手鏡を手に入れる事ができた。
「おおっ!凄い!」
「これはちょっとだけ魅力がアップするアイテムね。まぁ魅力なんてあって無いようなものだけど」
「かくれんぼってどんな周期で起こるの?」
「ヤミメーターがMAXになったらなんだけど……葛は何日目で起こったの?」
「五日目」
「は?……五日目で維玖桜先生のメーターをMAXにしたの?」
梨穂子は信じられないような目で葛を見つめた。
「そんなに見られると照れるよぉ」
「いや……五日目で維玖桜先生って……最短記録じゃないかな……そんなに先生の事を冷遇したの?」
「避けました」
「何でっ?!」
「好みじゃないから」
「あーそっか……うーん……そっか」
なんとも悩ましげにする梨穂子。美少女は何をしても似合うなと思う葛。噛み合わない二人である。
「はぁ……とりあえず、これは二周目?」
「うん」
「そう……このゲームを抜け出す為に私も協力するから……」
「でも、五時間経過したら強制的に戻れるでしょ?」
「……戻れないの……だから私は閉じ込められてるの」
「はぁ?ゲームだよ?」
「そのゲームが意思を持っちゃってるの!」
「えぇ?そんなゲームみたいな話……」
「私を見て!」
梨穂子が真面目な顔で葛を見据えた。
「私はゲームのキャラクターじゃないのよ?」
「えっ……あ……」
「うん。分かるよ。ゲーム感覚だよね……というかゲームだもんね……私もゲーム好きだよ……だから真剣に聞いて……」
「……」
葛はコクリと頷く。
「セシルも顕景も先生もゼータも皆、意思を持ってる。データじゃないの……」
「ゼータ?」
「まだ出会ってないキャラクター。そのうち出会うよ。ゼータは私達を助けてくれるはず……でも、残りの三人は主人公であるヒロイン……葛を離さない」
「……」
「私もここから出たいの……だから、貴方に協力するから……頑張って抜け出す方法を一緒に考えよう」
「……本当に出れないの?」
「五時間経てばわかるよ」
梨穂子の話は嘘とは思えない。このままここに閉じ込められるのは御免だ。
「……どうすればいいの?」
「まずは、ゼータに会おう」
「ゼータって……」
「『霧渡 仙汰』四人目の攻略対象キャラクター。他の三人とは全く違うルートで出会うの」
「……セシルや顕景と別行動をとるの?」
梨穂子が首を振る。
「基本的に一緒でいいよ。でも、ゼータを出すには特殊なルートになるの」
「特殊?」
「三人のヤミメーターをMAXギリギリにする必要があるの……まぁ80%以上かな」
「……ねぇさっきから聞くヤミメーターって何?」
「ヤミメーターは、闇と病みのパラメーターの事で、主人公から冷たく接されたり、他の男と仲良くしたら上がっていくの」
「それがMAXになったら、かくれんぼが始まるの?」
「そう。学校でね。ヤミメーターがMAXになった攻略対象はビーストとなって主人公を殺しに来る。見つかると殺されてBADENDよ」
葛は無意識に首を触る。維玖桜が狂気に満ちた目で首に手を掛けた事を思い出し、身震いした。あんな恐ろしい経験、二度としたくない。
「……それって危険じゃない?」
「危険よ。でもかくれんぼは何回かしても大丈夫。一度かくれんぼを成功させれば、ヤミメーターは半分まで下がる。そうやって上手いこと調整するの。明日からはゼータと出会うことを目標に頑張らないと」
「ゼータって人は助けてくれるの?」
「えぇ……私の脱出の為に頑張ってくれたもの……ただ私が間抜けをしてしまったから……未だに出れてないけど……」
梨穂子は寂しそうな顔を浮かべた。
「梨穂子ちゃんはゼータが好きなの?」
「……まぁね……一番好きなキャラよ……でも……私はここから出たいの。ゼータに会えなくなってもね」
「……わかった……とりあえず梨穂子ちゃんに助けてもらいながら頑張るね」
梨穂子はふっと柔らかい笑顔を見せた。
「うん……がんばろう。さぁゲーム再開!あっ、私はこの部屋にずっといるから、ゲーム中はチャットで話すことにしよう。あと、私の事は梨穂子でいいよ」
「うん。わかった」
葛は協力者を手に入れた。そして、ゲームは再開する。
拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。