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「もうすぐ保健室だから……頑張ってゼータ」

「あぁ……」


 つづらがまだ校長室で隠れる為にバタバタしている頃、顕景あきかげとの戦闘で負傷した仙汰ぜんた梨穂子りほこに支えられ、ようやく保健室にたどり着いた。


「しつれーしまーす」

「誰もいないだろ」

「これはもう刷り込みなのよ……誰もいなくても言わなきゃいけない気がするの」

「そんなもんなのか?」 

「そんなもんなのよ」

「どーぞー」


 ビクゥッ!!


 誰もいないはずの保健室から返事が返ってきて驚く二人。


「あぁごめんね驚かせちゃったね」

「先生?」

「そうなんだけど、違うんだよ……まっとりあえず治療したら?」

「あ、はい」


『仙汰の回復を行います。残り一分』


 梨穂子はつづらにチャットで連絡を入れると、目の前の人物に向き直った。


「始めまして俺は『磯山いそやま たもつ』。つづっち……えっと葛さんの仕事仲間だよ」

「えっ、葛の?!どうやってここに……」

「あぁ……俺は」

「俺?お前は女じゃないのか?」

「ははっそっか、この見た目だもんね……一応現実じゃ男なんだけど、今はこの保健室の先生の善意で器を借りてるんだ」

「そんな事が出来るのですか?」

「出来ちゃったねぇ。俺の仕事はゲームの開発関係なんだ。それで無理矢理このゲームにアクセスをしててね。しばらくモニターで葛さんの動きを見てたんだよ」

「えっ!みっ見て?!えっ!じゃあ私とゼータが……」

「おっ、お前っ!許さない」


 ゼータと梨穂子が焦って真っ赤になる。あたふたする二人を葛がここに居て見たら鼻血でも流すのではなかろうか。


「あ、いや。俺が見てたのはあくまで葛さんだから、君たちの事は見てないよ」

「そっ、そうでしたか……ははっすみません」

「焦らせてごめんね」

「いや……こっちこそ申し訳ない……」


 二人は真っ赤で目を泳がしている。二人きりのときに一体何があったんだろうか。


「さて、時間がないから手短に話すとね。俺は保健室の先生の助け借りて助けに来た。着いたのは、ほんの少し前」

「葛を助けに……」

「葛さんと君……梨穂子さんをだよ」

「それは助かる!是非手を貸してくれ!」

「……そうしてあげたいんだけど……梨穂子さん次第なんだよ」


 全の言葉にほんの少し落ち着かない雰囲気の梨穂子。


「……私は……葛が助かれば……それで」

「何を言っているんだ梨穂子。ここからツヅラと脱出するんだろう?」

「君は……もしかして、気づいてる?」

「…………」


 少し目を泳がせたあと梨穂子がゆっくりと頷く。


「梨穂子?」

「ゼータ……私ね……多分……死んでると思うの」

「は?……いや、梨穂子はここに居るだろう?」

「……私、ここで目が覚めてから自分のウィンドウを見てゾッとしたの……プレイ時間が……七万時間を超えてて……計算したら……約八年経ってたの……だから……運がよかったら目が覚めていないだけかもしれないって思ってたけど……でも……そうなんですよね?」


 全が目を反らしながら頷く。


「君は……『戸郷梨穂子とごうりほこ』さんは、八年前に『HIDE AND SEEK』をプレイ中に意識を失い亡くなったんだ」


 梨穂子の目から涙が溢れる。


「やっぱり……」

「梨穂子っ!……てめぇ!そんな嘘で梨穂子を混乱させて!許さねぇぞ!」

「いいのゼータ!分かってたから!分かってたの!だから……」

「梨穂子……本当なのか?」

「……うん」

「……梨穂子さん。君はどうしたい?ずっとこのままゼータ君と一緒に居る選択もある。ログアウトすれば、君は」

「……覚悟の上です。私は葛とここを出ます」

「梨穂子……でも、そんなことしたら……」

「分かってるって!でもこんなのおかしいでしょう!ここにずっと永遠に居続けるなんて……私は……現実世界に戻って……家族の元に帰りたい……帰して……」

「梨穂子……」


 仙汰が梨穂子を強く抱きしめた。目には涙が浮かんでいる。


「分かった。……本心は離れたくない……だけど……おまえ達がここから脱出出来る様に……ちゃんと手伝うよ……」

「うん。ありがとうゼータ」


「えーと……ゴホンッ!時間は大丈夫?」

「えっ?!」


 全の声に我に返ると、気がつけば仙汰の治療はあっという間に終わっており、時間は開始から九分近くになっている。


「あっ!急がなきゃ!時間がない」

「とりあえず俺はつづっち……あ、葛さんの方へ行く」

「ふふっ、もうつづっちで分かるのでいいですよ。葛は二階の校長室です。そこの階段からなら三十秒もかかりません」

「了解!もう時間がないからな!二人はもうひとりを……」

「梨穂子ちゃん!!」


 嫌な声である。振り向くとそこにはもちろん維玖桜いくさ


「維玖桜先生……」

「頼んだ……」


 仙汰と梨穂子が頷くと白衣をなびかせながら全が階段を駆け上っていった。


 校長室の方からはガタンガタンと葛を探しているであろう音がする。心配だ。


 だが、全のあの速さなら二十秒もかからないだろう。そちらは任せるしかない。

 今は目の前の敵だ。


 細い廊下で仙汰と維玖桜が睨み合う。


「顕景君はやられてちゃったんだ……仕方ない子だね……本当に仕方ない……生徒の不始末は先生のお仕事だから……死ねよ仙汰」


 先程、葛に向けていた包丁で仙汰に切りかかる維玖桜。サバイバルナイフで迎え撃つ仙汰。

 

「るせぇ変態!ロリコン!!てめぇなんて教師じゃねぇよ!この狂人!」

「何とでも……何と言われようとも、俺はツヅラちゃんも梨穂子ちゃんも愛してるんだ!!可愛い可愛い俺のお姫様達!お前みたいな浮浪者が近づいていい存在じゃないんだよぉ!!」

「本当に気持ちわりぃ奴だな!」


 キンッ!キンッ!ギギッ!


 大きく円を描くように斬りつける維玖桜はやけに包丁の扱いが上手い。防戦一方の仙汰は先程の負傷のせいもあって反応が遅れてしまう。


「ゼータどいて!!」

「えっ」


 ゴロゴロゴロゴロ。


「えっ!梨穂子ちゃっ!うわっ!」


 梨穂子の叫びに仙汰が反応し横に避けると、コロの付いた椅子が維玖桜の方へと凄いスピードで向かっていった。

 急いで避ける維玖桜。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 避けるとすぐに次の椅子が迫る。


「ちょっ!梨穂子ちゃん!邪魔しないで!」

「邪魔するよ!!喰らえぇ!」


 ゴロゴロゴロゴロ。


 三台目が発進させると同時に梨穂子が走り出した。


「うわっ何?!」

「やぁっ!!」


 梨穂子は手に持っていた、その辺りにあった雑巾や保健室から拝借した本等を維玖桜にぶつけようと投げる。


「わっ!……ちょっ!梨穂子ちゃんっ!」

「ゼータ!」

「任せろ!!」


 怯んでいる隙にゼータが梨穂子を飛び越え、顔に膝蹴りを食らわす。


「グフッ!!」


 鼻血を流しながら仰け反るように倒れる維玖桜をゼータがそのまま抑え込む。


「クソッ!梨穂子ちゃん!梨穂子ちゃん!梨穂子ぉぉ!!俺は君を愛してる!愛してるんだァァ!!離せっ離せっ」


 ギャーギャー騒ぐ維玖桜を梨穂子は冷静に見下ろしクローゼットから『幸せの記憶〜維玖桜〜』を取り出す。


「……え?梨穂子……ちゃん……それ……」

「バイバイ。維玖桜先生」

「やっ!やめっ!やめろ!!ぐっ……がはっ……」


 アイテムが光りだすと維玖桜が苦しみだした。すかさず『棺』を取り出す。

 騒ぐ維玖桜を顕景の時と同じ様に棺に押し込める。


「梨穂子ちゃん……ぐっ……うぐっ……りほ……」


 パタン。


「……ハァッ……ハァッ……フゥ……あと……一人だね」

「あぁ……行こう」


 梨穂子は校長室に向かいながらチャットを開く。かくれんぼが続いているという事は、葛は無事のはずだ。


『そっちは大丈夫?こっちはセシルを倒してダウン中だよ』


 葛のチャットにホッとする。


「これで……終われるよ……ゼータ」

「そうか……」


 階段を上がりながら自然と手を繋ぐ二人。


「お前は俺たちを恨んでないのか……?」

「えっ?」

「梨穂子を殺したのはあの三人と俺みたいなものだろう?」

「……恨まないよ。だって……このゲームにハマって、ずっとこのゲームの世界に居たいって最初は思っていたのも事実だからね……私にも要因があるのよ」

「だが……俺は申し訳な」

「謝らないで……私、楽しかった事も沢山あったから……ね?」

「……梨穂子」

「ん?」


 二人の影が一瞬重なった。


「……ゼータ……大好き」

「俺もだ」


 微笑み合った二人は、一度止めた足をまた動かし始める。

 最後の場所に向かう為に。

拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。

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