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トリプルかくれんぼの開幕だ。
「アイテム『棺』」
ドーンッ!
「棺?!」
「どうしてツヅラが棺を!」
「くそっそれを使われると手が出せない」
究極のかくれんぼのアイテム棺に驚きを隠せない三人。そりゃそうだこれに隠れられると、このかくれんぼはプレーヤーの勝利が決まるのだから。
でも、これは隠れるための棺じゃない。使用済みで中身入りだ。葛が蓋をギギーっと開けると。中にはもちろん黒髪の美少女が眠っていた。
梨穂子が棺から起き上がる。
「り……梨穂子?」
「梨穂子ちゃん?!あれ……ツヅラちゃ……え?!」
「何で……梨穂子姉さんが……え、ちがっ……これは……え??」
浮気現場を見られた様に狼狽える三バカは見ていて面白い。続けて仙汰を呼び出す。
光をまとった仙汰が召喚された様に現れた。中二臭くて格好良いではないか。
「仙汰……」
顕景が憎々しげに呟く。
(こーわーいー!!嫉妬心丸出しで怖いよぉ)
しかし、どんどんと時間は過ぎていくので葛は隠れるために走り出した。
(バカ三人とあの二人の邂逅はめちゃくちゃ気になるけど、とりあえず隠れなきゃ!!)
校門近くで何らかの言い合いをしているのが聞こえる。梨穂子は大丈夫だろうか……。
だが今、葛がしなければいけない事は、アイテムを探しながら手近なところに隠れる事だ。校門前から一番近いアイテムは体育館だが、そこはこの前のかくれんぼで回収済みなので、次に近いのはプールだ。
(プールがあるって事は、夏になったらプールイベントもあったのかな?セシルきゅんの水着見たかったなぁ)
相変わらず邪なことを考えつつ、ダッシュでプールサイドにある宝箱を回収。
隠れるのは機械室の電子盤の裏だ。保管されている器具やプールの用品などを使い目隠しをして、体操座りで隠れた。時間はとっくに六十秒を過ぎていたが、周りにはなんの気配もない。きっと梨穂子と仙汰が時間を稼いでくれているのだろう。
チャット画面を開くと梨穂子からメッセージが入っていた。ここに隠れるのは打ち合わせていたので問題はないはずだ。
『開始から一分半が経過してようやく維玖桜先生とセシルが葛を探しに行った。近くに行くまで二分と見た』
『了解』
(と言う事はここに来るのは開始から三分半くらいか……あと約一分)
すると梨穂子の言ったとおりに開始から三分半位で足音が聞こえた。
コツコツコツコツ。
コツコツコツコツ。
(二人分っ?!これじゃ……あっそうだ)
「姉さん……僕だよ……仲直りしよう?ね?ツヅラ姉さん」
「そうだよ。皆で仲直りしようツヅラちゃん。ほら出てきて……早く出てきて……ほら……」
(出ていくわけ無いじゃん!!)
ガンッ!ゴッ!バシャン!!
あいも変わらず恐ろしい探し方をしている。プールに何らかのものを投げ入れるのは必要か?
コツコツコツコツ。
一人分の足音がこちらに近づいてくる。このプール周辺にいるとわかるくらいで、正確な場所は分からず手分けして探しているようだ。
ガチャ……カチャカチャ……ガラッ。
なぜ毎回かけたはずの鍵が意味を成さないんだ。
「姉さん?ここ?」
セシルだ。
「ごめんね姉さん。僕謝るよ。だから姉さんも心を開いて?僕姉さんが大好きなんだよ。グスッ……姉さん好きだよ。大好きだよぉグスッグスッ」
ガサガサ!バッ!ガッガッ!ガシャン!!
(セシルきゅん。可愛いこと言いつつも探し方がホラーなんだよぉ……可愛いぃ怖いぃ)
開始からもうすぐ五分になろうとしている。いつもならここで終わりだが、今回はまだ三分の一だ。
バリッバリッ。
(来た……)
とうとう目隠しに手をかけ始めた。
「ここだよね?ここだよね?ね?ね?いい?姉さんいいよね?ほら……そっちにいくよ」
バリッ……。
「みーつけたぁぁぁぁ」
完全にハイライトの消えた狂気の宿る目と目が合う。
「ぎゃぁぁぁ!喰らえぇ!!」
『獣の檻』を投げつける。瞬間セシルを光の檻が取り囲む。
「あぁ……アイテム……持ってたんだねぇ……クスクス……でも次は逃さないからね……姉さん」
冷静に自分の状態を分析しつつ、犯行予告をしてくる狂人。怖すぎる。
機械室を出ると維玖桜がこちらを見て立っている。まぁ予想済みだ。
「見つけたよツヅラちゃん。あぁ会いたかった……」
「はっ、梨穂子の登場に狼狽えてたくせに……どっちが本命なんだろねぇ」
「ツヅラちゃん。違うよ。どっちがじゃない。どちらも大事な俺達のヒロインなんだ……大丈夫。二人共心から愛してる」
「うぇっ気持ち悪い事言うな!だからゼータに梨穂子取られちゃうんだよ〜」
「あの裏切り者の事は言うな!」
怒声を上げた維玖桜は、うっすら笑いながら近づいてくる。
「まぁでも君も梨穂子ちゃんもリセットすればいいんだよ……何度も何度も……そうすればいつか……クスクス……」
「この狂人どもめ……」
維玖桜の左手がこちらに伸びる。反対の手には光るもの。包丁だ。
(ヒェッ、刺し殺す気だ!!)
「あっ、アイテムーー!!」
クローゼットから取り出したのはついさっき手に入れたアイテム『天使の梯子』。そのアイテムボールを思い切り地面に叩きつける。葛を包み込むまばゆいほどの光の柱。急いで維玖桜がその光の中に入ろうと駆け寄るがとてもじゃないが間に合わなかった。
光がおさまるとそこには葛の姿はなかった。
「チッ……天使の梯子か……」
「逃げられちゃった?」
機械室からアイテムの効果が切れたセシルが出てきた。
「あぁ……そうだよ。忌々しいアイテムだね。光に飛び込めば着いていけるんだけど……さすがに遠かった」
「次は……校内だね……行こう。まだまだ時間はある」
アイテム『天使の梯子』は、瞬間移動のアイテムだ。使うとその場から移動する事ができる。移動場所は選べずランダム。光の柱に納まった者は全て移動対象となる。
「ふぅ……怖かった。めっちゃくっちゃ怖かった……」
強運でナイスアイテムをゲットできた葛は、なんとか逃亡に成功した。
「えっと……ここは……校長室?」
飛ばされたのは校長室。学校の二階だ。
「二階のアイテムはこの前の視聴覚室と……ベランダだったよね……視聴覚室のはもうとったから……ベランダだ」
梨穂子に教えてもらった宝箱の場所を思い出す。ちなみに、かくれんぼで手に入れることができるアイテムは全てで十個。場所は決まっているが中身はランダム。一度手に入れたものはゲームがリセットされるまで復活しない。今まで葛が手に入れたアイテムは全部で三つ。残りは七つだがすべての回収は不可能だろう。
校長室からベランダは近いので難なくアイテムを手に入れた葛は、再び校長室に戻って隠れる事にした。
(移動は最小限って梨穂子が言ってたもんね)
隠れるのはソファーの中。後ろのファスナーを開けると丁度一人分のスペースがあった。
(普通は無いけどね……)
テーブルを前に置き、後ろは壁につける。ソファーの上にもクッションを乗せる。偽装完了。あとは息を潜めて隠れるだけだ。
開始からここまででようやく七分。まだ半分もいっていない。
中に入ってようやく人心地。葛はチャットを開いて状況を確認する事にした。
開いたと同時に梨穂子から連絡が入った。
拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。




