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「葛っ!!」
花畑に入ると梨穂子が駆け寄ってきた。
「どうしてあんな無茶をしたの?」
「……ついつい……勢いで……っていうか見てたの?」
「何かね、仙汰がモニターの様な物を開いてくれて、それで葛の様子を伺えたの」
つまりは全て見られていたらしい。
「お恥ずかしい限りで……あと、ごめんね。ここを出て早々に帰ってきてしまいました。折角の二人の時間を……」
「ふふっ。それは気にしないで。葛がここを出てから玄関で気がつくまで、実は結構時間があったのよ?」
「そうなの?」
どうやらシステム上、読み込みの間少しだけロスタイムが生まれる、時間にするとほんの一分にも充たないらしいのだが、プレーヤーの体感時間はなく待ちのストレスは無い。しかし、プレーヤー以外の者だと三時間程度に感じるらしい。
「その読み込みの時間で二人の時間を過ごせたの……ありがとう葛」
「梨穂子……良かった」
「ツヅラ、俺からも礼を言う。最後の時間を二人で過ごせて……幸せだった」
「ゼータ……そっか、うん。それならここに梨穂子を預けたかいがあった!」
仙汰と梨穂子は晴れ晴れとした顔をしている。最後の別れの覚悟を決めたのだろう。
「あぁ……でも、私がちゃんと一日送っていれば、もっと二人の時間が……」
「それは無いって、葛を見てたらハラハラしてゆっくりとか無理」
「うっ」
「実際にさっきのはやばかったしな」
「面目ないでござる」
「ほら、ヤミメーター確認して?」
「うん」
三畜生のメーターを確認すると……。
「うはぁ……見事に全員マックスですよ……こえぇ。何か画面も赤く点灯してるし」
「赤点滅は明日トリプルですよの合図みたいなものよ。まっ、完全に殺る気ってこと」
「ヒィィィ」
「大丈夫だ!俺がいる!」
「うーん。いまいち不安なんだよゼータ」
「何故だ?!」
「葛、私も居るからっ」
「梨穂子様〜。アイ・ラブ・ユー」
「キモっ」
「あぁ……好感度が上がらない」
三人はいつもの場所に移動し、明日の打ち合わせに入った。
「かくれんぼが始まったら、すぐに棺から私を出して葛はとりあえず隠れて」
「うん。アイテムはいいの?」
「もちろん取りながらよ。トリプルの場合は隠れながら、どんどん遠くに移動して行くっていうのが正解みたいだから、見つかりそうになったらアイテムを使って逃げて隠れてを繰り返す」
「うはぁ難しい……三人もいるのに」
「十五分もあるからな……流石に一箇所に留まっていては何処かで見つかってしまうんだ」
「ビースト側にもある程度こっちがどの辺りに居るか分かるみたいで……方角位みたいだけど……」
通りで毎回近くに来るはずだ。
「葛が隠れている間に私とゼータが一人一人封印していくから」
「えっ!そんなの私だけ隠れるって……」
「言い方が悪かったね。葛はおとりなの。私がチャットで状況を伝えるから、上手いことビースト達を引きつけておいてもらわないといけないの」
「おとり……分かった」
「今持っているアイテムは?」
「えっと……獣の檻?」
アイテム『獣の檻』。アイテムボールをビーストに投げつけることで使う。光の檻がビーストを囲い込み三十秒動きを止めることができる。
「じゃあ見つかりそうになったらそれを投げつけて逃げて」
「一個しかないけど全員に有効なの?」
「一人だけだよ」
「ええっ。二人以上いたらアウトじゃん!」
「その為の私達でしょ?それに私も自分のアイテム使うから、あんまり多くはないけどね」
「うん。分かった」
空を見上げる。相変わらずここは夜。月に満ち欠けなどなくずっと同じ形のものが浮かんでいる。花の絨毯も枯れることなく風もないのに揺れている。時の動かないこの世界。
ふと思った。もしかしたら意思を持ってしまったキャラクター達はヒロインに救いを求めているのかもしれない。変化のないこの世界で永遠に生き続けるのは辛いだろう。
「ここを……私と梨穂子が出ていったら……あなた達はどうなるの?」
「……そんな事は、考えるべきじゃない」
「ゼータ……」
「葛。私だって同じ事を考えたよ。でも答えなんて出ないの……全てを救うことなんて出来ないの」
「……だけど…………ううん。そうだね。キレイなことばかり言ってたら結局何も上手くいかないかもしれないね」
「そう。自分の事を第一に考えて。葛はここで永遠にヒロインとして生きたいの?」
「嫌。ここから出たいよ」
ウィンドウを出す。今まで何度も何度も帰ろうと選択してきたホームボタンは、相変わらず動かない。プレイ時間ももうすでに十時間を超えている。
「ツヅラ、俺達のことは気にするな。まずはここから脱出することだけを考えるんだ」
「……分かった……変なこと言ってごめん」
「気持ちはわかるから大丈夫だよ。私も何度も考えたもん。皆を救ってあげたいって」
梨穂子の方がずっと閉じ込められているんだから、葛以上に彼らに感情移入してしまうのだろう。
「そうだよね。梨穂子は全部のシナリオクリアしてるんだもんね……所で……セシルきゅんのルートはどんな感じなんでしょうか?」
「……しんみりしたと思ったらこれか!もぅっ!……まぁ葛のやる機会は無いかもだからね」
「そうなんでげすよ〜」
「じゃあ……かいつまんで教えてあげる……セシルルートは、二人が本当は血のつながった…………」
そうして三人は、これが最後の夜になると信じてゆっくりと過ごしたのだった。
数時間後。
「アイテム『棺』っ!どーんっ!」
「おおっ!これはまさしく最初に見た棺!」
「じゃあまた後で、よいしょっ」
「また後でな梨穂子」
「うん。ゼータ」
そろそろ時間だという事で梨穂子が棺に入り、葛のクローゼットに収納される。
パタン。
梨穂子が内側から蓋を閉めると、棺がすうっと消えていった。慌てて葛がクローゼットを確認すると。
「あっ!ある!棺!」
無事にクローゼットに収納されているのを確認してホッとする。
「それじゃ行くぞ」
「オッケー」
世界が歪み、いつもの様に一瞬意識が飛んだ感じがしたあと目を開けると……。
「……校門……」
葛は一人で校門の前に立っていた。周りには誰もいない。校舎からはほんのりと黒いモヤのようなものが出ている。
きっとこの門をくぐればかくれんぼが開始されるのだろう。
「怖いよぉ……」
『「大丈夫葛。私達がいるよ」』
頭の中に声が響く。
「えっ、梨穂子?」
『「やっぱり、クローゼットの中に居るとあなたに声が届くみたい」』
「そういえば最初のときそうだったね」
『「思い出した?」』
「うん。あと元気と勇気がわいてきたでござる!」
葛がサムズ・アップする。
『「くすくす。その調子!さっ行こっか」』
「そうだね。よしっ!行くぞー!」
葛が校門に向けて歩き出した。
校門をくぐると。例の三人が居た。
「待ってたよ姉さん」
「ツヅラ会いたかった」
「またすぐにいつもの毎日に戻れるからねツヅラちゃん」
曇りの無い三人の笑顔は壮観だ。そして、恐ろしい。
『HIDE AND SEEKの始まりです。今回の鬼は斐川セシルビースト、正代顕景ビースト、志摩延維玖桜ビースト。制限時間は十五分。今から一分以内に学校内の何処かへ隠れてください。反撃はできません。見つかれば「君を殺して僕も死ぬ」が発動し、命を落とします』
『それでは頑張って隠れてください。よーいSTART!』
拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。




