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 ゲーム開始から十三日目の夜。ついにその日が来た。

 

「ヤミメーター、セシル80%、顕景あきかげ90%、維玖桜いくさ先生80%……来た!来たよ!梨穂子りほこ!」

「良かった良かった。一時はどうなるかと思ってたけど、無事に三人共メーターを高くできてほっとしたよ」

「これもひとえに梨穂子様のおかげでごぜーやす」

「そのとーり!」


 ようやく『ゼータ』こと『霧渡きりわたし 仙汰ぜんた』の出現条件を揃えれた。明日はゼータイベントが起こるらしい。


「ゼータってキャラはこっちの味方をしてくれるんだよね?」

「……多分」

「多分?」

「私の時は、手助けしてくれたから……大丈夫と思う」

「……とりあえず梨穂子を信じるよ。脱出する方法なんて検討つかないもん」

「そうね……明日は頑張ってねつづら

「うん」


 不安と期待を胸に、葛はベットに横になると世界は暗転した。


『新ルートが開放されました』


「ん?……あれ?」


 一瞬意識が飛んだあと、目が開けると見たことのない場所にいた。

 周りを見渡せば木々が生い茂り、空には月が登っている。


「ここは……森?」

「……お前は誰だ?」

「えっ……」


 声のした方を向けば、金髪にルビーのような目をした美しい男がいた。彼がおそらく仙汰だ。


「……私は……ツヅラだよ……」

「……そうか……」

「?」


 なぜか若干残念そうな顔をする仙汰。


「……で、お前は……分かっているのか?それとも、何も分からずここに居るのか?」


 この質問は、ただの何も知らないプレーヤーかどうかを試す意図で言っているのだろう。


「……望んでいる答えは何?分かってるって言えばいいの?」


 葛の返答に仙汰はピクリと反応を示す。


「……俺の事も、知っているのか?」 


 仙汰の赤い瞳が揺れた、戸惑いながらも希望を求めている。そんな表情だ。


「知っている……というか聞いている、だね……梨穂子に」

「っ?!梨穂子!梨穂子の関係者なのか!?彼女は今ど……」


 葛が仙汰の口を手で覆う。


「しっ……聞かれるかも、だよ」


 あの三人にと目で訴えると、仙汰はゆっくりと頷いた。何たって主人公のストーカー達だ。何処に目や耳があるか分かったもんじゃない。


(そうか、こいつ梨穂子がここに来ると思ってたんだな……だから私で残念な顔したんだ……でも良かった。ちゃんと話が通じそう)

 

「俺のイベントポイントまで行こう……そこなら誰も干渉できない」

「そんな事できるの?」

「俺は特別な存在だからな」

 

 そう彼が言った瞬間、世界が揺れた。波紋が広がるように揺らいだ世界はぐにゃりと歪んだ後、ゆっくりと落ち着いていく。そして、気がつけば別の場所に立っていた。


「……キレイ……」


 見渡せば、一面の花畑。エーデルワイスのような白くて小さな花が絨毯のように広がっている。


「……ここは、俺のエンディング場所だ」

「えっ!?そんなすっ飛ばして来て大丈夫なの?」

「構わん。どうせこの世界は狂っている」

「……あれ?……そういえば……あなたの名前が見れるウィンドウが出てない……」


 攻略対象との最初の出会いには、説明ウィンドウが出てきていたのに仙汰との出会いでは出てこなかった。


「消した」

「消せるの?!」

「どうせ俺の事は知っているんだろう?」

「聞いただけだけど……仙汰……くん?」

「ゼータでいい。そう呼ばれているからな」

「あい」

「まぁ座れ」


 そう指し示された場所には、何ともちょうど良いスペースにちょうど良い切り株が二つある。何故こんなに太く育つ木を、こんなに近くに植えたのかというの距離で並んでいる。

 そこに二人で座る。


(近いな……これが乙女ゲームのディスタンス)


「梨穂子は……今どこに居るんだ?元の世界に帰れたのか?」

「……それは……えっと……あっ、でも梨穂子と私は戦友みたいなもので……その〜」


 たった今出会ったこの男は本当に信じて大丈夫なのだろうかと考えてしまうのは、この世界で未だまともな男に合ってないせいだろう。


「……まだ俺が信用できないのか?……まぁアイツらと会ってるならその位の警戒は必要か……アイツらは狂人だからな」


 ゲームキャラにまで貶されるあの三人って……。


「……くくっ、信用してもらう為に、俺のストーリーと設定を教えてやろうか?お前は梨穂子の仲間なんだろう?それなら信用してもらって俺とも仲間になってもらわないとな」

「えっ!そんな身も蓋もないことを」

「ははっ。だから、この場所はエンディングだと言っただろう?先にここに来たって事はストーリーなんかあってないようなもんだろう」

「ぐっ……それもそうか」


 朗らかに笑う仙汰からは全く狂気を感じない。他の三人は話しているとほんのりと仄暗い感情が伝わってくるというのに。


「俺はボディーガードなんだよ」

「ボディーガード?」


 仙汰はこちらをみてニッと笑った。


 ストーリー上での仙汰との出会いは学校の帰り道。出現条件が揃った次の日の放課後らしい。

 その日は何故か一人で帰ることになった主人公は、居眠り運転の車に轢かれそうなってしまう。そして、それを助けてくれるのが仙汰。


「……え?何で?だって今……あれ?」

「出現条件が揃えばこちらから干渉出来る様になるからな、そちらから扉の鍵を開けてもらえれば、こっちのもんだ。俺のストーリーの上で出てくる場所に呼び出させてもらった」

「って事は、このイベントはイレギュラー?」

「イベントっていうカテゴリーに入れるとそうだな」


(本当にコイツはキャラクターなのか?あまりにも話が分かりすぎる)


「そっちからしたら不思議だろうな……俺もな最初はそうやってストーリーに沿って梨穂子と出会った……しかし、気がつけばまた最初から何度も何度も出会うんだ……流石におかしいと思うだろう?」

「記憶が……引き継がれているってこと?」

「そういうことになるな……」

「じゃあ、もしかしてあの三人も?」

「記憶を引き継いでるだろうな。……さてストーリーの続きは……」


 仙汰と出会ってからは、主人公には一人で帰るという選択肢が増える。だが、一人で帰る主人公には必ず誰かがストーキングしているらしい。主人公が身の危険を訴えると仙汰が主人公のボディーガードとして名乗りを上げてくれるのだ。

 そうすると、それから起こるかくれんぼは仙汰を呼び出せるようになるらしい。仙汰が来てくれることで生存率は格段にアップするが、二人のどちらかが殺されてもゲームオーバーになるので、リスクも上がる。


「へぇ……それで?結局ハッピーエンドはどうすればいいの?」

「あの三人のヤミを祓うんだ」

「は?急に展開が……」

「何故だ?」

「あっそういう世界なんですよね。すみません」


 かくれんぼを行い、三人のヤミを祓う事で大団円のハッピーエンドになるらしい。


「でもどうやって?」

「かくれんぼ中のビーストを倒すんだ」

「えっ、物理で?!」

「ちげーよ。物理で相手を殺してしまった時点でゲームオーバー」

「こっちは殺りに来られてるのに」

「本体の人格とビーストの人格を切り離すんだが、それにはアイテムが二つほど必要でな」

「ほう」

「一つは各キャラクターのシナリオをクリアするとゲットできる。ビーストを祓うためのアイテム」

「え?!じゃあ三人をクリアしないとゼータエンドは不可能なの?!」

「いや、普通にトゥルーエンドはあるけど……ちょっと後味悪い。だがそれでビーストを切り離すためのアイテムを手に入れることができる。それが二つ目だ」


 なるほど、出現条件条件も厳しい上にハッピーエンドの条件まで必要とは……。


「えーじゃあ何で今回はゼータに出会うように梨穂子は言ったんだろう?」

「お前の目的は何だ?ハッピーエンドなのか?」

「え?……あ、ここから出ることだ」

「だったらハッピーエンドは関係ない」

「そうなの?」

「俺と梨穂子でクリア済みだからな」

「……それでも梨穂子はゲームから脱出出来なかったってこと?」


 仙汰はコクリと頷く。


「じゃあ……どうすれば……」

「そう、それを俺と梨穂子は考えた……考えた結果がアイツらの封印だ」

「封印?」

「ここから出れない原因は間違いなくあの三人。奴らがこのゲームのシステムに干渉しているに違いない」

「……どうして……こんな事を……」

「わからないか?アイツらの大事な大事なヒロインさんとやらをどこにもやりたくないからだよ。ここに閉じ込めて永遠に共にありたいんだろう……シナリオの中でな……」

「……そんな事……許されるわけ……」

「そうだ、許されない。だから俺が手伝う。……梨穂子も……まだここに居るんだろう?」

「……うん」

「俺は梨穂子に惚れてるんだよ……だからあいつを救いたい」

「離れることになっても?」


 ビクリと仙汰の肩が動いた。そして、なんとも言えない笑顔でこちらを向いた。


「俺は……単なるデータなんだろう?梨穂子にしてやれる事はこれくらいなんだよ」


 あまりにも切ないセリフに葛は何も返せなかった。

拙い文章を読んで頂きまして、ありがとうございました。

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