修学旅行2 藍と行き先
自分から誘えるような相手も見当たらず、誘ってくれたら嬉しいなと…修学旅行のグループ決めは内心そわそわしていた。もしも自分が一人になってしまったらどこのグループに入ることになってしまうのだろう。もし噂好きなあの女子グループや話したこともない人のグループに入ったら…自分は地元を離れる二泊三日を生き抜けるか不安だった。最悪の場合…どうにか休みたい。けれど親が許してはくれないだろう…。一人でどこかへこっそり近間のホテルに泊まるにしても万が一バレてしまったら……
などと、どんどん悪い方にばかり頭がいって不安で青ざめていると柚葉が誘ってくれた。珊瑚も一緒で安堵する。それだけでまだ修学旅行がずいぶん怖いものでなくなったようにも思える。…本当にこう、自分で誘えるようなタイプなら選ばれるかどうか固唾をのんでいる必要もないだろうに…。こんな自分に絶望する。
そして、少し予想はしていたけれど…神井くんと野川くんも一緒のグループになったようだ。正直とても不安。明らかに三角関係ができているから……。「神井たちも一緒のグループ入りたいんだって!いいよな!?」そう言われたら嫌とは言えない…。どのみち決定権は私にないと思う。
行先を決める間、他人事のような立ち位置でみんなの話を聞いて相槌を打っていた。
「羽賀さんはどっかないの?」
不意に野川くんが聞いてきて、頭が真っ白になった。
「え……っと……。」
何だろう、何があるだろう。どこか行きたい所…。私も行ったことのない地だから詳しくないけれど…。
言葉が詰まって、みんなの視線が痛くて怖くてどうしようってなる。
でも、そうだ……。もし行けるならどこか神社に行ってみたい。
そう伝えてみようと勇気を出して口を紐解こうとした瞬間。
「藍はそういうのないんじゃない?」
バッサリ柚葉に言われてしまった。
確かに……ハッキリと場所を答えられない。行先を知ったのはこの授業の開始時だったから…。いや、そんなこと言い訳で。みんなについていくしか考えてなかったし、自分の意見を言うのは慣れてない…。
「………。」
「藍ちゃんも何かあったら希望出してね」
珊瑚が優しく笑いかけてくれる。言って…いいのだろうか。
…むしろ本当はすぐに答えなかった私に怒ってたらどうしよう。珊瑚は優しいけれど、なんとなく時々怖く感じてしまう。そんなことを思うなんて申し訳ないのに。
「うん……」
そう返すことしかできなかった。本当に私はダメな人間だ…。
「楠さん優しい~~~!超天使だわぁ~~」
「ふふ、神井くん大げさなんだから」
気が利いて、笑顔を振りまける珊瑚、顔にもすぐ出る行動派の柚葉。どちらにも助けられているのに私は本当になにも得意なことがない。
「俺はここに行きたいなー」
「野川くんのは…時計屋さん?」
「有名ブランドの店。俺の好きな選手がここのメーカー好きらしくてさ。サインも飾ってるんだぜ!地元で店主とダチなんだって!この辺歩いてたら本人に会えるかもしんないしさ~!!サインもらいたいんだよねぇ」
野川くんが言う選手というのは誰か分からないけれどきっと有名んスポーツ選手なのだろう。それを聞いて神井も自分が行きたい場所を出す。珊瑚を気遣ってか趣味を知りたいだけなのか、スイーツ店・書店・楽器店・有名の食事処などを次から次へと提案するも珊瑚はハッキリしなかった。そこまで興味がないのか柚葉がイライラしているのを気にしているのか分からないが。
そんなこんなで話し合い一日目は終わった。一応自分でも…行きたい場所を調べてみよう。そう藍もひっそり思ったのであった。